2018.01.26
バスケットボール日本代表として活躍し、引退後は古巣の熊谷組、大和証券、日立(現サンロッカーズ渋谷)、日本代表などでヘッドコーチを歴任。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授を務める倉石平(くらいし・おさむ)氏に、FIBAバスケットボール ワールドカップ2019 アジア地区 1次予選として11月に行われた日本代表のフィリピン戦(24日)とオーストラリア戦(27日)戦を振り返ってもらった。2連敗を喫したとはいえ、倉石氏は「このようなチームを作ったことは素晴らしいと思います」と、フリオ・ラマスHCの手腕を称賛した。
インタビュー・構成=村上成
国際経験の浅さから出足の過緊張となったフィリピン戦
ワールドカップ アジア地区1次予選のWindow1、フィリピン戦(71-77で敗戦)は、選手、協会などすべての方々が「この試合は絶対に負けられない」というすごいプレッシャーを感じていたと思います。さらに、ロースターには国際経験の浅いプレーヤーが多く、過緊張になっていたことは確かです。特に第1クォーターは、シュートパーセンテージ(33パーセント)がとても低かったです。
ただし、こういった経験を積めば積むほど、どういった対処をしていけばいいのか理解できてくると思います。国際経験ももちろん大事なのですが、昨年から始まったBリーグのレギュラーシーズン60試合も経験値になると思います。これまでは年間30試合程度でしたので、一気に60試合に増えて大変ではありますが、この長丁場を乗り越えることは体力面に加えメンタル面もタフにしてくれるはずです。
フィリピン戦に関しては、出足の過緊張がすべてだと思います。立て続けに得点を取れる時間帯がほぼなく、どこか後ろ髪を引かれる思いがあったのかもしれません。とはいえ、もっと上のレベルになると、あのような過緊張を楽しめると思います。今までのリズムや雰囲気の違いなど様々な条件がハマって、もっと言えば結果を先に感じるから緊張するんですよね。目の前のことだけに集中できるようにならないといけないわけで、1つ1つのプレーをしっかりとやっていれば、過緊張はなくなっていくはずです。最初から結果はどうなんだろうと思うと、怖くて何もできなくなり、チャレンジもできません。ですが、これも経験が必要です。
その点、フィリピンはバスケ大国であり、彼らは子どもの頃から様々な経験をしていると思います。敵地での試合のためコンディションが悪く、初戦ということで危ないゲームになりましたが、それをうまくコントロールできてしまうのは、経験以外の何物でもないかなと思います。特に(アンドレイ・)ブラッチは体調がすごく悪そうに見えましたが、試合をコントロールして、終盤の一番大事な時間帯でも3ポイントシュートを軽々と決めていました。さすがベテラン、頼りがいがある選手だなと思いました。しかも彼はリバウンドにも絡んで、日本にとって一番つらい部分を突かれてしまいました。さらに、ポイントガードの選手が日本人のポイントガードよりも体格面で上回っていたことも大きかったと思います。
比江島、篠山、ブラウンの活躍を評価する倉石氏
そんな中、20得点5アシストを挙げた比江島(慎/シーホース三河)選手はすごく良かったです。(フリオ・ラマス)ヘッドコーチは、彼がメンタル的にタフだとわかっていたと思うので、わざと馬場(雄大)や田中大貴(ともにアルバルク東京)をスターターにして、比江島を控えから使ったと思います。僕は、メンタルがタフな選手を控えにしたほうが得だと考えています。なぜなら、もしもタフなメンタルを持つ選手がスタートからこけてしまうと、全部がダメになってしまうと思いますので。仮にスタートがダメでも、比江島がいるから大丈夫ということがHCの中にはあったはずです。比江島は期待に応えてくれましたし、そのお陰で馬場なども自分の形を見せてくれました。スターティングファイブとして起用され、タイムシェアで交代されていくうちに、「こうやらなきゃ」、「間違っていた」と感じ取ったと思います。
試合には敗れてしまいましたが、フィリピン戦では篠山(竜青/川崎ブレイブサンダース)、比江島、アイラ・ブラウン(琉球ゴールデンキングス)の活躍がすごく、今までにないほどの集中力を持っていたと思います。篠山は数字に残る活躍こそできませんでしたが、相手にプレッシャーを掛けたり、ルーズボールに飛びこんだりしてチームに貢献したと思います。比江島は本当にエースですね。彼のような選手があと2人くらいいたら勝てたかなと。ブラウンはシュートに加え、果敢にブラッチへ1対1をチャレンジしていました。スピードで相手をかわすことができれば、もっとやれたと思います。
その一方で、チームの雰囲気や流れに入れない選手がいたのも事実です。特にインサイドのプレーヤーたちには、もっと頑張ってもらわないといけないかなと思います。重圧に対して、乗り切れずに弾け飛ぶ選手もいたのかなと感じました。ただ全体的には、HCの言うことを遂行しようとしていたかなと感じました。綺麗なバスケットをやっていて、パスを回してフリーの選手にシュートを打たせるようなバスケットボールでした。最後のシュートが落ちただけであって、バスケットとしてはそんなに悪くなかったと思います。
このアジア地区1次予選は、1試合ですべてが終わるものではありません。あくまでフィリピン戦の1試合が終わったということです。もし仮に勝つだけで良いのであれば、ブラウンや比江島の1対1ばかりで攻めていけば接戦になったと思います。でも、日本としては船出なわけで、ここから戦いはずっと続いていきますし、強豪とも戦わないといけません。「何かを残さなきゃいけない」と考えたら、フィリピン戦のような、自分たちが目指しているバスケットをやらなければいけないと思います。
