2023.12.29

「彼女はイチローのような選手」と恩師が語った絈野夏海…五輪選手を目指す将来に期待

今大会圧倒的な存在感を放った岐阜女子の絈野 [写真]=伊藤大允
バスケットボールキング編集部。これまで主に中学、高校、女子日本代表をカバーしてきた。また、どういうわけかあまり人が行かない土地での取材も多く、氷点下10度を下回るモンゴルを経験。Twitterのアカウントは @m_irie3

「彼女はイチロー選手(元プロ野球選手)のように努力を続けられる天才」

 岐阜女子高校(岐阜県)の安江満夫コーチが評したのは、自チームのエース、絈野夏海(3年)のことだ。

 12月28日、「SoftBank ウインターカップ2023 令和5年度 第76回全国高等学校バスケットボール選手権大会」は大会6日目を迎え、東京体育館で行われた女子決勝で京都精華学園高校(京都府)と岐阜女子高校(岐阜県)が対戦した。

 試合は36-24と前半で12点ものビハインドを背負う展開になった岐阜女子が後半に入ると怒涛の追い上げを見せる。守ってはゾーンディフェンスで相手のセンターを抑えるとともに、オフェンスの中心になるのはもちろん絈野。この最後の20分間だけで、20得点を挙げる活躍を見せた。

 3回戦で桜花学園高校(愛知県)に対して最大21点ものビハインドから逆転勝ちする原動力になったのをはじめ、チームの危機を幾度となく救ってきた。決勝でも第4クォーター残り4分20秒、この試合で8本目、今大会通算27本目3ポイントシュートを沈めると、京都精華学園を2点差まで追い詰める。

3ポイント27本成功は大会新記録 [写真]=伊藤大允


 ただここで意地を見せたのが京都精華の3本柱、堀内桜花、八木遥香、ディマロ ジェシカだ。勝負を決める大事な場面で堀内の強気のアシストから八木とジェシカが得点。岐阜女子を振り切り勝利を引き寄せる。

 岐阜女子は絈野の得点以降、逆に京都精華学園の守りを崩せず、そこからの得点は3点のみ。大会連覇を目指す王者を追い詰めたものの、勝利を手繰り寄せるまでには至らなかった。しかし、絈野がこの大会で見せた数々のパフォーマンスは多くのファン、関係者の度肝を抜き、大きいインパクトを残したことは間違いないだろう。

 試合後の記者会見で絈野就いて聞かれた岐阜女子の安江コーチは絈野の第一印象を語った。

「中学時代の実績もそれほどなく、彼女の方から『岐阜女子のバスケをしたい』と言って入学してきました。シュート勘のいい子だなと思いましたが、特筆すべき存在ではなかった。しかし、彼女は一生懸命ができ、非常にハングリーな子でした。このような選手に育ってくれたのは指導者冥利に尽きます」

 さらに「高校生活はこれで終わりなので、最後に本当にご苦労さんという言葉を(試合後)心からかけてあげました。これからまたもう一つ上のステージで頑張ってくれると思うので、個人的にも応援したいと思います」と、エールを贈った。

表彰式で悔し涙を流す絈野[写真]=伊藤大允


 一方の絈野は試合終了から時間が経っていたこともあり、冷静で時に笑顔を交えて報道陣の質問に応じた。

「インターハイであのような結果(2回戦で京都精華学園にオーバータイムの末、72-83で敗退)だったので、決勝まで来られたことにはたくさんの方へ感謝しています。2位という結果に満足はしていませんが、このチームで戦った結果なので、胸を張っていいかなと思います」

 安江コーチがイチローのようと絈野を評したことについて聞かれると、「自分の性格上、普段からコツコツやるタイプ。自分は必ずこのチームを日本一にしたいという思いがずっとあったので、その目標に向かって毎日、それを思っていました。手を抜くことはせずにやってこられたので、こういう選手になれたと思います」とコメント。

「安江先生は『バスケの神様がいるので、一生懸命取り組んでいればそれを見ていてくれる』とおっしゃいます。私もそう思っていて、桜花戦もそうですけど、努力は報われると思うので、自分はこれからもそうしていきますし、後輩たちもこんな私の姿ですけど、それを見て何かを感じてくれたらと思っています」

岐阜女子OGの林[写真]=兼子愼一郎


 岐阜女子に進学を決めた理由については、「林真帆さん(現東京医療保健大学4年)の代の試合を見て、堅いディフェンスにびっくりしました。それで岐阜女子でバスケをしたいと思いました」と、2年次にウインターカップ優勝、3年次に準優勝を遂げた卒業生の名前をあげて、入学のきっかけにしたことを明かした。

「そして2つ上に長野県から進学された藤澤夢叶さん(現山梨学院大学2年)に昔から憧れていたので、その先輩を追いかけていたこともあります」という絈野。1年生のときに初めて先発に抜擢された東海大会の桜花学園戦で「頭が真っ白になってしまって。その後のインターハイでは先発で出られませんでした。その悔しさがあってウインターカップでしっかりとスターターでコートに立つことができて。1年のときからこういう経験をさせていただいたことで自分は成長できたと思います」と振り返った。

 卒業後は東京医療保健大学に進学する絈野は、「日本代表になること、オリンピック選手になることが目標です。たくさんの方が応援してくださるので、その期待に応えたいということもありますし、自分のバスケットボールで誰かに勇気だったり夢だったりを与えられる選手になりたいと思います」と将来像を語った。

 最後に「岐阜女子に来て、本当に良かったと思います」と笑顔を見せた絈野の今後が本当に楽しみだ。

文=入江美紀雄

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