2023.12.29

名古屋U15から福岡第一へ…アピアパトリック眞、決勝戦も走って守って「全部出しきる」

苦難の時期を乗り越え、決勝で全力を尽くす覚悟のアピア [写真]=伊藤大允
フリーライター

「アピアはリバウンドとフィジカルの強さがありますし、195センチで走れたり泥臭いプレーをしたりできる。そういう日本人選手は他のチームになかなかいないと思うので、僕としてもすごく助かってます」

 福岡第一高校(福岡県)の不動のパワーフォワードとして攻守で躍動する世戸陸翔(3年)は、チームメートについてそう話す。

 アピアパトリック眞は、エースの崎濱秀斗(ともに3年)と同様に今回のウインターカップから戦列復帰した選手だ。コートに立てなかった期間は、9月にケガを負った崎濱よりも長い。それだけに、周りの選手よりも苦しくて悔しい時期を過ごし、高校最後の大舞台で持てる力を最大限に発揮しようとしている。

 アピアが不運に見舞われたのは3月中旬。鹿児島県で行われた「第53回 全九州高等学校バスケットボール春季選手権大会」で左膝を負傷してしまった。U16・17の日本代表メンバーにも選出された195センチのインサイドプレーヤーの長期離脱は、チームにとっても大きな痛手だった。

「Bチームのメンバーはケガをしてなくても試合に出られないので、復帰したらそういった選手たちの気持ちをこれまで以上に背負ってプレーしなきゃいけないとずっと考えていました。リハビリ期間中は筋力を落とさないようにトレーニングを頑張りましたし、その甲斐もあってドクターから早めに復帰の許可が出ました」

 迎えた「SoftBank ウインターカップ2023 令和5年度 第76回全国高等学校バスケットボール選手権大会」では、1回戦の仙台大学附属明成高校(宮城県)戦から先発を任された。しかし、アピアは納得のいくプレーができず、「全部出しきるつもりでコートに立ったんですけど、やっぱり緊張が上回ってしまいました」と振り返る。3回戦からはベンチスタートとなり、準々決勝の東山高校(京都府)では2分ほどのプレータイムで2つのミスを犯してしまった。

 12月28日、藤枝明誠高校(静岡県)と決勝進出をかけた一戦では、東山戦に引き続き第2クォーター開始からコートイン。第3クォーターにもコートに立った背番号44は、同クォーター残り35秒に崎濱のアシストからシュートを沈めた。相手のゴール下から自軍のゴール下まで駆け上がっての得点。「アピアがうまく走ってくれましたね」と、本人だけでなく井手口孝コーチも納得のプレーだった。

「毎試合成長しなきゃいけなかった中で、前の試合までは自分が迷惑をかけてばかりでした。でも、今日の試合は走って得点を取れて、留学生を抑えることも任されたので少し信頼を勝ち取れたかなと。自分としてもいい状態に持ってこられたと思ってます」

 愛知県名古屋市出身。小学校時代は空手にも打ち込み、「本格的にバスケットを始めたのは小6くらいから」。中学時代は名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15でもプレーし、「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2021」では日本一にも輝いている。当時から身長は195センチで、体重も90キロを超える恵まれた体格だったが、所属クラブでは主力を担う存在にはなれなかった。

名古屋U15時代のアピア [写真]=B.LEAGUE


「U15の時は他のチームメートより走る力が足りなかったですし、試合では自分よりサイズが小さくてもフィジカルが強くて走れる選手が起用されてましたね。自分もフィジカルでは負けてなかったので、将来、日本代表で活躍するためにも走る力をつけたいなと思ってました」

 そんな矢先に、幸運にも井手口コーチから誘いがかかった。“走る”といえば福岡第一。アピアは全国屈指の強豪校の門を叩き、そして今は大ケガを乗り越え、高さと力強さ、走力を兼ね備える貴重なインサイドプレーヤーに成長を遂げた。

 決勝で顔を合わせる福岡大学附属大濠高校(福岡県)にとっても、195センチ98キロの走れる日本人選手に対して見て見ぬふりはできないだろう。2023年を締めくくるウインターカップの最終試合、アピアパトリック眞のプレーに期待せずにはいられない。

取材・文=小沼克年

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