Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
19年目のWリーグが10月7日に開幕する。注目は何といってもJX-ENEOSサンフラワーズのリーグ”10連覇”が達成できるかどうかだろう。達成すれば、シャンソン化粧品シャンソンVマジックが前身の女子日本リーグの第25回大会から第1回Wリーグまでの10年間で成し遂げた記録に並ぶことになる。当時、シャンソン化粧品と覇権を争っていた共同石油、ジャパンエナジーを前身とするJX-ENEOSとしては、是が非でも達成したい記録に違いない。
その視界は良好といっていい。司令塔の吉田亜沙美、大黒柱の大崎佑圭、そして絶対的エースの渡嘉敷来夢の「不動の大三角」は今年も健在。特に渡嘉敷は7月下旬に行われたアジアカップには出場できなかった分、WNBA(アメリカ女子プロバスケットボールリーグ)で腕を磨いてきた。実際には昨シーズンに比べて平均出場時間、平均得点ともに下回っているものの、世界最高峰の選手たちが集まるリーグでともに練習し、コート上でその高さ、強さ、うまさを感じられた経験は大きなプラスである。試合勘を取り戻せば、やはり今シーズンもトップをひた走る選手となるだろう。
加えてアジアカップでブレークした藤岡麻菜美や、昨シーズンのリーグベスト5に選ばれた宮澤夕貴、新人ながら非凡な得点感覚を持つ林咲希ら若い才能も出現してきている。足をすくわれるとしたら疲労によるケガや慢心からだろうが、前者は仕方がないとしても、後者はキャプテンの吉田がしっかりと手綱を締めることで解決できそうだ。しかしながら昨シーズンのように一度も負けることなく、優勝をされたのではほかのチームとしても、それらを応援するファンとしても気持ちがよいものではない。
対抗馬の一番手は昨シーズンの準優勝チーム、トヨタ自動車アンテロープスだろう。矢野良子や久手堅笑美といった百戦錬磨のベテランが引退したものの、Wリーグ史上でもかつてないほどの大型補強に成功している。長岡萌映子(元富士通レッドウェーブ)、三好南穂(元シャンソン化粧品)、馬瓜エブリン(元アイシンエイ・ダブリュ ウィングス)はすべて今年度の日本代表、もしくはその候補まで選ばれた日本随一のプレーヤーたち。さらに桜花学園からIMGアカデミーを経て、NCAAディヴィジョンIのルイジアナ州立大学でプレーしたヒル理奈ら力のある新人も獲得している。彼女たちが、今シーズン限りでの引退を表明している大神雄子、女子日本代表で活躍をした水島沙紀と近藤楓、ケガからの復帰が待たれる栗原三佳、そしてインサイドの森ムチャと馬伊娜らとともに「打倒JX-ENEOS!」に向けて、準備を整えている。
この2チームを追うのは昨シーズン3位のデンソーアイリス、4位のシャンソン化粧品、5位の富士通、そして6位の三菱電機コアラーズか。
デンソーは髙田真希を中心としたチーム作りで変わらないだろう。女子日本代表にも選出された赤穂さくらがどれだけ髙田に寄るディフェンスをひきつけられるか。アウトサイド陣も伊集南、加藤瑠倭らがどこまで援護射撃ができるかが1つのカギになる。ガードの田村未来ら7人の新人を加えたことでベンチ層は厚くなったが、彼女たちがWリーグの猛者たちにどこまで対抗できるかは未知数。その結果如何によっては大きな変動もあり得る。
丁海鎰ヘッドコーチ体制2年目となるシャンソン化粧品は、本川紗奈生が中心。ケガのため女子日本代表には選ばれなかったが、彼女の持つ突破力、得点力はリーグでもトップクラスだ。三好がいなくなったガードのポジションは東京羽田ヴィッキーズから落合里泉を入れたことでカバー。インサイドには日本代表で活躍した河村美幸がいる。昨シーズン、小気味よいプレーを随所見せた増岡加奈子、井澗絢音らの確実な成長が1つのカギになる。またトヨタ自動車から丁バスケットを熟知するベテランの鈴木一実が加わったことは若いチームにとって大きなプラスと言えよう。
