2022.04.26

OGたちが振り返る激闘ファイナル…富士通レッドウェーブ・篠原恵

篠原恵さんは後輩たちの成長を感じたファイナルだったと総括 [写真]=W LEAGUE
フリーライター

東京オリンピックの興奮も冷めやらないまま昨年10月に開幕した第23回Wリーグ。約半年間にわたり13チームが熱戦を繰り広げたが、その戦いも4月16、17日のファイナルで今シーズンのチャンピオンが決定した。

国立代々木競技場第一体育館を舞台にトヨタ自動車アンテロープスと富士通レッドウェーブの間で争われたファイナルは、トヨタ自動車の2連覇。富士通が準優勝となった。

ここでは、熱戦を繰り広げた両チームのOGにファイナルを中心とした今シーズンの戦いを振り返ってもらった。

はじめは、2010年から2020年までの10年間、富士通一筋でプレーした篠原恵さんのインタビューをお届けする。

取材・文=田島早苗

宮澤夕貴、中村優花の加入でリバウンドの意識がさらに向上

――まずはレギュラーシーズンでの富士通の戦いをどのように見ていたのかを教えてください。
篠原
 宮澤夕貴、中村優花選手が移籍で加入したことで期待されていたと思うのですが、序盤はちょっと噛み合ってないのかなと思いました。(移籍した選手が)富士通のバスケットにすぐに慣れるのは難しいと思うんですよね。でも、その中でシィ(篠崎澪)とルイ(町田瑠唯)が引っ張った。2人が勝負どころで仕事をして勝った試合は多かったと思います。

 後半はアース(宮澤)も個人としての調子が上がってきたし、チームとしても噛み合っていった。アースやニニ(中村)が流れの中で強さを出せるようになっていき、それによってチームオフェンスが(相手にとって)脅威になったし、選択肢も増えたと思います。

 ただ、アースに関しては、前半戦は調子が上がっていなかったかもしれないですが、そういったときでもリバウンドなどを頑張っていました。アースとニニのおかげで周りの選手たちのリバウンドやルーズボールの意識がすごく高くなったと思います。

――試合を重ねながらチーム力も付いていった印象はありますか?
篠原
 今シーズンは、主力のケガなども影響し、レギュラーシーズンからベンチメンバーが多く試合に出ていました。その経験がプレーオフで生かされたと思います。セイ(岡田英里)も試合を重ねるごとに自信持ってリングにアタックしていた印象がありますね。

――レギュラーシーズン記憶に残っている試合はありますか?
篠原
 チームとして本来の調子を取り戻したという点では、ENEOSサンフラワーズ戦(3月5、6日)。第1戦はやりたいことができていなかったけれど、(翌日の)第2戦はブレイクが速かった。アースが爆発したこともありますが、“富士通のバスケット”というものをプレーオフ前にしっかりと見ることができました。

――その後、ENEOSとはセミファイナルで対戦しました。
篠原
 レギュラーシーズンで勝って終わっているので、良いイメージでセミファイナルに入れたと思います。

 セミファイナルでは、富士通ペースで試合ができたし、さっきも言ったように、今シーズンは勝負どころが分かっていた。流れが相手にいった時間帯でも、ここぞという場面でルイ、シィ、アースたちが積極的に攻めていました。そういった強さが今までとは違うかな? と思いましたね。

――そしてファイナルは、トヨタ自動車と。
篠原
 第1戦は本当によく動いてたし、運動量がすごかった。ディフェンスでもしっかり寄ったり、ボールに対して反応したり。リバンドもきちんとボックスアウトしてから飛び込んでいました。オフェンスでも先頭を走っていたし、ものすごく動いていたけれど、それを40分間やり続ける難しさを感じました。もう少し交代ができたら良かったかなぁと。第2戦は体の疲れや前日の敗戦を引きずっているところがあったと思います。

