2025.10.27
バスケットボール黎明期からプレーヤーたちの足元を支えてきた「コンバース」は、大胆にシーンへの復帰を果たした。

富樫勇樹着用モデルとして登場した「CONS VICBOUND」
その動きは創業の地アメリカから、すぐさま日本にまで波及。今から約1年前、「コンバースジャパン」は、日本を代表する司令塔、富樫勇樹(千葉ジェッツふなばし)とブランドアンバサダー契約を締結すると、それから約半年後の2025年2月には「CONVERSE BASKETBALL」の本格始動を高らかに宣言。新時代を切り開く『CONS VICBOUND(コンズ ヴィックバウンド)』と、ブランドのDNAを継承する『CONS ACCELERATOR(コンズ アクセレレーター)』の発表は、“名門復活”の鮮烈なアナウンスとなった。
「コンバースには、“バスケットボール専用シューズを世界に初めて広めたブランド”であることの自負とプライドがあります。それを後押しするかのような社内外からの大きな声によって、復活は使命だと感じました」ーーそう語るのは、同社の開発担当、岡本空里也氏だ。
バスケットボールに限らず、「コンバース」は長きにわたって、時代を超えても色褪せることのない完成されたシルエットを世に送り続けてきた。マジック・ジョンソンや某バスケ漫画のPGが着用していた『CONS ACCELERATOR』はブランドを代表するシルエットであり、岡本氏はバスケットボール部門の展開軸のひとつに「アーカイブを現代の技術でアップデートする」ことを挙げている。

現代テクノロジーを搭載した、アップデートモデルとして復刻した「CONS ACCELERATOR」
しかし、新生コンバース バスケットボールは、ブランドのルーツと伝統に敬意を表しながらも、懐古主義とは無縁の存在と言っていい。ブランドを牽引する『CONS VICBOUND』は、複雑化した現代バスケを多方面でサポートする令和のパフォーマンスモデルであり、完全新作として誕生した。

「CONS VICBOUND」は激動の2024-25シーズンにおいて富樫の足元を支えた
「鎧をモチーフにした勇ましい表情ですが、特徴的なデザインの中には最新機能が凝縮されています。ミッドソールとサイドアッパーは硬度の異なるパーツで構成し、衝撃緩衝、横方向へのサポート、フットワークのねじれ抑制などに貢献します」と岡本氏が語るように、同モデルは攻守の急激なストップ&ゴーや方向転換時のリカバリーといったクイックネスを強化しながら、試合後半でも質の高いプレーを継続させ、プレーヤーをケガから守る緻密な構造となっている。
また、高いグリップ力を誇るヘリンボーンを独自の意匠で表現したアウトソールは、着地安定性、転回の容易さ、荷重負荷の三拍子を兼ね備える。『CONS VICBOUND』が、サイズを凌駕したプレーが求められる日本人選手に深く寄り添った一足であることに疑いの余地はなく、岡本氏も「オールラウンダー向けとして開発していますが、ガードを主戦場とする選手たちのスタンダードにしたい」と熱がこもる。

満を辞して発表された富樫のシグネチャーモデル「CONS UNAVERAGE MID」
再始動したコンバースが、立ち止まることはない。コンバースはブランド史上初となる日本人選手のシグネチャーモデルとして、富樫と共に『CONS UNAVERAGE MID(コンズ アンアベレージ MID)』のリリースを発表した。
2024年『UNAVERAGE FES.』の記者会見中に起きた、ふとした会話が火種となった両者のシグネチャー開発。その会場の舞台裏では、富樫からブランド担当者にシグネチャーへの熱い想いが伝えられ、コンバースはこの機会を大きなチャレンジとし、パフォーマンスラインのイメージを形作る富樫へのサポートを約束した。
ファーストセッションは、機能性よりもデザインからの着手となった。スポーツ部門でベストドレッサー賞を受賞するほどのファッションアイコンでもある富樫は、どのようなリクエストを提出したのだろうか。

デザイン面を含め、富樫の要望が存分に反映されている
「パフォーマンス用シューズの象徴でもあるコンバースの“CHEVRON&STAR”ロゴを大胆に配置し、スピード感のあるシャンク(TPU製の細長いプレート)やカラーリングを採用してほしいという要望を受け取りました」
例えば、通気性の高いテクニカルメッシュに透明感のあるTPU素材をレイヤリングしたアッパーは、「黒から赤へと変わるグラデーションのカラーリングを引き立てたい」という選手からの希望を受けてデザインされた。この配色は、スピードとエネルギー、そしてコート上で静かに湧き上がる闘志をイメージしたものだ。