また、日本で行うホームではもっと騒いで、日本のことを一方的に応援してもいいのかなと思っています。日本人はフェア精神があり、相手の気持ちになってかばってしまうため、他の国とは少し違う見方があるのかなと感じます。他の国に行くと冷たい目を浴びるくらい、偏った応援をしてもいいのかなと思います。ただ、まだホーム戦は1試合が終わっただけです。数年後には、すごく熱狂的な応援団が出てくるのではないかと思います。選手側も応援する側も、もっと慣れていかないといけませんよね。
オーストラリア戦終盤の息切れは体力的な問題が要因
2戦目(11月27日)となったオーストラリア戦は、第1クォーターから第3クォーターまでは結構いい戦いをしていたと思います。特に第3クォーターでは点差が1ケタになる時間帯もありました。オーストラリアはNBAやヨーロッパでプレーしている選手が招集されておらず、2軍か3軍のメンバーでした。サイズやシュート力など、あらゆる面において上のチームとの対戦とはいえ、戦い方としては良かったのかなと思います。
ただし、第3クォーター中盤以降、特に第4クォーターではほとんど何もできない時間が5分ほどありました。そこは体力的な問題です。目に見えないプレッシャーがあり、自分たちより遥かに大きなプレーヤーに立ち向かうには、これだけの体力がいるんだと、まざまざと見せられましたね。彼らが悪いのではなく、そこまでいくくらいの集中力をキープできるような雰囲気のゲームを、今まで経験していないからだと思います。ですので、アウェーのオーストラリア戦もいい経験になったはずです。
Bリーグでは延長戦になるような試合を除いて、終盤に両方がゲームセットという諦めをすることがあるので、終盤にスタミナ切れを起こすシーンはあまりありません。例えば、外国籍選手のオンザコートが1-2-1-2であったとしたら、第2クォーターと第4クォーターではコート上の日本人選手が減るため、体力を温存できます。しかし代表戦となると、主力選手が40分間出ずっぱりになることもあります。出場するプレーヤー8、9人のエネルギー配分や緊張感が、同じレベルでないといけませんよね。
それを身に付けるためには、普段の練習やゲームで、いかに針のむしろに座る気持ちで臨めるか、またはそのような雰囲気を作っていけるかだと思います。Bリーグの中で見てみると、A東京はいいですよね。ルカ・パヴィチェヴィッチHCも心掛けていると思いますし、選手たちからも「怖い」といったことを聞きます。けれど、1分、1秒たりとも無駄にできない、気を抜けない、という雰囲気は非常にいいと思います。
2月の2試合は連勝がマスト
キーパーソンは比江島と馬場、ポイントガード陣
次戦は2月22日にホームでチャイニーズ・タイペイ、25日にフィリピンと対戦しますが、まずホームのチャイニーズ・タイペイ戦は絶対に負けられません。予選グループ4チームのうち1チームだけが落ちますが、その1チームになってはいけません。ホーム&アウェー形式で大変ではありますが、2月の2試合は連勝しないとダメですよね。
キーパーソンを挙げるとすれば、稼ぎ頭になれる要素を持っている比江島はもちろん、馬場にも期待したいですね。多くの得点は取れないかもしれませんが、オフェンスとディフェンスの両方をできる彼の存在は重要になります。あとは、どこのチームもポイントガードの選手の体格が良く、強いんです。富樫(勇樹/千葉ジェッツ)はいい選手なのですが、ディフェンスになるとつらいかなと思います。そこをどうしていくかがポイントです。
篠山は途中から出てチームに勢いをもたらすタイプだと思いますので、スタートは得点まで持ち込むスキルを持つ富樫となるでしょう。今回代表入りを果たした、191センチと高さのある宇都(直輝/富山グラウジーズ)は、いつもならディフェンスされてもシュートを放つのに、ほとんどパスを出してしまい、普段どおりのプレーができていませんでした。現チームには、安藤(誓哉)や小島(元基/ともにA東京)といった強気なポイントガードが必要です。体でバッチリと相手を射止めるくらいの、心身の強さを持っている選手がいいような気がします。
短期間で現チームを作り上げたラマスHC
2月まで期間は短いものの、期待したい
フリオ・ラマスは、これまで世界のトップにいくようなチームと選手を指導してきましたので、日本のレベルを見たことがないはずです。就任直後で何から手を付けていいのかわからなかったことを考えますと、相当いいと思います。今後Bリーグを見ながら、日本人の特質や日本の文化を理解していくと思いますので、これからもっと変化するはずです。短期間でこのようなチームを作ったことは素晴らしいと思います。
ただ、まだまだ自分の色を出せる状況にはなっていないと思います。それでも、あれだけしっかりとチームをコントロールし、綺麗にノーマークを作ったりするのはすごいと思います。明らかにフリーでシュートを放っていましたよね。今回はそれが入らなかっただけです。フィリピン戦は強く意識させていたリバウンドを取れるようになったからこそ、3番(スモールフォワード)、4番(パワーフォワード)、そして5番(センター)の選手が2メートルを超えている相手でも、イーブンに持ちこめたのかなと思います。2月まで時間は少ないですが、期待したいですね。
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