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タイのパタヤで行われている車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」(AOC)。大会7日目の12月5日、及川晋平ヘッドコーチ率いる男子日本代表は、準々決勝でサウジアラビアと対戦。格下相手にも手を緩めることなく、自分たちのバスケを遂行し、攻守にわたって圧倒。78-21で大勝し、準決勝進出を決めた。
次の準決勝が、予選リーグで唯一黒星を喫した韓国との再戦となることが予想される中、サウジアラビアとの準々決勝は、その“準備”として大事な一戦となった。
指揮官がまず、より強固なものにしたいと考えていたのは、“及川ジャパン”の真骨頂でもあるディフェンスだ。何人ものビッグマンを擁するサウジアラビアに対し、3ポイントラインの外側にまで張り出した陣形を取り、インサイドに近づかせない、あるいはゴール下に入るまでの時間を稼ぐことで、相手にプレッシャーを与えた。
「想定された次の韓国戦を考えた時に、まずはエースのキム・ドンヒョンをいかに止めるかということになる。今日はより高めの位置にラインをしくことで、ディフェンスへの意識をより強くさせたいという意図がありました」と、及川HCは狙いを明かした。
その期待に応え、どのラインナップでもしっかりと高いラインをキープしたディフェンスが機能し、サウジアラビアをわずか21点に抑えてみせた。
そして、もう一つ、準決勝への準備として、大事な要素となっていたのが、選手一人ひとりの自信だ。予選リーグ5試合をとおして、大方の選手たちには大きな自信が得られていた。しかし、まだコート上で強みを発揮しきれていない選手たちもいた。彼らのモチベーションをどう高めていくのかが、準決勝、そして決勝と優勝に向けて進んでいくための一つのカギとなっていた。
「このチームは、もう誰がキーマンとかではありません。12人全員が必要な存在。だからこそ、優勝するためには、誰がいつ出ても強みを発揮できる準備を、全員がしなければならない。ただ、まだ活躍の場をうまく与えられていない選手が何人かいたので、準決勝に向けて、彼らをうまく引き上げたいと思っていました」と及川HC。
そのうちの一人が、ハイポインターの村上直広だ。アウトサイドからのシュートを得意とする村上は、日本にとって欠かすことのできない得点源の一人。今年の国際強化試合「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP」では、初戦の韓国戦でチーム最多の18得点を叩きだす活躍を見せた。
しかし、今大会の予選リーグでは全試合に出場しているものの、韓国、オーストラリア戦では無得点に終わるなど、まだその実力を遺憾なく発揮する機会に恵まれてはいなかった。
そうした予選リーグでのうっ憤を晴らすかのように、村上はサウジアラビア戦で攻守にわたって躍動。香西宏昭の22得点に次ぐ14得点をマークし、リバウンド数はチーム最多の9を誇った。この活躍ぶりに、及川HCも大きな手応えを感じていた。
「村上は間違いなく優勝するためのカギを握る一人。調子が悪かったわけではなく、いい場面で使う機会がなかなか作れなかっただけのこと。実際にコート上に出て、調子がいいことを示してくれたなと思います」
村上自身も「今大会、うまくいっていなかったところがあったのですが、それをこの試合でうまく修正できたので良かったです」と手応えを口にした。
今大会に向けてプレーの幅を広げ、これまでのアウトサイドだけでなく、インサイドにアタックすることも強く意識しているという。14得点中、ゴール下でのシュートは4本(8得点)を数え、新たな強みを発揮した。
「僕がアウトサイドのシュートを得意としていることは、ほかのチームにもすでに認識されている。実際、今大会も僕に対するジャンプアップのタイミングが早く、これまでのように簡単にシュートを打つシチュエーションはほとんどなくなりました。それは想定済みだったので、合宿からインサイドでのプレーを強化してきました」
そして、もう一つ、この試合でつかんだものがあった。リバウンドだ。村上は、これまでとの違いをこう語ってくれた。
「今までならすぐにボールに飛びついていたのですが、それでは海外のビッグマンに後ろから奪われてしまう。なので、まずはしっかりとボックスアウトして、ボールが跳ね返ってきた時に取りにいく。そうすることで、それほど高さがない僕でもリバウンドを取れるという確信が、この試合で持つことができました」
12人全員がしっかりと準備を整え、迎える“日韓戦”。及川HCは語気を強めて、こう語った。
「今持っている力を発揮すれば、必ず勝てる。ここまできたら、あとは気持ちの問題です。勝利への執着心を持って、コートの中に入れるかどうか。必ず勝って、リベンジします!」
日本のプライドを示し、ファイナルへの切符をつかむ。
文・写真=斎藤寿子