2023.02.09

東北に吹き荒れた新風…東北高校新人決勝は初の福島決戦で帝京安積が初優勝

東北新人大会で初制覇を遂げた帝京安積。1位の賞状を持つ大栗拓真キャプテンと水野優斗コーチ[写真]=小永吉陽子
スポーツライター

初となる福島同士の決勝。帝京安積vs福島東陵

 2月4日から5日にわたり、第33回東北高等学校男女新人バスケットボール選手権大会が福島市にて行われた。実に3年ぶりの開催となった。

「東北地方は試合経験が少ない」とは、ここ数年、東北地方のチームを取材するたびに聞いてきた言葉だ。パンデミックの影響により、東北は昨夏のブロック大会と今冬の新人ブロック大会の開催が(九州を除き)他ブロックより1年遅れての再開となっている。そんななかで、3年ぶりとなった東北新人の開催に喜ぶ声があちこちから聞こえてくるなかで大会が行われた

 今大会はメンバー編成が大きく変わるチームがあるなかで、昨年度から主力選手がそろい、抜群のコンビネーションを見せるチームがあった。それが東北新人に初出場で初優勝を果たした帝京安積高校(福島1位)だ。

 チームを率いるのは赴任6年目の水野優斗コーチ。父は現在福島商業高校を指導し、福島南高校時代には2016年にインターハイでベスト4へと導いた水野慎也コーチ。長女の妃奈乃はシャンソン化粧品、次男の幹太は京都ハンナリーズで活動するバスケ一家。「僕も妹と弟に負けずに頑張りたいし、指導者として常に父の背中を追ってきました」と語る28歳の若きコーチだ。

 帝京安積は準決勝の仙台大学附属明成高校(宮城1位)戦に勝負をかけた。運動量の多いローテーションディフェンスでかく乱し、オフェンスではパス&ランのコンビネーションプレーに加え、3ポイントを11本決めて87-75で勝利。出足こそ後手を踏んですぐにタイムアウトを請求したが、その後はこの試合で42得点を決めたエースの菅野陸を軸に追い上げ、第2クォーターのスコアを27-16として引き離した。後半は明成が猛追して差を縮めるが、帝京安積は追いつかれた直後にはランニングプレーで逆転を許さず、87-75で勝利。水野コーチが「できすぎなくらいシュートが入った」と評価するほど、要所でのシュートが落ちない試合だった。

 決勝は準決勝で明成を破った帝京安積と、羽黒高校(山形1位)を下した福島東稜高校(福島2位)が対戦。東北新人では初の福島決戦となった。

 福島県の新人大会の決勝リーグにおいて、帝京安積、福島東稜、福島南が2勝1敗の三つ巴となり、得失点差で帝京安積が1位の座をつかんでいる。しかし、県新人で帝京安積は福島東稜に敗れていることから雪辱戦となり、明成に勝利した勢いをそのままに、最後まで走り切って106-77で完勝。初の東北新人大会を制覇した。

オールアウトの布陣でどこからでも攻められるシュート力が武器。帝京安積のエース菅野陸[写真]=小永吉陽子


 帝京安積は東北で急浮上したチームではあるが、ここ数年で強化を図っており、その積み重ねが実った結果だった。主力の2年生は1年次から試合経験ある選手が多く、コンビネーションプレーの熟成度において、現時点では東北で頭一つ抜けていた。チーム最高身長は186センチだが、ローテーションして守り抜くディフェンス力が光る。ゲームキャプテンでエースの菅野陸は「チームメートが何をするかわかっていて、呼吸が合っていることが僕たちの強み」と語り、東北初制覇に自信をつかんでいた。

 注目の1年生留学生アデバヨ オニロルワジョセフ(203センチ)と機動力あるガード陣を擁する福島東稜は、福島高校時代にインターハイとウインターカップ出場へと導いた渡部浩一コーチが昨年11月の新人戦時よりチームを率いている。1年生でコートに立つ選手も多く、発展途上ながらポテンシャルのあるチームだ。今後は高さと速さを融合させることが課題となる。

留学生アデバヨの高さだけでなくガード陣の機動力も光る。福島東稜の得点源、皆川智哉[写真]=小永吉陽子

今後の成長に期待したい明成と羽黒

 昨年末のウインターカップから1か月あまり。東北の注目チーム、明成と羽黒にとっては、新チーム始動時の脆さが出た大会となった。

 明成はウィリアムス ショーン莉音と佐藤晴らインサイドが軸となり、羽黒は昨年のU17代表で躍動したシューター、小川瑛次郎を擁している。ただし、明成は得点源のガードコンビが抜け、羽黒は大黒柱だった3年生ポイントガードの不在を補うべく奮闘中。どちらもチーム作りには時間を要するが、成長の余地があるため、これからのチームといえるだろう。各校ともにスタートを切ったばかり。3年ぶりに再開した東北新人で得た経験を糧に、今後の成長に期待したい。

ミドルシュートのシュート力がついてきた明成の新キャプテン、ウィリアムス ショーン莉音[写真]=小永吉陽子


「『やってきたことは間違いではない』と手応えをつかんだ大会でした。去年から試合に出ていた選手が多く、オールアウトの攻撃でどこからでも点を取り、ディフェンスを激しく頑張ることが強みです。シュートが上手い選手が多いので、『一緒に頑張ろう』と勧誘したときから、東北大会で優勝できると思っていました。目標はインターハイとウインターカップの出場権をつかみ、全国大会のメインコートに立つことです」(帝京安積・水野優斗コーチ)

「準決勝まではいいパフォーマンスで勝ち上がれましたが、決勝ではスタミナ不足で動けず、エナジーを出せませんでした。新チームになった11月から私が指導して3か月。選手たちと過ごした時間が短く、今は信頼関係を築いているところです。この東北大会で学んだことをどう力に変えていくか、挑戦していきます」(福島東稜・渡部浩一コーチ)

「大事なところでゲームメイクからミスが出て自分たちを見失ってしまい、技術よりもメンタルの差を感じました。今年は元気があって、いい集団になっていく可能性があるチームです。いい集団になれる練習をこれからも続けていき、『この敗戦があったから強くなった』と言えるように、これからチームを作っていきたい」(明成・佐藤久夫コーチ)

「準決勝では東北では経験したことのない高さとアジリティ能力があるアデバヨ選手にやられてしまいました。あと1か月あれば…と思いましたが、経験不足です。現時点では2試合戦い抜く体力も足りません。春先にかけて基礎的な体力アップからみっちりとチームを作り、サイズのなさを補う工夫ある戦い方を見つけていきたい」(羽黒・齋藤仁コーチ)

「何でもできる選手になってきた」とコーチからの信頼が厚い羽黒のエース小川瑛次郎[写真]=小永吉陽子


文・写真=小永吉陽子