2023.10.12
8月25日に開幕を控えるFIBAワールドカップ2023。開催国の1つとして大会に臨む男子日本代表は、来たる決戦の日に向けてすでに候補選手たちを集め強化合宿を実施している。
選手たちはこの大舞台に向けて、どのような思いを胸にトレーニングに励んでいるのか。幼少期の思い出から今大会にかける思いまで、一人ひとり話を聞いていく連載。その2人目として、プロ入り前ながら日本代表候補に名を連ねる金近廉に話を聞いた。
インタビュー・文=峯嵜俊太郎
――バスケットを始めたのはいつですか?
金近 小学4年生に始めました。兄がもともとバスケットをやっていたので、小3くらいから公園で一緒にやり始めて、その流れでバスケ部に入ろうかなと。
――その頃、ワールドカップや日本代表に対してはどのような印象がありましたか?
金近 当時はあまりバスケットを“見る”という習慣はなくて、兄が中学生になってからは一緒にNBAを見るようになりましたが、日本のバスケットは正直あまり見ていませんでした。なので、印象に残っているのは2018年のワールドカップ予選からですね。特にオーストラリア代表に勝った試合。当時、日本がどんどん強くなっていくのを一人のファンとして見ていました。
――当時、A代表の練習を見て一番印象に残った選手は?
金近 やっぱり八村塁選手。初めて世界レベルの選手を見たというか、動きの質やプレースタイルが日本では見ないようなもので、本当にすごいなと感じました。
――U16日本代表時代についても聞かせてください。金近選手は小学生でセンター、中学2年生でポイントガード、高校に入ってまたインサイドとポジションを変えていましたが、U16日本代表ではどこでプレーしてましたか?
金近 代表では基本的に2番(シューティングガード)か3番(スモールフォワード)をやっていました。普段と違うポジションということで、特にディフェンスには苦労しましたね。ゴール下とは違ってリングやボールが見えなくなる瞬間があるというところで、うまくディフェンスできないことが結構多くて。今でもオフボールディフェンスに課題はあるので、これからプロで2番、3番をガッツリやっていく上で改善しなければいけないと思っています。
――当時のチームはチェコ遠征を行ない、クリスタル・ボヘミアカップという大会で優勝しています。海外の選手と戦った手応えはいかがでしたか?
金近 海外の選手は線が細い選手でも攻守で体を張ったプレーをすることを嫌がらないので、そこに日本との差をすごく感じました。シンプルに真っすぐリングにアタックしたり、リバウンドにも果敢に飛び込んでくる。自分も当時はフィジカル的な部分でハンデがあったので、すごくいい勉強になりました。
――その後、2021年にはU19ワールドカップに出場。7戦7敗という厳しい結果に終わりましたが、大会の印象は?
金近 国によってバスケットのスタイルもプレーの質も全然違うので、いろいろな国、いろいろな選手と対戦できたことはすごくいい経験になりました。そのなかでもカナダのベネディクト・マサリンという選手は特に印象に残っていて、今ではNBAのインディアナ・ペイサーズでプレーしています。そういう選手とマッチアップできたのは本当にいい経験になりましたし、同時にあのレベルでプレーしないと世界では通用しないんだと感じられたので、より日本代表に入ろうと思えるきっかけになった大会でした。
――ご自身のプレーで通用したと感じたものはありましたか?
金近 3ポイントは通用したなと。リングからの距離に関係なく打てるのが自分の強みで、身長が高くて腕も長い相手が多いなか、少しディープなところから打つのを相手も嫌がっていたかなと。成功率も結構良くて、大会のランキングで8位に入っていました。
――そして、翌年の2022年2月にはアジア競技大会に向けた若手中心の日本代表強化合宿に招集されます。
金近 当時は「自分が選ばれるんだ…」というのが正直な気持ちでした。同世代からは僕一人で、大学生から選ばれているのも高島紳司さんと河村勇輝さんと僕の3人だけ。そのなかに入れたというのはうれしかったです。初めてトムさんと一緒にやったこの合宿では、自分は100パーセントの力を発揮できなかったので悔いが残ったんですけど、このとき一度経験していたことが翌年の合宿につながったので、今振り返ると選ばれて良かったと思います。
――歳上のプロ選手たちと一緒に練習するのは初めての機会だったかと思いますが、緊張などはあったのでしょうか?
