2019.12.28

“自分たち”のチームで勝ち得たベスト8…富永卒業後の桜丘を牽引した主将・尾崎飛舞

ベスト8で大会を去った桜丘の主将・尾崎飛舞[写真]=大澤智子
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

 このチームは他の誰でもなく“自分たち”のチームだ。

 昨年と比べるものではない。ただ、問題はその“自分たち”をいかに作り出していくか、だった。

「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子準々決勝、優勝候補筆頭の福岡第一高校(福岡県/総体1位)に挑んだのは桜丘高校(愛知県)だった。この対戦は前回大会の準決勝でも行われたもので、そのときは福岡第一が103-72で勝っている。そして今年も、回戦こそ異なるが、やはり福岡第一が87-48で勝っている。桜丘は昨年のリベンジどころか、昨年の成績に追いつくことさえできなかった。

「昨年は(富永)啓生くん(アメリカ・レンジャーカレッジ)がいて、啓生くんを中心に点を取っていたんですけど、今年は全員で点を取りにいこうと。今日のゲームではそれができませんでした」

 そう振り返るのは桜丘のキャプテン、尾崎飛舞だ。

 絶対的なエースがいるわけではない。個々の得点力が高いわけでもない。

 チームとしてどう戦っていくか。そんなチームをまとめるのがキャプテンの役割を尾崎は試行錯誤を繰り返しながら、1年間、務めてきた。

「大変でした。練習がうまくいかないときにどうまとめたらいいのか。誰か1人が点を取りに走ったとき、周りがどう点を取るのか。そうしたことを江崎(悟)コーチと組み立てていきました」

 尾崎自身もけっして頭抜けた選手ではない。スタメンでもなければ、前回大会はベンチにも入っていない。応援席でチームメートとともに応援をしていたのだ。しかもそこで応援をリードするわけでもなければ、太鼓を叩いて応援のリズムを作っていたわけでもない。つまりはごく普通の選手だったというわけだ。

今大会においてもベンチに座る時間は決して少なくなかった[写真]=大澤智子

 そんな彼をキャプテンに指名したのは江崎コーチだと尾崎が明かす。

「選手は、コンディションや練習後のコメントを江崎コーチにスマホで送るんです。そういうアプリがあるんですね。で、みんなは自分のことを書いていたようなんですけど、僕はチームのことを書いていたので、『お前は周りが見える』とキャプテンに指名されました」

 もちろんビックリした。昨年の先輩たちがウインターカップで3位になったこともあって、プレッシャーもあったと尾崎は認める。しかしチームは県大会で優勝し、東海ブロック大会でも優勝を果たした。ならば俺たちは、先輩たちに及ばないにしても、全国でベスト8を目指そうぜ。チームでそう決めた。

 しかし第1シードで迎えた高校総体ではまさかの初戦敗退。ウインターカップの愛知県予選でも中部大学第一高校に大敗を喫した。チームのみならず、キャプテンである尾崎の心もかなり揺らいだに違いない。ウインターカップまでにどうすればいいのか……。

 ただその不安は杞憂に終わる。

「ウインターカップの予選で中部大一に大差で負けてから、みんなの気持ちが入れ替わったんです。それまでは自主練のときも、どこか遊び感覚だったんですけど、負けてからはみんなが(敗因だった)3ポイントシュートの練習に力を入れ始めたんです」

 その変化こそが今大会で桜丘がベスト8まで進めた一番の要因なのだろう。江崎コーチに指導されるだけでなく、自分たちで自主的に、積極的に取り組む練習ほど効果的なものはない。

 先輩たちがつかんだ準決勝進出には及ばなかった。

 しかし一人のエースに導かれるでもなく、頼るでもなく、今年のチームが“自分たち”で勝ち得た準々決勝進出は、昨年の銅メダルよりも価値のあるものだった。

文=三上太

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