2021.05.10

車いすバスケ女子日本代表、コロナ禍でもかすむことのなかった銅メダルへの思い

東京パラリンピックで銅メダル獲得を目標に掲げる車いすバスケ女子日本代表[写真]=JWBF/X-1
十数年にわたりラジオディレクターとして活動した後、カナダに留学。帰国後の2016年からパラスポーツの取材を始め、18年車いすバスケットボール世界選手権、アジアパラ競技大会をカバーした。

 東京オリンピック・パラリンピックの様々な競技でテストイベントが行われるなか、5月9日(日)、東京・有明アリーナでは車いすバスケットボール男女強化指定選手による「有明特別強化試合」が行われた。

 新型コロナウイルス感染拡大防止対策により無観客での開催となったが、試合の模様はライブ配信され、日本代表候補選手たちにとっては、パラリンピック本番の会場で試合ができる貴重な機会となった。

 午前10時から行われたのは、女子日本代表vs千葉ホークス。

 千葉ホークスは、車いすバスケットボールの天皇杯(日本選手権)でつねに上位に位置する男子の強豪クラブチーム。そこに男子強化指定選手数名が加わり、昨年2月の「2020国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」以降、対外試合を行えていない女子日本代表には海外チームと同じような高い強度で戦える実戦の場となる。

 パラリンピック本番をシミュレーションして、ウォーミングアップ時からコートの床やリングの見え方、照明などを確認しながら気持ちを入れていく。

 円陣を組み心をひとつにすると、「オー!パッショーン!」の掛け声が1万5000席の会場に響き渡った。

円陣を組み、心をひとつに[写真]=張理恵

 ティップオフを前に、何度も岩佐義明ヘッドコーチが繰り返したのは「アグレッシブなディフェンス」。

 その言葉通り、体格で上回る男子選手にもひるむことなく、激しくコンタクトしていく。障がいの重いローポインター・北間優衣が高い位置で相手のハイポインターを止めれば、萩野真世が体を張ってスティールを奪う。第1クォーター終了間際にはボールマンにプレッシャーを与え続けた網本麻里が相手のシュートミスを誘い14-15と互角の戦いを見せた。

 第2クォーターでは選手交代でコートに送り込まれた小田島理恵がいきなりミドルシュートを決めてみせる。しかし、連係で徐々にパスが乱れ始めると、ボールをキャッチするまでのほんの僅かな時間のロスやタイミングのずれで攻撃の流れが止まる。シュートミスも重なりじわじわと点差が開く。それでも踏ん張って前半を28-33で折り返し、後半へと望みをつないだ。

 第3クォーター、勢いを増す千葉ホークスは次々とインサイドにアタックを仕掛け6連続得点を挙げる。女子日本代表は5分半もの間得点を奪えない苦しい時間帯が続く。わずか4点を返すに留まり、32-55と引き離される。

 第4クォーター、アグレッシブさを取り戻した女子日本代表は果敢にゴールを狙う。試合時間残り2分を切り北田千尋が鮮やかな3Pシュートでチーム最多の17得点をマークするも、最後までスピードが落ちることのなかった千葉ホークスに45-64で敗れた。

チーム最多の17得点をマークした北田千尋[写真]=張理恵

 チーム最年少の柳本あまねは試合を振り返りながら、率直に胸の内を明かした。

「高くてスピードの速い男子選手と対戦して、チーム内の試合なら通るパスが受けられなかったり自分が出すパスも通らず、シュートも相手のジャンプアップの速さにうまくついていけませんでした。コロナ禍のせいにはしたくありませんが、地元では他チームの練習にも行けず、慣れている人同士の練習だけなので、もう少し試合をする機会があったらいいなと思いました」

 柳本の言葉は、コロナ禍でのチームスポーツの難しさを物語っていた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により合宿をはじめとする代表活動は中断し、チーム全体が動き出したのはその半年後。不安な日々が続いた。

 それでもチームが掲げた“銅メダル獲得”という目標はかすむことはなかった。

 東京2020大会の1年延期が決定し、「成長する期間」とポジティブにとらえ、体育館が使えない状況の中でも一人ひとりがやれることに取り組んできた。その人知れぬ努力は、コロナ禍前に比べても今日のパフォーマンスが決して見劣りすることがなかったことからも証明される。

 岩佐HCによると、「(選手は地元に帰ると)みんな個人練習。代表合宿でしか対人練習を行えず、5人対5人の試合は合宿での紅白戦だけ」。合宿では男子U23強化指定選手や男子のクラブチームに練習相手になってもらうこともあったという。「ゲーム勘は間違いなく不足しているので、東京パラリンピック本番に向けて男子チームの胸も借りながらチーム力を高めていきたい」と語る。

 5月12日には東京パラリンピックの組み合わせ抽選会が行われる。

 決戦の時は刻一刻と近づいている。

藤井郁美とダブルキャプテンを務める網本麻里[写真]=張理恵

 そんな中、今回の試合では、新たな日本代表ユニフォームがお披露目された。目を引くのは前面に大きくデザインされた富士山(白地には金色、黒地には赤色。パンツにも左右両側にデザインされている)。

 背中には鷹。そして、内側には…茄子。
 “一富士二鷹三茄子”
 富士(不死)、鷹(高い)、茄子(成す)。縁起の良い、明るく道を照らしてくれるような眩しいJAPANのユニフォームだ。

「今までにない日本らしいデザイン。多くの人に見てもらいたい」

 4月から藤井郁美と一緒にダブルキャプテンを務める網本は誇らしげにそう語る。

 東京パラリンピックでの目標は、銅メダル獲得。

 車いすバスケットボール女子日本代表は困難に負けることなく、高みを目指して挑み続け、ここ有明の地で必ずやその目標を成し遂げる覚悟だ。

文・写真=張理恵

BASKETBALLKING VIDEO