本人のイニシャルと背番号を表現したオリジナルロゴ
そして、シュータンを飾るエンブレム。これは、富樫のイニシャル「Y」と「T」を組み合わせ、それを直線的な斜体で表現することにより、同選手のスピードやテクニックを演出。また、左上と右下の斜線の余白は、ディフェンスを切り裂く富樫の鋭いプレースタイルを彷彿とさせる。
しかし、このロゴの承諾を得るのは、意外にも容易ではなかった。クリエイティブプランナーの宮下秀敏氏は、ロゴの承認には複数回のラリーがあったと振り返る。「シグネチャーモデルですから、ブランドとしては『YUKI』や『YT』のようにストレートなネーミングを提案していました。ただ、彼は個人的な主張を極力控えめにすることを好んだんです。『自分だけのモデルではなく、色々な人に履いてもらいたい』という言葉に、彼のコミュニティファーストな姿勢を感じました」

前足部に配置されたシャンクは大きな特徴のひとつ
機能面は、どうだろうか。注目すべきディテールのひとつが、シャンクの位置。通常は中足部に配置されるパーツだが、『CONS UNAVERAGE MID』では中側部から前足部にかけて内蔵。これにより、通常のシューズ同様中足部でもシャンクの機能性を発揮しつつ、前足部においても、蹴り出しの際に力強い反発エネルギーが発生し、移動の推進力を高める効果を発揮する。また、サイドは『CONS VICBOUND』でも採用している2パーツ構造を踏襲。だが、アウトソールはコンバースの開発チームが独自のパターンを研究し、前後左右への動きはもちろんのこと、回転するようなシチュエーションでも確かなグリップ力が担保され、全方位に屈曲性のある意匠が完成した。
プロトタイプに始まり、サンプルは4段階のバージョンアップを経た。その過程では、クッション性を高めるためにコンバース独自のハニカム構造を採用した緩衝材“React HC”を搭載。3度目のサンプル時に機能面は全てがクリアとなったが、元々マットグレーだったシャンクを「メッキにしたい」というアイデアは富樫からの最後のリクエストになったという。
開発工程における富樫とのキャッチボールについて、岡本氏は「コンバースに対する富樫選手からの愛情が、シグネチャーづくりを加速させる原動力となりました」と、富樫の目には見えない部分でのリスペクトや気配りにもプロフェッショナルな一面を感じたと語る。また、25センチからの用意となるため、リリース直後はメンズサイズに限定されるが、今後は『CONS UNAVERAGE MID』に限らずコンバースのバスケットボールカテゴリー全体として「幅広いサイズレンジ、すなわちウィメンズやキッズの展開も見据えています」と、より多くの世代に愛されるようなスケールを検討しているという。

今後国内でさらなる存在感を発揮することが期待される「コンバース バスケットボール」
ブランド史上初の日本人シグネチャー。アメリカでも限られた選手しか手にすることのできないシューズを展開することは、ブランドにとっても大きな意義を持つ。岡本氏は「コンバースとして日本人選手初のシグネチャーをリリースするということは、学生アスリートやプロを目指す子どもたちにとって、夢や希望を与えるキッカケになると考えています」と述べ、いつか日本を背負ってくれるであろう次世代のプレーヤーたちにも期待を寄せた。
コンバースは『CONS UNAVERAGE MID』の発表直後ながらも、すでに次のステージを見据えている。それは、ブランドのBリーグにおける信頼とシェアの拡大だ。宮下氏は語る。「今シーズンから来シーズンにかけて、トップ選手の着用を強化しています。実は、すでに男女20名ほどに着用いただいている状況です。シューズサプライ契約まで結んだ選手も3名います。このシューズサプライ契約は、今年中に男女10選手、来年には20選手以上という目標に設定しています。Bリーグのトッププレーヤーが着用するパフォーマンスブランドという立ち位置までグッと成長していきたいです」。
すでに、富樫のシグネチャーについても着用を希望する声があり、コンバースはBリーグ内でも存在感を高めている。また、昨今の隆盛を受けて、水面下では女子選手とのコミュニケーションも進行中のようだ。
積み重ねた歴史によるアーカイブ力、カジュアルシューズとしての強み。コンバースにはまだ見せていない手札も数多く残されており、直近1年の動向は序章にすぎない。「コンバースがバスケットボールのシーンに帰ってきた感を一気に演出したい」と、宮下氏もその一言に力がこもる。
コンバースは、シグネチャーを手にした小さな巨人との二人三脚で、リーグに新たな旋風を巻き起こすことだろう。
文=Meiji
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