2023.04.07

脚本家が語る、ナイキとジョーダンの契約を描いた映画『AIR/エア』に込めた想い

映画『AIR/エア』ではAir Jordan 誕生秘話が描かれる[写真]=Getty Images
某ストリートメディアのシニア・エディターを経験後、独立。ひとつのカルチャーとしてバスケットボールを捉え、スポーツ以外の側面からもNBAを追いかける。

※以下、一部作品のネタバレを含みます。

 4月7日(金)、ナイキが誇る不朽の名作『エア・ジョーダン』の誕生秘話を題材にした映画『AIR/エア』が、日本全国でロードショーを迎えた。

 本作は1984年、業績不振だったナイキのバスケットボール部門の立て直しを任されたソニー・ヴァッカロがマイケル・ジョーダンと契約し、『エア・ジョーダン』を生み出すまでの物語。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や『アルゴ』でアカデミー賞を受賞したベン・アフレックが監督とナイキの元CEOであるフィル・ナイト役を務め、アフレックの盟友にして『ボーン』シリーズや『オデッセイ』で知られるマット・デイモンがヴァッカロを演じる、豪華キャストでお届けされる。

 公開にともない、『AIR/エア』の脚本家を務めたアレックス・コンヴェリーは米誌『TIME』の取材に応じている。監督のアフレックが「この映画は人生最高の経験だった」と述べると同様に、コンヴェリーもスポーツ史上最高の契約をストーリー化できたことに大きな意義を感じている。

「今となってはマイケル・ジョーダンがNBAでどれほど活躍できるか懐疑的だった世界線や、ナイキが単なるランニングウェアの会社として終始している世界線は、想像もつきません。ジョーダンとの契約により、ナイキは明らかに別次元の成層圏に突入したのです。我々はその結末を目の当たりにしていますが、そこに至るまでの道のりを知ることはとても価値のあることです」

 本作の大部分は、ナイキのスポーツマーケティング部門の重役であるヴァッカロが、それまでNBAのコートにも立ったことがなかったルーキー時代のジョーダンとシューズ契約にサインするまでの過程にスポットライトを当てている。マーケティングチームのメンバーは他の選手との取引を推奨したが、ヴァッカロは先見の明で未来のスターを特定し、ジョーダンとの契約にすべてのリソースを費やすべきだと主張。そして、ヴァッカロは両親の力を借りてジョーダンを説得し、結果としてナイキはジョーダンにアディダスの2倍の契約金を提示。さらに、彼の肖像で販売されたすべてのシューズより25パーセントのロイヤリティーを支払う前代未聞のビッグディールを成立させたのだった。

 コンヴェリーは、本作で描いたヴァッカロを“予期せぬナイキの名もなき英雄”と称している。

「彼はナイキの社長でも何でもありません。会社で役職があるわけでもなく、やっていることも非常に曖昧で、履歴書を書くことさえ難しかったですが、彼は非常に魅力的なキャラクターでした」

 実世界において、ヴァッカロはジョーダンとの契約を作り上げた立役者だ。このナイキの元スポーツ・マーケティング部門の重役によると、合意には3カ月の時間を要し、お世辞にも簡単な仕事ではなかったことを明かしている。

「私の仕事は、この若い会社(ナイキ)が前例のないことをやろうとしていると、ジョーダンに信じてもらうことでした。それが任務だったのです。ジョーダンには自分の考えがありました。彼にはやりたいことに対するアイデアがあり、ナイキと歩みをともにしたくなかったのは確かです。だからこそ、それは私にとって最高の挑戦でした」

若き日のジョーダンも登場するが、物語の主人公は彼ではない[写真]=Getty Images


 作中でジョーダン本人は学生時代の映像のみでの出演となり、ジョーダン役のダミアン・ヤングさえ最小限の出演にとどまっている。アフレックはその理由について「僕が誰かを起用して『あれがマイケル・ジョーダンだよ』と言っても、それが本物でないことは一目で分かってしまう」と説明。そして、コンヴェリーも意図的にジョーダンが脚光を浴びないような構成を意識して物語を組み立てたと述べている。

「私ははじめから、この映画をマイケル・ジョーダンの伝記にしないよう、強く意識していました。なぜなら、それは私が本当に伝えたいストーリーではないからです」

 一方、ジョーダンも2015年に『USA TODAY』に掲載されたインタビューで、ナイキとの契約に至る経緯を語っている。きっかけこそヴァッカロが作ったものの、最終的な契約を後押ししたのは、バスケットの殿堂入りを果たしており、作中でマーロン・ウェイアンズが演じるジョージ・レイブリングだったという。

「ソニーは、自分が功労者だと言いたがる節がある。でも、実際はジョージ・レイブリングのおかげだ。ジョージ・レイブリングは、俺が参加した1984年のオリンピックチームでボブ・ナイトのアシスタントコーチを務めていた。彼はいつも俺に話しかけてきて『ナイキに行け、ナイキに行くべきだ。試してみろ』と言ってきた」

「正直なところ、ナイキと契約するまでナイキのシューズを履いたことはなかった。俺は大学を卒業した頃、アディダスやコンバースのファンだった。でも、両親が俺をナイキの本社に出向かせて、ナイキからの提案を聞くことになったんだ」

 もし、ナイキが後のバスケットボールの神様と契約し、『エア・ジョーダン』が誕生していなければ、文化としてのバスケットボールは全く異なる姿形をしていたに違いない。『AIR/エア』にはそんなバスケットボール、そしてスポーツのあり方に革命をもたらした知られざるエピソードが描かれている。

文=Meiji

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