2021.05.10
現在、イースタン・カンファレンスのプレーオフ圏内につけるニューヨーク・ニックスは、ようやく長いトンネルを抜け、本格的な再建を始めようとしている。しかし、もし数年前にフィル・ジャクソンとカーメロ・アンソニーの仲違いがなければ、ここまで低迷期が続くことはなかったのかもしれない。
監督としてNBA歴代1位の優勝回数を誇る殿堂入りの名将は最近、ポッドキャスト番組『The Curious Reader』に出演。そこで、大人気なくもアンソニーとの確執を再び掘り返し、メロの選手としての気質に苦言を呈した。
「私が思うに、カーメロはリーダーになりたかったのだろう。でも、彼は選手として、どうすればリーダーになれるのかを完璧には理解していなかったと思います。それに、チームの指揮を任されたコーチたちは、彼の個性の強さに怯えていたのではないでしょうか」
ジャクソンにとって、ニックスでの球団社長歴は、バスケットボールキャリア唯一の汚点なのかもしれない。もう退任から数年が経過しているが、当時の“恨み”は未だに忘れられないようだ。
アンソニーは、パトリック・ユーイングに次ぐ、ビッグアップルの新たな希望だった。圧倒的な個性の持ち主が故に、お世辞にもアマレ・スタウダマイヤーをはじめとするチームメイトたちと良好なケミストリーが構築できたとは言い難いが、フランチャイズレコードの1試合62得点に象徴される驚異の得点能力は、ニックスに多くの白星をもたらした。
しかし、2013-14シーズンにマイケル・ジョーダンとともにシカゴ・ブルズで一時代を築いたジャクソンが球団社長に就任すると、ニックスはフロントと選手間に大きな溝が生まれ、解体の一途を辿ることになる。ジャクソンのトライアングルオフェンスへ対する執拗なこだわりに、現場は不満が溜まる一方。自他ともに認めるエースのアンソニーとジャクソンの関係悪化は修復不可能なところまで進行してしまい、最終的にジャクソンは事実上の解任、メロもオクラホマシティ・サンダーへトレードとなった。
ジャクソンとアンソニーは、水と油のような関係だった。ジャクソンは公の場にもかかわらず、球団に尽くすアンソニーに対して「彼は他の球団に行ったほうが成功する」と、戦力外とも取れる発言を残している。また、当時のニックスとアンソニーの契約にはトレードを拒否する条項が盛り込まれていたが、ジャクソンは同選手に対して「私たちでは勝てない。リングなしでキャリアを終えるのは嫌だろう」と、球団からの要求を飲むよう促したという。
アンソニーの禁止条項を承認したのは、ジャクソンのはず。だが、当の本人は「コンプライアンスが欠如している」とアンソニーを非難し、この一件を以下のように振り返っている。
「選手とコーチ間にあるべきコンプライアンスが存在しませんでした。私は自分の信念を伝えようとしましたが、物事をどのように進めるかを指示する上で、効率的な現場とは程遠い状況だったと思います」
「私はカーメロをトレードしたかったのです。しかし、彼はトレード禁止条項を持っていたため、私は状況を説明してトレードを提案し、要求を飲んでほしいとお願いをしました。彼は何でも、好きなように選択をすることができましたが、ニックスにいたことで彼の時代がやってきたという考えを理解してほしかったのです」
では、アンソニーはジャクソンに対して、どのような気持ちを抱いていたのだろうか。
メロは昨年10月、JJ・レディックがホストを務める『The Old Man & the Three』出演。そこで、当時問題となっていたジャクソンのトライアングルオフェンスの導入をこう振り返っていた。
「彼はゆっくりとチームを分解し、トライアングルで機能すると思われるパーツをはめ込んでいったが、俺たちのオフェンスは重要な時期にあったんだ……。トライアングルは機能はするけど、今はゲームも、選手も速くなっている。デリック・ローズとレイモンド・フェルトンがいるのに、2ガードフロントでプレーするなんてありえない」
「フィル、あんたはコーチじゃなかった。コーチじゃなかったから、うまく機能しなかったんだ。もし、コーチをやりたいなら、コーチとしてあそこに来れば、俺たちは聞く耳を持っただろう。俺たちは一日中、トライアングルをすることができたし、反発することはなかった。もちろん、選手は不満を持っていたし、やりたくないと思っていたけれど、『無理だ。俺たちにそんなことできない』と拒絶することもなかった」
アンソニーのニックスでのキャリアは、とても順風満帆なものではなかった。優れたタレントを擁していたが、最後までパズルが完成することはなく、不完全燃焼のまま、ニューヨークを後にしている。そして、稀代のスコアラーは直接的な表現を避けながら、ニックス時代の苦悩を滲ませている。
「ニックスは1人、また1人と、選手を放出していった。あっという間だったが、俺はあそこにいた。間違いなく、あそこにいたんだ……。俺はニューヨークのニックスという球団にいて、全ての問題を解決しなければいけなかったんだ」
人は全員と盟友になれるわけではなく、時には理解できない相手とも仕事を共にしなければならない。しかし、互いに偉大な功績を残しているだけに、「もしジャクソンとアンソニーの相性が良ければ……」と妄想してしまうのもまた事実だ。
ただ、過ぎた時間は戻らない。2人はすでに、別の道を歩んでいる。昔話はこの程度にしておき、新星ニックスのこれからに期待したい。
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