2024.08.15
“最強軍団”アメリカ代表の5連覇で幕を閉じたパリオリンピックの男子バスケットボール。日本国内では、果敢に世界へ挑んだ日本代表の奮闘ぶりが話題の中心だったが、強豪国が集う五輪だからこそ見られた世界トップレベルのプレーも光った。
今回はバスケットボールコメンテーターの井口基史氏がパリ五輪を振り返り、各国のプレーから見えてきたバスケ界の“ニュートレンド”を分析。日本代表のさらなる強化につながるヒントを探る。
文=井口基史
これまではガード選手がボールを運び、ハーフコートオフェンスにエントリーすることがほとんどでしたが、激しいプレッシャーからのターンオーバー、エントリー失敗を避けるため、オンボールプレッシャーがかかりにくい、4、5番の選手にあえてボール運びを任せるシーンが決勝トーナメントでは多くありました。すでにBリーグでも実施されている考え方ですが、今後はよりビッグマンにボール運びがスムーズにできるドリブルスキルが求められている時代にすでに入っているでしょう。
第4クォーター残り10.9秒、フランスが71-68とリードしてドイツがタイムアウトを申請。そしてドイツのスローインからデニス・シュルーダー選手にボールが渡り、そしてドリブルを始めた瞬間、フランスのイサイア・コルディニエ選手がファウルをして時計を止めました。勝っているにも関わらず、ファウルゲームのような作戦に出たのです。
残り時間は残り9.4秒。すでにこのクォーター、フランスのファウルは5個に達していたので、シュルーダー選手にフリースローが与えられます。結果、1投目ミス、2投目成功でフランス71-69ドイツとなりました。
この場面、フランスは戦術的にファウルに行きましたが、2投とも決められて1点差となるリスクもありました。仮に1投目成功、2投目ミスとなった場合でも、オフェンスリバウンドからねじ込まれて同点のリスクもあります。最悪のケースはエンドワンで逆転される危険もはらんでいたわけです。ただし、フランスはファウルをすることでボールの保持権を獲得し、難しいゲームをクロージングする場面でゲームをコントロールすることを選択したわけです。
点を失ってでも最後のポゼッションを取りにいという考え方は、ユーロリーグでも浸透してきていました。今回、五輪の、しかも準決勝というステージで実際に使われて成功したことにより、Bリーグでも試合終盤で同様のクロージングをしてくるチームが出てくる可能性もあるでしょう。
そのため消耗した選手の交代を早くして、常にフレッシュな選手を送り込む必要があります。今大会で目についたのは、ベンチから出てくる選手とスタートの選手で質の変わらない、インテンシティの高いディフェンスを特に維持ができるチームが決勝トーナメントに残ったことです。
日本代表では八村塁選手の欠場の影響などもありますが、3試合を通じての平均出場時間が渡邉雄太選手36.9分、ジョッシュ・ホーキンソン選手36.5分と長い時間コートに立ちました。もちろん彼らが代えがたいタレントだからとはいえ、試合を通じてフレッシュにプレーさせることが難しかったとも言えます。
3位決定戦を含めた決勝トーナメント全8試合で100点ゲームとなったのは1試合(準々決勝アメリカ122-87ブラジル)だけでした。日本代表は前半の失点で初戦ドイツに52失点、2戦目フランスに49失点(一番肉薄した試合)、3戦目ブラジルに55失点と、100点ペース以下で前半を終えられたのはフランス戦の1試合でした。今後はよりディフェンスでチームに貢献でき、チームメートをホットでフレッシュにい続けさせられる選手を置くメンバー構成が五輪やワールドカップなどの世界大会でさらにトレンドになる傾向が強くなるかもしれません。
短い強化期間でしか設定できないのが代表チームの難点ですが、デニス・シュルーダー選手、ワグナー兄弟、ダニエル・タイス選手などNBAでプレーするキープレーヤーたちが、複数大会を連続して出場した影響は大きいと思います。準々決勝でセルビアに敗れたオーストラリア代表も同様に、ジョシュ・ギディー選手、パティ・ミルズ選手などのNBAプレーヤーがワールドカップから継続して代表にコミットしており、攻守で高い成熟度を見せました。銅メダルに入ったセルビアもユース時代から一緒にプレーする選手も多く、昨年のワールドカップで準優勝、今回の五輪でも上位入賞を果たしています。
どうしても制約が多くなるのがNBAプレーヤー。一方でチームの成熟度を上げることによりチーム強化が進むのは自明なこと。様々なマネージメントが代表チームでも必要になっているようです。
例えばドイツ代表のアイザック・ボンガ選手は身長203センチ、ウィングスパン213センチですが、ポイントガード登録としてガードへのマークも任され、スイッチしてはビッグマンも守れるとディフェンス面で大きく貢献しました。日本でもお馴染みのデニス・シュルーダー選手と同時出場の時間では彼より高い位置でボールマンにマークすることで、同時にシュルーダー選手のディフェンスでの負担を軽減させた効果もあったかもしれません。ちなみにドイツ代表の平均出場時間で30分を越えた選手はフランツ・ワグナー選手の32.0分、デニス・シュルーダー選手の31.4分の二人だけでした。
昨シーズン、Bリーグでは富樫勇樹選手や河村勇輝選手に対し、サイズのある外国籍選手をマッチアップさせることが話題になりました。今回の五輪でそれを採用したチームがあったことで、Bリーグでもそのような守り方が増えてくるかもしれません。
ヘルプポジションでは往々にして自分のマークマンと距離が生まれます。ドライブからのキックアウトという戦術が当たり前のようになっている現代では、自分のマークマンを離して守っていると、そこにパスを入れられば3ポイントシュートを打たれる危険性が高くなるわけです。そのため、特に勝負所やクロスゲームの状況では「ノーヘルプ」で、自分のマークマンだけに集中して守るフォーメーションを多く見ました。
決勝のステフィン・カリー選手のような3ポイントが12分の8(成功率66.7パーセント)、2ポイントのアテンプトは1本だけという恐ろしい選手はそうそういないと思いますが、各チームともいかに高い確率で3ポイントを決めるかに重きを置いています。そのため「ノーヘルプ」の考え方がトップレベルのスタンダードになっていくかもしれません。相手チームへのスカウティングによって、相手の長所をいかに潰せるようにアジャストするのかは常識です。ここではヘルプポジションで守るか、ノーヘルプで行くのかということに注目しましたが、育成年代からどちらでも対応できるようにしていくことが重要だと考えます。
もちろん、ワールドカップ、五輪に連続して出場することで、選手自身が実際に世界のバスケを肌で感じることも大切ですし、実際にはすでに行われていると思いますが、強化スタッフは日本戦だけでなく、それ以外の試合から収集されたデータを分析して、強化に落とし込むという重要な仕事もあるでしょう。
分析されたデータをBリーグやアンダーカテゴリー代表をはじめ、ミニバス、中学、高校、大学、ユースなど育成世代の現場のコーチたちと共有して日本全体の強化につなげたいですね。
パリ五輪がBリーグのゲーム内容にどんな変化をもたらすのか。新シーズンの楽しみの一つとしておきたいですね!
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