2021.01.20

【車いすバスケリレーインタビュー 男子Vol.17】溝口良太「幼少時代からの念願だったバスケットボール選手」

来年の男子U23世界選手権日本代表候補の一人、19歳の溝口良太[写真]=JWBF / X-1
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

インタビューした選手に「現在成長著しい選手」「ライバルだと思っている同世代選手」「ベテランから見て将来が楽しみだと思っている若手」「若手から見て憧れているベテラン」などを指名してもらい、リレー方式で掲載するこの企画。車いすバスケットボール選手の個性的なパーソナリティーに迫っていく。

文=斎藤寿子

 2022年に千葉市での開催が予定されている男子U23世界選手権。そこでの活躍を目指し、男子U23日本代表の強化育成合宿では全国から選出された若手が切磋琢磨している。その一人、Vol.16で登場した塩田理史(岡山WBCウィンディア)が同世代のチーム力アップに欠かせない存在として期待を寄せているのが溝口良太(長崎サンライズ)だ。

念願叶った矢先の再発

 溝口にとって幼少時代から一番好きなスポーツが、バスケットボールだった。中学校に入ると、バスケットボール部に入部。小学校にはミニバスケットボールのチームがなかったため、それは念願が叶った瞬間だった。

「やっと自分もバスケットボール選手になれる!」

 だが、それは長くは続かなかった。実は、溝口の体には異変が起きていた。小学6年の冬に腰に違和感を覚えるようになり、そのうちに右脚にも痛みが出るようになった。その症状は中学校入学後も改善することはなかった。すると練習中、溝口がジャンプした時の着地に何かを感じ取った顧問の先生から「もしかして痛いんじゃないのか? すぐに病院で診てもらってきなさい」と言われた。精密検査を受けると、二分脊椎症が再発していたことが判明した。

「自分が二分脊椎症という障がいがあって生まれたということは聞いてはいました。でも、物心ついた時には普通に走ることもできていたし、スポーツも得意だったので、もう自分には関係ないと思っていたんです。だから再発と聞いた時は驚きました。何よりやっと念願だったバスケ部に入部したのに、バスケができないことが辛かったです」

 手術やリハビリで入退院を繰り返しながらも、学校にはきちんと通った。だが、スポーツが好きで活発だった姿は影を潜め、何に対してもやる気が起きず、ふさぎこむことが多かった。

 そんな溝口を救ってくれたのは、中学3年時の担任の先生だった。バスケが好きなことを知っていた先生は、地元の車いすバスケットボールチームを探し、自分の車で練習に連れて行ってくれたのだ。そして、初めて見た車いすバスケの華麗さに、溝口は目を奪われた。

「初めて見た時、『すげぇ』のひと言で、あとは言葉になりませんでした。それくらいかっこよかったんです。実は以前から車いすバスケの存在は知ってはいました。でも興味がわかなかったんです。担任の先生から聞いた時も最初は『そうなんだ』くらいにしか思えなかった。だから、もし先生がわざわざ車で僕を体育館に連れて行ってくれていなかったら、車いすバスケを始めることもなく、ふさぎこんだままだったかもしれません」

物心ついた時から自宅にあったバスケットボールで遊んでいた溝口は今、将来有望の車いすバスケプレーヤーとなった[写真]=JWBF / X-1

初の国際マッチでつかんだ自信

 高校入学を機に、正式にチームへ加入した溝口。車いすバスケ歴はまだ4年と浅いが、だからこそ伸びしろはたっぷりある。そして今は、大きな目標がある。来年の男子U23世界選手権に出場することだ。その溝口にとって貴重な経験となったのが、2019年6月に昭和電工武道スポーツセンター(大分市)のオープニングイベントとして行われた「アジアドリームカップ」だ。

 同大会には日本を含むアジアの6カ国・地域から代表チームやクラブチームが参加した。日本からは男子日本代表と、地元の九州ブロックから選出された12人で構成された九州選抜の2チームが参加。溝口は九州選抜のメンバーに抜擢された。

 プレータイムは多くはなかったが、それでも大きな自信を得ることができた試合があった。予選リーグ初戦の韓国との試合だ。韓国はソウルのクラブチームだったが、それでも前年の世界選手権の代表メンバー7人を擁する強豪だった。その韓国との試合でのワンシーンが今も忘れることができない。

 インサイドにアタックした溝口にボールが入ったものの、パスが少しずれてしまったために、すぐにシュートすることができなかった。その隙に相手のディフェンスに挟まれ、目の前には自分よりも高い韓国代表のハイポインターが厳しくシュートチェックしてきた。だが、溝口は体勢を崩しながらも、そのハイポインターとの競り合いに負けることなくシュートをねじ込んでみせた。

「たかがワンプレーかもしれませんが……」と前置きをしたうえで、溝口はこう語ってくれた。

「初めての国際大会で、世界選手権に出場したような代表選手とのマッチアップに勝てたことが本当にうれしかったです。体勢が崩れたなかでもタフショットを入れる感覚は今でも鮮明に覚えていますし、大きな自信となりました」

 “たかがワンプレー”に終わらせず、“転機の一つ”とするかどうかは、溝口のこれから次第に違いない。

 もちろん、課題は山積している。昨年11月の男子U23強化育成合宿では、特にフィジカル面で差を感じたと言い、現在は体育館での練習のほかに、自宅での筋力トレーニングにも注力している。

 また、アウトサイドのシュートの精度を上げる必要性を感じている。一番の武器は、積極的にインサイドにアタックする姿勢で、U23日本代表の京谷和幸HC(現在は男子日本代表HCを兼任)からも買われている点だ。だが、それだけで海外勢に勝てないことは分かっている。

「オフェンスとなったら真っ先に走ってゴール下を取る、という姿勢はこれからも自分の強みとして大事にしたいと思っています。でも、それだけでは海外勢には通用しません。アウトサイドのシュートを磨くことで、プレーの引き出しを増やしていきたいと思っています」

フィジカルを強化し、シュート力を磨いて、男子U23世界選手権のメンバー入りを目指す[写真]=JWBF / X-1

 今年20歳となる溝口にとって、通常は4年に一度のU23世界選手権は来年が最後のチャンスとなる。U23日本代表のメダル獲得に貢献できる存在としてコートに立つ自分を目指し、この1年トレーニングに励むつもりだ。

(Vol.18では、溝口選手がオススメの選手をご紹介します!)

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