宮澤夕貴(写真)、中村優花の加入でリバウンドやルーズボールの意識が高まったと篠原さんは感じたという [写真]=W LEAGUE

町田、篠崎の覚悟を感じたプレーオフ

――敗れはしましたが、富士通にとって6年ぶりのファイナルでした。
篠原
 とてもうれしかったし、客観的にファイナルを見ていて、『良いチームだな』と思いました。それと、これまでシィとルイのチームと言われてきましたが、周りの選手の成長が素晴らしかった。キラ(内尾聡菜)は特に。一緒にプレーをしていた選手たちの成長をすごく感じました。あとは、みんなが笑顔でプレーしていたこともうれしかったです。個人的には、第2戦の残り3分切ったあたりから、涙、涙でした…。

――それはどういった涙でしょう?
篠原
 みんなの勝ちたいという思いも知ってるし、しんどいだろうなという体の状態も分かる。全てをここに懸けているということも理解しています。ルイは特に今シーズンはプレッシャーがあったと思うんですよ。あれだけ注目されている中で、いつも通りのプレーをしなくてはいけないという重圧は相当なものだったと思います。そういったことを受け止めた上でのプレー。最後は(疲れから)踏ん張れなくても、泥臭く頑張ろうとしていたので、とても感動しました。

――涙を誘うシーンは多かったですね。
篠原
 第2戦の試合終盤、相手の体がルイのみぞおちに入ったとき、苦しそうではあったけれど、大丈夫という意味でベンチに向かってサムズアップしたところは泣きましたね。それと、シィが試合終盤に転んでも攻めていたところ。もう最後はボールを持った瞬間、『自分でドライブに行くんだ』という思いが伝わりました。

 あとは、トヨタ自動車のコートインタビューのとき。みんな放心状態でベンチに座っていたと思うのですが、私はそれを経験しているので気持ちが分かるし、余計に『お疲れさま!』という気持ちになりました。

――史上最多の観客数となったファイナルの雰囲気は?
篠原
 鳥肌ものでしたね。『いいなぁ』というのと同時に、『めっちゃ緊張しそうだな』とも思いました。プレッシャーを楽しみに変えてプレーしている選手たちに拍手を送りたいし、『感動ありがとう』と言いたいです。

――今シーズン、町田選手の人気もあり富士通の試合を見に多くのファンが会場に駆けつけました。
篠原
 うれしいですね。最初はルイを見にきたとしても、その後、富士通ファン、女子バスケットのファンになってくれたらうれしいとはルイ本人も言っていました。そういった意味では、富士通の魅力を知ってくれた人が増えたのではないかなと。ファンの方たちの世代も幅広くなり、若い世代も多かったです。改めて、ルイは若い子たちに夢を与えてるんだなと感じました。

――同級生の篠崎選手にも心を動かされたのでは。
篠原
 はい。だって私、篠崎タオル買いましたから(笑) シィのことはいつも、私は『体力無限』と言っているのですが、あれだけ先頭を走ったり、チームのためにカッティングしたりしている人いないと思うんですよ。それを最年長の選手が体現していることがすごい。ルイもシィも、プレーする姿から覚悟を感じたし、チームを背負っているんだという思いも感じました。

篠原さんは篠崎澪(左)と町田瑠唯(右)のプレーする姿に覚悟が見えたという [写真]=W LEAGUE


――改めてシーズンを通して成長を感じた選手がいたら教えてください。
篠原
 モニカ(オコエ桃仁花)は東京オリンピックを経て、昨シーズンよりも安定したと思います。昨シーズンは好不調の波が大きかったように感じましたが、今シーズンは銀メダリストという自覚からか、調子が悪いときでも悪いなりにディフェンスを頑張るなどしていました。3ポイントシュートの確率も良かったし、彼女の成長はチームが強くなった要因の一つだと思います。

――最後に、今後の富士通に期待することを教えてください。
篠原
 ファイナル、セミファイナルを通じて、一つのボールを守るという意識が富士通はどのチームにも負けていなかったなと思います。ボールを守るために周りが動く。チームワークの良さはディフェンスによく現れていたので、来シーズンも続けてほしいです。また、そのディフェンスからの攻撃も富士通の良さだと思うので、攻撃での爆発力にも期待したいです。

篠原さんは会場に駆けつけ、“篠崎タオル”を掲げて応援した [写真]=本人提供