2023.09.27
8月25日に開幕を控えるFIBAワールドカップ2023。開催国の1つとして大会に臨む男子日本代表は、来たる決戦の日に向けてすでに候補選手たちを集め強化合宿を実施している。
選手たちはこの大舞台に向けて、どのような思いを胸にトレーニングに励んでいるのか。幼少期の思い出から今大会にかける思いまで、一人ひとりに話を聞いていく連載。その3人目として、日本代表で台頭した井上宗一郎に話を聞いた。
インタビュー・文=酒井伸
ーー2022年6月に行われた若手中心のディベロップメントキャンプ合宿に招集されて以降、トム・ホーバスヘッドコーチ率いる日本代表に選出されています。初選出の際、どのような心境でしたか?
井上 最初はあまり実感がなかったです。ディベロップメントキャンプに呼ばれて、Window3の選考メンバーにも入り、チャンスが目の前にきたなと。
ーー日本代表への思いはいつ頃から持っていたのでしょうか?
井上 小さな時から入りたいと思っていました。アンダーカテゴリーの日本代表で練習していくなかで、日本代表を目指さないといけないわけじゃないですけど、「目指す」というふうになっていたので。中学生の頃からNTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)にお世話になったし、その時からそういった気持ちがありましたね。
ーー2022年7月の日本代表デビューから現在に至るまでの経験をどのように振り返りますか?
井上 チーム内でトム・ホーバスヘッドコーチのバスケットを経験した期間が長いので。何ならサンロッカーズ渋谷よりも長く、プレーしやすいです。ワールドカップに向けて、いい準備ができていると思います。
ーー所属チームではプレータイムが限られていたものの、招集された日本代表ですぐに結果を残しました。バスケットボールのシステムが異なるなかで活躍できた要因は?
井上 僕は3ポイントが得意でしたが、SR渋谷で求められていたのは少し違うことでした。自分の得意な部分を出せる場所が、たまたまここだったと思っています。
ーー自分の長所を発揮できるのが日本代表だったと。
井上 そうですね。自分の好きなこと、得意なことがあって、3ポイントで勝負できる。ホーバスHCもそこに期待してくれていましたし、本当にやりやすかったです。
ーー所属チームに戻ってからの取り組みについても聞かせてください。
井上 トレーナーさんが時間を作って、別のトレーニングを準備してくれました。そこで体、フィジカルの準備はできました。体重が2キロほど増えましたけど、運動量はそこまで落ちていません。それをいい方向に持っていけるようにいい準備ができていると思います。
ーー2022-23シーズンのプレータイムは1試合平均5分51秒でした。出場機会が限られたシーズンをどのようなモチベーションで過ごしていたのでしょうか?
井上 モチベーションは夏に向けてということ。そのためにできるのはバスケットボールから逃げないことだと思っていました。プレー面ではシューティングやハンドリングなどできることを取り組み、トレーニングして準備するしかないと思っていました。「夏に向けて、夏のため」と言い聞かせていました。
ーー今はバスケットボールをプレーできる喜びを感じていると思います。
井上 めちゃめちゃ楽しいですよ、バスケットボールをやれるのは。チームでは対人も少なかったので。今は2部練でキツいですけど、バスケットボールをやれている楽しさのほうが強いですね。
ーー得意の3ポイントは確率を意識してシューティングすることが多くなったとうかがいました。
井上 確率もそうですけど、ちょっとクイックに打ったりとか、なるべく早くリリースできるように打ったりとか。僕は富永(啓生/ネブラスカ大学)選手のように多く決めるわけではないので。7本打って5本決めるとか、20本打って15本決めるとか。時間は掛かりますけど、そういった練習をしていました。
ーー日本代表ではオフェンスだけでなく、ディフェンスも重要になります。アジア予選を通じた手応えや課題を聞かせてください。
井上 手応えはそこまでありません。課題で言えば、リバウンドとディフェンス、体を張ることを求められています。特にリバウンドは、僕が取れなくても周りが取るとか。僕のところで取れるのは、絶対に取らなければいけないと思っています。そういったところでアドバンテージになるわけではないですけど、相手に対し有利にリバウンドを取らせないのが日本の大事なところだと思います。
ーー過去の日本代表に対する思い出はありますか?
