2023.05.11

新たに世界の頂点に挑む女子日本代表の現在地は?

三井不動産カップをステップに世界の頂きを目指す女子日本代表 [写真]=伊藤大允

 6月16日から18日までの3日間、高崎アリーナ(群馬県高崎市)にて、「三井不動産カップ2023(高崎大会)バスケットボール女子日本代表国際強化試合」が開催される。

 常に世界の強豪チームに挑戦を続ける女子日本代表を育んできた三井不動産カップ。今回は、6月末にオーストラリア・シドニーで開幕する「FIBA女子アジアカップ2023」に向けて、チーム強化に大きな役割を果たすことになるだろう。なおこのアジアナンバーワンを決める大会で、日本は史上初となる6連覇に挑戦する。

 2024年には新たに世界の頂点に挑む女子日本代表。新戦力の登場は? 主力メンバーのコンディションは? そして課題は? 女子日本代表の現在地を探っていく。

文=三上太

 

「世界一のアジリティ」でFIBAアジアカップ5連覇を達成

 バスケットボール女子日本代表が東京オリンピックで銀メダルを獲得してから2年が過ぎようとしている。その間、ヘッドコーチはトム・ホーバス(現・男子日本代表ヘッドコーチ)から恩塚亨に替わったが、2021年9月下旬に行われた「FIBA女子アジアカップ2021」では大会5連覇を達成。髙田真希町田瑠唯といった世界2位になったときの主力メンバーの多くが不在で、また渡嘉敷来夢もいないなかでの優勝は、女子日本代表のポテンシャルの高さを示すのに十分だった。

 恩塚HCが就任と同時に掲げたのは「世界一のアジリティを目指す」こと。機敏さや俊敏性など肉体的な意味合いを持つアジリティだが、彼が求めるのはそれだけにとどまらない。バスケットボールという競技を構造化し、ゲームの文脈を読みながら、原則に沿って次の行動を素早く、的確に選択していく。それもまた彼の「アジリティ」には含まれている。それをコート上の5人が「セイムページ(同じページ)」の上に立って、お互いを感じ取りながら連動し、相手を上回っていこうというわけである。

 高度な連携だけに、決して簡単なことではない。それでもアジアカップで優勝できたのは、恩塚HCが掲げるもうひとつチームコンセプト、「ワクワクが最強」というメンタリティが若いチームを推進させる大きなエネルギーになったからだろう。世界2位からのリスタートとしては上々だと言っていい。

FIBAアジアカップで5連覇を達成 [写真]=fiba.com


 

強豪国になったからこそ、対戦相手のマークも厳しいものに

 しかし翌年の「FIBA女子バスケットボール ワールドカップ2022」ではグループフェーズ敗退という憂き目を見る。6チーム総当たりのグループフェーズは各グループの4位以上が決勝トーナメントに進めるのだが、日本はそれを1勝4敗で終えてグループ5位になってしまった。

 敗因はいくつかある。例えばフィジカルに押してくる相手のバスケットにうまく対応できなかったこと。日本は相手が繰り出してくるであろう戦術に対して、「世界一のアジリティ」を発揮し、戦術で打ち返そうとしていた。しかしフィジカルを前面に押し出す戦い方への対応は未完成だったと言える。

 もちろんそれを打破するための戦術としてタイムシェアがあった。コートに立つ1回の時間は長くないが、その間に全力を出し切り、次の選手につなぐ。ベンチに下がった選手は息を整えて次の出番を待ち、常にコート上の5人が100パーセントに近いパフォーマンスを発揮することで、日本の弱点をカバーしようとしたのである。

 それも不発に終わった。むしろ慣れないタイムシェアに消化不良のままベンチに戻ったため、次の出番が来てもリズムをつかめない。結果として大会の最後まで消化不良に終わった選手も多く見受けられた。

 ただ裏を返せば、それらは相手チームが女子日本代表を徹底的にスカウティングしてきたことの表れでもある。世界の強豪国にとって、日本がこれまで以上に捨て置けない存在になったという証拠でもあるわけだ。

世界の強豪国になったゆえに、相手のマークも厳しくなっている [写真]=fiba.com


 収穫がなかったわけではない。相手の戦術に対するチームディフェンスは確かに機能し、大会のレギュレーションこそ異なるものの、平均失点は前回大会よりも10点ほど下げている。3ポイントシュートの成功率は、国内を沸かせた2021年の国際大会に比べて10パーセント以上も下がったが、一方でカウンターからの1対1や、整理してきたアクションの組み合わせが機能した場面もあった。

 

国内外で選手たちが躍動。個々でもレベルアップを目指す

 ワールドカップ後の動向に目を向けても各選手の動きは積極的だ。ドイツにプレーの場を求めていた安間志織がイタリアのチームに移籍し、今シーズンはユーロカップでプレーするなど、世界のスタンダードを肌で感じている。オコエ桃仁花はギリシャリーグに挑み、今はオーストラリアでプレー、馬瓜ステファニーはWNBAのニューヨーク・リバティとキャンプ契約を結ぶに至った。ワールドカップには出場していないが、梅沢カディシャ樹奈もまたWリーグを終えて、オコエと同じオーストラリアリーグへと参戦する。若い選手たちが世界を意識し、実際に飛び立つことで、女子日本代表のスタンダードはおのずと上がってくるはずだ。

 海外だけではない。4月17日に閉幕した第24回Wリーグのプレーオフファイナルでは、コートに立つ選手たちが疲労を抱えながらも、高い集中力を発揮していた。苦しい時間帯に走りきり、ここぞの一本を決めきる力を見せたことは、女子日本代表のこれからにつながる。

ヨーロッパに活躍の場を求めた安間志織はイタリアでプレー [写真]=fiba.com


 6月下旬からはオーストラリアでアジアカップが行われる。女子日本代表にとっては6連覇を目指す大会になるが、ライバルの中国はワールドカップで準優勝を遂げ、FIBA世界ランキングも2位に上がった。ワールドカップ銅メダルを獲得したオーストラリアも世界ランキング3位につけている。アジアで頂点に立つことは、これまで以上に難しくなった。

 それでも女子日本代表が2024年に目指すのはパリオリンピックでの金メダル獲得。現在、女子日本代表は世界ランキング9位だけに、容易な話ではない。しかしチームがセイムページに立ち、世界一のアジリティを発揮すれば、世界2位だった2年前を超すチームは生まれるはずだ。

*世界ランキングはすべて2023年2月28日付け

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