2022.05.22
沖縄本島北部から数キロのところに伊江島という人口4千人の離島がある。伊江中学校はこの島唯一の中学校だが、同校バスケットボール部の生徒たちは昨秋からテクノロジーを駆使し遠隔で指導を受ける“リモートコーチング”に取り組み、その成果を5月7日の琉球ゴールデンキングス対広島ドラゴンフライズ戦の前に沖縄アリーナ(沖縄市)のコートで披露した。
Bリーグではコート外でも、社会貢献イニシアチブのB.HOPEを通じて環境や貧困、ジェンダーといった社会が抱える課題に取り組んでいる。同イニシアチブでは、今年1月に沖縄アリーナで開催予定ながら新型コロナウイルスの影響で中止となったBリーグ・オールスターゲームに伴い“B.HOPE ACTION DRIVE TO DREAM”と題し、沖縄県が抱える貧困や子どもの格差解消や教育機会の保障、コロナ禍による活動制限といった課題にバスケットボールを通じて一助となり、子どもたちが夢を持ってスポーツや学習に取り組むきっかけを作るためのプログラムを実施。“プロチャレ!(プログラミングチャレンジ)supported by 富士通”、“届け、バスケ! supported by 日本郵便”、“ECOLOGY PASS – エコバッグ贈呈式”はすでに完了し、オールスター中止によって延期となっていたリモートコーチングだけが残っていた。しかし今回、同7日の琉球対広島の試合開催日に併せて、ようやくスキルズチャレンジが実現する運びとなったのである。
“リモートコーチング supported by SoftBank”が開始したのは昨年11月末。Bリーグトップパートナーのソフトバンク株式会社が提供するオンラインレッスンサービスの”スマートコーチ”と、カメラを装着し映像に写るコーチが目の前にいるかのように感じることのできる“VRドリル”を駆使しながら、進められた。スキルチャレンジは通常、B.LEAGUE ALL-STAR GAMEでもプロ選手が参加し行われる。ドリブル、パス、シュートの3要素が盛り込まれており、タイムの速さを争うコンペティションだ。伊江中の子どもたちもスキルチャレンジで成果を出すために、リモートコーチングを通じて技量を磨いてきた。
スマートコーチを使っての取り組みでは、子どもたちの練習模様を動画で撮影し、専用のアプリにアップロード。それに対して与那嶺翼ヘッドコーチら琉球U18チームのコーチ陣が「(ドリブルでは)しっかりと肩を入れながらクロスしよう」「今のパスは丁寧さがあってグッドだったと思います」といった具合で、音声によってフィードバックを送るという形だった。VRドリルでは、琉球の岸本隆一と並里成がシュートやドリブルの実演を交えながらアドバイスを送った。
そしてスキルズチャレンジ本番。子供たちは普段練習する体育館とは違う、広いプロ仕様のコートでの試技に最初は緊張気味だったが、徐々にそれもほぐれ、笑顔も見られるようになった。優勝したのはリモートコーチング開始時から18秒もタイムを短縮する記録をマークした大城春裕くん。終了後のセレモニーでも「信じられない」といった顔つきで終始ポカンとしていた2年生には、岸本、並里両選手のサインの入ったボールがプレゼントされた。
3年生でキャプテンの内間裕飛くんはチーム屈指の実力者。スキルズチャレンジではシュートが入らず狙っていた1位のタイムはならずも、達成感を感じていたようだった。
「(空間の)広さとかも違うので緊張しました。タイムは伸びなかったですけど、スキルズチャレンジができて本当に良かったです」(内間くん)
伊江島唯一の中学校でコロナ禍もあって対外試合がなかなか組めないという状況だった同バスケ部。顧問の松田道之先生は、プロのコートを駆け回った子どもたちが「かっこよく見えた」と笑顔だった。
指導をする側で、この日、プロジェクトのスタート以来の再会となった与那嶺HCも感無量の様子だった。自身が中学生の際に伊江中へ合宿で訪れたことがあったという同氏は、琉球はbjリーグ時代には本島以外での試合を開催していたこともあり、離島に対して何かできないかと思っていたところでの今回のリモートコーチングの話をもらえたということで、チームとして感謝の念を示した。
「合計で5カ月くらいですかね。(子供たちの)表情も体つきも変わって、それに伴ってスキルも変わってきます。昨年度から指導させてもらっているんですけども、彼らの動きとかで成長も見られましたし、僕にとってはバスケットを通じて人間形成(の過程を)見ることができ、非常に素晴らしいことなのかなと感じました」(与那嶺HC)
子どもたちはスキルズチャレンジ後、アリーナで販売されるサンドやからあげなどに舌鼓を打ち、併設のグッズストアも訪れた。琉球対広島の試合観戦では、プロの迫力あるプレーに手を叩きながら、興奮の眼差しでコートを見つめていた。
沖縄県文化観光スポーツ部の宮平洋志さんは、同県の離島の子どもたちにとってトップレベルのバスケットボールに触れる機会は本島と比べると少ないため、今回の機会は伊江中の面々にとって「本当に素晴らしいこと」と言葉に力を込めた。
「このようなデジタル技術を活用は、離島を抱える沖縄県にとって必要不可欠なことだと考えております。今回はバスケットボールというフックでしたが、教育や人材育成など、色々な機会に活用できる可能性を感じました」(宮平さん)
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