井上 直近では中国で行われ、アメリカと対戦した2019年のワールドカップが印象に残っています。NBA選手が(日本と対戦した)チェコにもいたし、他国にもいました。そういった選手と対戦できるのは、国内では絶対にないわけです。バスケットボールプレーヤーですけど、バスケットボールファンでもあるので。うらやましさというか、あそこでバスケットボールをプレーできたら楽しいだろうなと思っていました。
ーー国際大会を経験した選手はよく「アジアと世界の戦いは違う」といったことを話しています。現時点における自分自身が抱く印象はいかがでしょうか?
井上 同じアジアですけど、アジアカップなどでオーストラリアと戦った時、他のアジアの国々とはレベルが違うと感じました。選手一人ひとりの質も違って、そういったところでアジアと世界の差を肌で感じられました。
ーー世界との差を埋めるためにどのようなことが必要だと感じていますか?
井上 今回なら、日本の明確な武器はトランジションと3ポイントが挙げられています。それを12人全員でできれば、相手は苦しくなります。あとはしつこいディフェンス。この3つが「日本の武器」と言えるようになると思います。それは今までなかったこと。それができるようになって、あとは先ほども言ったリバウンドやディフェンスなど細かい部分を徹底していけば、本当にいい勝負になると思っています。「今までになかった3ポイントが武器」と自信を持って言えるようになったら、日本は戦えると思います。
ーー今は自分たちの強みを伸ばしていくところでしょうか?
井上 3ポイントが入らないと、どうにもならないと思います。ディフェンスでもしっかり守らないと、どうにもならないと思います。言ってしまえば全部ですけど、3ポイントは各々の力が関わってきます。
ーー日本はドイツ、フィンランド、オーストラリアと同じグループに入りました。組み合わせ決定を受けての感想をお願いします。
井上 フィンランドには(ラウリー)マルケネン(ユタ・ジャズ)がいて、オーストラリアは世界3位の国。ドイツにはユーロやNBA選手も多くいます。この3カ国と同じグループに入って、日本は世界的に見ても弱いし、あまり期待されていないと思いますけど、僕は逆にチャンスだなと思っています。ドイツ、オーストラリア、フィンランドの強い3チームが「日本なら勝てるでしょ」という気持ちできたところで、足をすくってやりたいと思っています。“死のグループ”などと言われていて、それなりに日本も認められているのかなと思っています。
ーー対戦したい選手はいますか?
井上 たくさんいますよ。マルケネンもそうだし、オーストラリアはジョー・イングルス(ミルウォーキー・バックス)が入ってくるでしょうし。ドイツではオースティン・リーブス(ロサンゼルス・レイカーズ※ドイツ代表入りが噂されたものの、のちにアメリカ代表を選択)、デニス・シュルーダー(トロント・ラプターズ)もそうです。NBAの選手と対戦したいですね。
ーー日の丸を背負う想いについても聞かせてください。
井上 背負っていないわけではないですけど、そこにはあまりこだわらないで、僕自身は本当にチャレンジだと思っています。あまり難しいことを考えないでやろうかなと思っています。もちろん、責任やプレッシャーがあることを知っている上で、逆にそれを持てるのは選ばれた12人だけ。それはうれしいことだと思うので、ポジティブな方向に考えていこうと思っています。
ーーメンバー生き残りに向けて、改めてアピールしたいポイントを聞かせてください。
井上 ビッグマンだけど3ポイントシュートを打って貢献したい。自分の弱点をチームのプラスに変えていけたらいいと思います。いつも言っているディフェンス、リバウンド、3ポイントがポイントです。
ーー沖縄アリーナで戦うことを想像すると?
井上 すごくホームコートアドバンテージがあると思います。観戦に来るのは沖縄の人だけではないと思いますけど、沖縄の人はバスケットボールに対して熱心なので、あそこでプレーするのは本当に楽しみですね。
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