金近 そのときはプロ選手たちも初めてA代表の合宿に招集される方が多かったので、自分としては年齢の区別をつけずに同じ土俵に立ってやっているという感覚でした。自分は大学生だからと負い目を感じたりはしなかったです。プロの方々もフラットに接してくれたりもして、すごくやりやすかったです。
――その1年後の2023年2月、ディベロッメントキャンプからの昇格でA代表の合宿に参加することになります。
金近 ディベロップメントキャンプはほとんどが大学生のメンバーのなか、自分は1年前にトムさんのバスケットを経験していたので、緊張せずに自分のプレーをしっかりと出せました。そのキャンプの最後に一人ずつ面談が行われて、そこで「来週の合宿にも呼びます」と伝えられて、A代表の合宿に参加することになった感じです。
――A代表になると、それまでの合宿からはさらに練習のレベルが上がったと思います。
金近 本当に日本のトップレベルの選手が集まっていたので、練習でマッチアップできるのが楽しかったです。ただ、個人的には足りない部分が多いと感じる部分がすごくあったので、どっちの面でもすごく良い経験になりました。
――そのまま合宿参加にとどまらず、ワールドカップアジア地区予選のロスターに選出されましたが、当時の心境は?
金近 「自分が残るんだ」という感じで、戸惑いの方が大きかったです。合宿では精一杯やってはいましたがあまり調子は良くなかったので、選ばれないだろうと思っていたので。でもそのときに(河村)勇輝さんと少し話して、「同じポジションで選考から落ちた選手もいる。そういうことも考えて、選ばれたら精いっぱいやるだけだし、やらないといけない。その責任が選ばれたからにはある」と言ってもらえて、そこで自分としてもスイッチが入りました。
――そしてA代表デビュー戦となったイラン戦でいきなり20得点を記録。どのような心境でプレーしていたのでしょうか?
金近 あの試合は、誰も自分には注目してないだろうなと思いながらプレーしていました。なのでミスしても、シュート外しても、別に自分としては何も考えず、ただただシューターという役割をぶれずに1試合やりきろうと。あとは、あれだけ観客が入ったなかでプレーするのは本当に久しぶりだったので、シンプルに楽しめました。それがしっかり結果につながって、本当に良かったと思います。
――一方で続くバーレーン戦は無得点でした。どのような違いがあったのでしょうか?
金近 バーレーンのリズムが個人的にすごくやりづらく、そこにうまくアジャストできなかった印象です。そこの悔しさが一番大きいんですけど、イラン戦を見て応援してくれていた人もいるので、その期待に応えられなかったというのも悔しかった。ほかのコンスタントに活躍している選手たちを見て、自分もああいう風に毎試合チームに貢献しないといけないとすごく感じました。
――代表合宿からバーレーン戦にかけて、非常に濃密な時間だったと思いますが、課題の方が多かった?
金近 自分の足りない部分を感じることの方が多かったです。イラン戦は自分のなかでは運が良かったということで区切りをつけて、それ以外の部分に目を向けると全然ダメだったので、これからもっと努力しないといけないと思いました。
――練習生として加入した千葉ジェッツでは、日本代表を意識した練習などはしていましたか?
金近 やはり3ポイントの部分で、よりキャッチしてからシュートするまでを速くするよう取り組んでいました。自分と同じくらいか、大きい選手とマッチアップすることがほとんどなので、少しでもシュートを打つまでのタイミングを速くすれば、シュートチャンスも増えると思うので。それに加えてフィジカルの強化をメインにこの2、3カ月間はやってきました。
――現在強化合宿の真っ只中ですが、これから約2カ月後にワールドカップの舞台に立つご自身をイメージできますか?
金近 正直、今はイメージはできていないです。自分としては今は最後のメンバーに残ることを一番に考えていて、ワールドカップ本番よりもまずは強化試合でしっかり結果を残していくことや、この合宿中から自分のプレーを見せていくことに重点を置いています。ワールドカップに立つイメージは、これからどんどんほかの国のトップ選手たちと対戦していくなかで自然と湧いてくるのかなと。
――このオフシーズン、代表活動で濃厚な時間を過ごすと思いますが、その経験を経た新シーズン開幕時にはどのような選手になっていたいと思いますか?
金近 昨シーズンの千葉ジェッツは史上最高勝率を残す素晴らしい成績で、そんなチームに自分は加わることになります。もちろんすごい選手がたくさんいて、一番年下にはなるんですけど、そのなかでも自分が中心にならないといけないという思いがあります。昨シーズンの試合を見ていて、自分がコートに出ていたら変わっていたのかなと思う瞬間も多少あったので。自分のおかげで優勝できたなと言ってもらえるように、開幕からボールを持ったら積極的に攻めていきたいと思いますし、ディフェンスでも外国籍の選手をしっかり1対1で止めたい。オールラウンドな活躍を目標にやっていきたいと思います。
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