2023.12.29

真のエースへと成長したウインターカップ…八村塁が「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」と言える理由

3連覇の中で「特に大変だった」と振り返る2年次の大会[写真]=一柳英男
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

現在開催中の「ウインターカップ2023」にあわせて、過去にウインターカップで輝いたスター選手をピックアップ。今回は明成高校で大会3連覇を成し遂げた八村塁の活躍を振り返る。

■年々「楽しさ」が増したウインターカップ

「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」――。

 明成高校時代、八村塁がウインターカップの優勝インタビューで発した名言を覚えているファンも多いだろう。激闘を制したあと、八村塁はいつも満面の笑顔で「バスケが楽しい」と答えていた。しかも3年連続で。

 1年生の時の八村は、3年生の中に一人だけ1年生センターとして名を連ね、先輩からのパスを受けて自在に攻めていた。しなやかなポストプレーやポジション取りのうまさに会場は騒然となり「あの1年生は何者?」と見る者をどよめかせた。「楽しかった」とニコニコしながら優勝インタビューに答えるその姿に大物の片鱗をのぞかせていた。

 2年生になると、明成はオール2年の布陣で挑み、福岡大学附属大濠高校と2年連続の決戦を制して連覇を達成した。インターハイでは八村と納見悠仁の2人がU17ワールドカップに出場したことで決勝だけ不在となり、大濠に敗れて準優勝に終わるが、ウインターカップで夏の借りを返したのだ。優勝インタビューで八村は「(佐藤)久夫先生を優勝させたかったので、それができて本当に良かったです」と感想を述べたあと、「バスケはすっごい楽しいです」と笑顔で勝利を噛みしめていた。

高校3年次の八村[写真]=一柳英男


 3年の決勝は、レベルの高い攻防の末に明成が土浦日本大学高校を78-73で下して3連覇を遂げた。試合は松脇圭志杉本天昇の両シューターが当たった土浦日大が先行して進み、明成は八村のリバウンドとインサイドプレーで我慢の時間が長かった。そこでようやく、第4クォーターにディフェンスを強めたことで納見のシュートが当たりだし、一気に突き放したのだ。もはや、お約束となった恒例の優勝インタビューで八村は、「バスケはすっごい、すっごい楽しいです」と満面の笑顔を見せた。

「楽しかった」「すっごい楽しい」「すっごい、すっごい楽しい」と、年々「楽しさ」が増していったように、八村自身のプレーも学年を重ねるごとにパワーアップしていった。見る者たちもその成長ぶりに心を奪われ、「スポーツは楽しい」という原点を一人の高校生に気づかされたのである。

■決勝の大舞台で覚醒した2年生軍団

 優勝インタビューで「楽しかった」と答えている八村だが、3年間楽しく練習してきたわけでも、簡単に3連覇できたわけでもない。チーム一丸となってさまざまな課題に取り組み、困難を乗り越えたからこそ、そこで得た達成感や充実感が「楽しい」という感情になったのだ。

 実際のところ、どの代の優勝も一筋縄ではいかなかった。1年のときは4年ぶりの栄冠で、2年次はオール2年生で成し遂げ、3年次はどこのチームも「打倒明成、打倒八村」で向かってくる中で各自が対応力をつけてつかんだ優勝だった。その中で、とくに大変だったのは「2年生のウインターカップ」だと八村は言う。

 八村が2年のときの明成は、3年生部員が一人しかいなかったため、2年生にもリーダーシップが求められた。八村と納見がU17ワールドカップに出場する代表選手だったこともあり、佐藤コーチは2人に対してとても厳しい要求をしている。八村は卒業時にこう振り返っている。

「高校時代に久夫先生から学んだのは、バスケの技術はもちろんですが、一番は『男になれ』と言われて心の面で大人になったことです。中学までの僕はサボリ癖があったんですけど、久夫先生に『エースの風格を持て』『苦しいときこそチームメートを助けろ』と毎日のように言われて練習していました。それで、心の面から変われたんです」

高校時代にメンタル面でも大きな成長を果たした[写真]=一柳英男


 そうして、真のエースになるべく脱皮したのが2年のウインターカップ決勝の福大大濠戦だ。試合は接戦ながらも明成が追う展開で、シューターの三上侑希が徹底マークにあい、打てども、打てども当たりが来ない苦しい展開だった。

 選手たちが打開しようともがいている姿に佐藤コーチは、「選手に任せようと決心した」と試合後に明かしている。極力タイムアウトの請求を我慢し、選手の自主性を引き出す。それは、八村塁という規格外の選手を預かる者として、成長させるための覚悟の采配だった。そこで迎えた大一番のシーンで、2年生軍団たちに『自立心』が芽生え『覚醒』していくのだ。

 残り2分、八村が同点シュートを決めたあと大濠がタイムアウトを取る。このとき、明成ベンチではシュートを決めきれずにいた三上が、悔しさと申し訳ない気持ちから声を上げて泣き出していた。2年生チームゆえに精神的な脆さをのぞかせた涙だったが、一方で、自分で解決しようと戦っている最中でもあった。ここで八村が三上を抱き寄せて励ますと、他の選手たちも「いいから打て、打て!」「ここ勝負だぞ!」と声を掛けあう。まさにこのとき、若きチームが独り立ちするのである。そして、涙を振り払った三上は再び気合いを入れ、タイムアウト後に難しいタフショットを決めてみせるのだ。

■八村劇場だった残り1分間の攻防

 奇跡はここで終わらない。残り1分を切って69-69の同点。ここで福大大濠の牧隼利がドライブをしてダンクに踏み切ろうとすると、八村が豪快なブロックで阻止。さらにブロックしたあとのこぼれ球を自らで奪うと、ノーマークで構えていたシューターの富樫洋介にパスを送る。そのシュートが外れるやいなや、今度はゴール下に跳び込んでタップシュートを決めて71-69で再逆転。これが決勝点となって2連覇を達成した。

 苦しい時にチームメートを励まし、誰よりも高く跳んで空中戦を制し、みずから決勝点を決めてみせる。まるで八村劇場のような1分間の攻防は、高校バスケ史に語り継がれる名シーンだといえよう。佐藤コーチが求めていた『エースの風格』をまとった姿がそこにはあった。

 1年後の2015年12月29日。土浦日大との決勝で八村塁は34得点、19リバウンドを記録し、3年連続ベスト5を受賞。明成は能代工業、洛南に続き史上3校目となる3連覇を達成。明成の大黒柱である八村塁は、お決まりのフレーズを晴れやかに言うのだった。

「皆さん、バスケはすっごい、すっごい楽しいです!」

3連覇を果たし、満面の笑みを浮かべる八村[写真]=小永吉陽子


文=小永吉陽子

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