5位の富士通は長岡を抜けた穴をどう埋めるかが上位進出のポイントになる。女子日本代表の町田瑠唯や、山本千夏、篠崎澪、篠原恵といったチームの核となる選手は残っているだけに、やはりその一点にかかるウェイトは大きい。現状ではルーキーの栗林未和と、ユニバーシアードでも活躍した村山翠がその座を争っている。彼女たちが長岡とは異なる自分の武器でそのポジションの役割を果たせば、昨シーズン届かなかったセミファイナルへの扉も開くはずだ。
6位の三菱電機はメンバーがほぼ入れ替わっていないことが大きなアドバンテージとなる。古賀京子体制となって2シーズン目。より精度を高いバスケットをして、上位チームを脅かす存在にならなければいけない。エースの渡邉亜弥、女子日本代表候補のシューター根本葉瑠乃、ベテランの櫻木千華らのアウトサイド陣と、王新朝喜や西岡里紗といったインサイド陣が絶妙にマッチした組み合わせは相手チームにとってもやっかいな存在となるだろう。
そこに昨シーズン7位のトヨタ紡織サンシャインラビッツや8位の東京羽田、9位のアイシン・エイ・ダブリュ、10位の日立ハイテククーガーズ、11位の新潟アルビレックスBBラビッツ、そして12位の山梨クィーンビーズがどう絡んでくるか。
トヨタ紡織は長部沙梨、川原ゆい、池田智美といった主力が残留。インサイドではまだまだ苦しい戦いを強いられそうだが、シューティングバスケットでシャンソン化粧品時代に10連覇を達成した中川文一HCがそれをどう回避し、どんな采配でチームを上位に押し上げるか。その中川HCが期待する、ユニバーシアード女子日本代表でもあるルーキーの加藤臨が、それに応えられるかにも注目したい。
東京羽田ヴィッキーズは棟方公寿HC体制となり、近年徐々に上げている順位を今シーズンもまた上げていきたいところだ。リード、得点面でチームを引っ張った落合の穴は大きいが、彼女と同期入団で、チームの両翼を担っていた瀬崎理奈は健在。彼女を中心にまとまりを見せれば、また1つ階段を上る可能性はある。
アイシン・エイ・ダブリュは富士通と同様、主力である馬瓜の移籍がマイナスだが、裏を返せば「馬瓜頼み」からの脱却を図るチャンスでもある。ルーキーの宮下希保、高原春季らフレッシュな力でチームを活性化させ、その手綱を一色建志HCや、シャンソン化粧品から移籍してきた近平奈緒子や、濱口京子、板谷日香里らがしっかりと引く。勢いに乗ればジャンプアップの可能性も秘めているチームと言えよう。
日立ハイテクも少しずつ薮内夏美HCのバスケットが浸透してきており、少しずつだがチームとしての感触をつかんで、昨シーズンを終えている。司令塔の鶴見彩、ベテランの高橋礼華、2年目の菅原絵梨奈ら核になりそうな選手がいるものの、やはり選手層では若干の見劣りはある。それをチームでいかに埋めていくか。選手個々がそれぞれに脱皮していけば、今シーズンの台風の目になるかもしれない。
新潟アルビレックスBBはエースの出岐奏の穴を誰が埋めるのか。ベテランの域に入りつつある井上愛や長距離砲を持つ大城利佳、パワーの大濱杏華らがその穴を埋めつつ、チームを引っ張れば、おもしろいゲームが見られそう。ただビッグマンがいないことや、キャリアのなさから上位チームから勝利をあげるのは、もう少し時間がかかりそうだ。
昨シーズン、リーグに復帰した山梨は1勝もできずに終えている。水上豊HCがライセンスを取得し、名実ともに指揮を執る今シーズン。サイズがないため平面でのバスケットを余儀なくされるが、それを突き詰めることができれば1勝の扉をこじあけ、そこから1つずつステップアップしていけるはず。ベテランの藤井美紀、横井美沙らが同チームを引っ張るかにも注目したい。
今シーズンは昨シーズンとレギュレーションが変わり、12チームによる3回戦総当たり(全198試合。1チーム当たり33試合)で、さらにプレーオフは上位8チームによる”一発勝負”のトーナメント形式。上位チームは気の抜けない試合となり、逆に下位チームは勢いに乗じて一気に頂点へ駆け上がることも可能になる。
12月16日には大田区総合体育館でオールスターゲームも行われる今シーズンのWリーグ。女子日本代表がアジアで3連覇を達成したシーズンだけに、国内リーグをますます盛り上げていきたいところだ。
文=三上太