Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
「勝たないといけなかったですね」
10月22日、富士通レッドウェーブと対戦したアイシンウィングスの梅嵜英毅ヘッドコーチは、接戦の末に敗れた試合に悔しさをにじませた。
試合は序盤から互いに譲らず、前半はアイシンの1点リードで終える。後半に入ると、「それまでの試合がすべて第3クォーターが良くなかったから」(梅嵜ヘッドコーチ)という理由で、出だしから司令塔の吉田亜沙美を起用。その采配が功を奏してか、第3クォーターを「持ちこたえることができた」のだが、同点で迎えた第4クォーターの中盤、富士通にリードを許すと、その後の追い上げも届かず。最後は54―55と1点差で敗れた。
「経験値ですね。(大事な場面で)富士通の方が決め切る。宮澤(夕貴)や中村(優花)、町田(瑠唯)と、経験をしている選手たちが『自分が行こう』というイメージを持っているので、守る方も大変になります。うちはまだそういった面が薄いので、最後もリバウンドを取られたりしてしまいました」と、梅嵜ヘッドコーチは敗因を語る。
アイシンは主力に若手が多いことから、経験値といった点では東京オリンピックの銀メダリスト3人(町田、宮澤、林咲希)を擁する富士通には及ばない。とはいえ、経験値を上げることは一朝一夕にできるものでもない。そこでカギを握る存在が、2020年以来の現役復帰を果たしたベテランの吉田だ。
「吉田のことはアンダーカテゴリーの日本代表のときから知っています。今、チームに一番欠けている『勝ち癖』を付けることや一回の負けがどれだけ大事なことかというのを伝えるためにも絶対に必要でした」と、梅嵜ヘッドコーチは吉田に声をかけた理由を語る。
「今日も(試合後に)彼女がいろいろとチームメートに話をしてくれています。これだけ競って負けると本人には申し訳ないのだけれど、これがいい方向に向かってくれれば」と、梅嵜コーチ。さらに「野口さくらもそうですが、気持ちがあっても、まだまだプレー的には発展途上のところがあります。だからこそ、若い選手たちは吉田という存在を逆にうまく利用して。リーグを通してどんどん成長してくれればいいなと思っています」と、吉田加入の思いを語った。
吉田のいう「背負う」とは? 「自分でシュートに持っていくことが必要だと思っていて、ピックを使ってのシュートなど責任持って自分が攻めること。またはそこから味方を生かすプレーというのがまだできていないです。ゲームの感覚、ピックの感覚などはまだ全然つかめていないので、ゲーム重ねていきながら取り戻すしかないと思っています」
それでも、4試合を見れば安定したゲームメークや優れた状況判断など、さすがの働き。だが本人は、「自分としては鈍りまくり。パスが飛ばなかったり、見えてないなと思うときもあります。さっきも言ったようにピックを使ったプレーの感覚など鈍っていると感じますね」という。
8月のサマーキャンプと9月のオータムカップを出場しなかった吉田は、開幕したWリーグが実戦復帰となり、ぶっつけ本番ではあったのだから、本調子とはいえないだろう。だが一方で、このはじめて経験する状況にも、今後に向けての手応えは感じているという。
やると決めた以上、完璧を求め上を目指す吉田。「ポイントガードというポジションをやるからには突き詰めないといけないし、勝たせないと。(富士通戦は)ポイントガードで負けているところがたくさんあったので、(同じポイントガードの)酒井(彩等)と私はいろいろな経験をしながら(勝つために)やっていかないといけないです」と、気持ちを新たにする。
思うようにいかないことや課題も多い。だが、それでも試合中の吉田は楽しそうだ。たとえ目の前でシュートを決められたとしても。
「楽しいし、悔しいし、情けないし。もういろんな感情がごちゃ混ぜになっているけれど、またこうしてそういう感情を味わえるのは現役だからこそ。クロスゲームで終盤にコートに立って悔しさを味わったのも本当に久しぶり。楽しくもあり、これが現実だとも感じています。今のアイシンの弱さと、自分の課題や弱点が見えているので、負けを無駄にしないように。毎週試合が行われるし、ヘッドダウンしてても仕方ないので、頑張ります」
時に楽しみながら、チームの勝利に向けて全力を尽くす吉田。彼女の新たな挑戦は始まったばかりだ。
取材・文=田島早苗