2016.11.30

青山学院大学はなぜSR渋谷に体育館を貸し出したのか、三木義一学長がその理由を語る

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産官学の「学」が加わったことで、サンロッカーズ渋谷は晴れてB1リーグでスタートを切ることができた。ここに至るまでは紆余曲折があった。クラブは渋谷をホームタウンにするべく渋谷区に働きかけた。しかし、ホームアリーナ候補の国立代々木競技場第二体育館と東京体育館は稼働率の問題で合意できず、次に白羽の矢を立てたのが青山学院大学の体育館「青山学院記念館」だった。渋谷区からの声掛けから、使用が決定するまでにいくつかの問題はあったが、大学側も前向きに取り組み実現に至った。三木義一学長は言う。「バスケットボールが日本の社会に定着する、その協力ができれば。それが大学にとって社会貢献にもなる」。産(クラブ)と官(渋谷区)のタッグに、学(青山学院大学)が参画した異色のコラボレーションは無限の可能性を秘め、大きな期待感を抱かせる。三木学長も「渋谷区民、そして日本の多くの方々に愛される選手、チームになってほしい」との想いを募らせている。

インタビュー=安田勇斗
写真=Bリーグ

――今シーズンから青山学院記念館を、サンロッカーズ渋谷がホームアリーナとして使用しています。どのようなきっかけで使用することになったのでしょうか?
三木 渋谷区の長谷部健区長のご提案でした。渋谷区は、国内でもバスケットボールが盛んな地域ですよね。それでサンロッカーズ渋谷がホームアリーナを渋谷に置きたい、ぜひ協力いただけないかというお話があったんです。これまでも渋谷区とは良い協力関係を築けていたので、それを加速させていく上でも良い取り組みだと思いました。ただ青山学院の施設ですから、プロチームへお貸しして良いのかという話もあり、またそれに伴ういくつかのハードルもありました。そのあたりを調整することができて、お貸しすることを決断しました。

――大学内で反対意見などはなかったのでしょうか?
三木 今回は渋谷区からお話をいただいて、学生生活部が中心になって動きました。学生が活動する場所の問題などもありましたが、法人と大学の2者で検討し、工夫を重ねて対応しました。

――プロクラブと手を組むことで、大学としてはどんなメリットを感じていますか?
三木 これまで大学はプロスポーツとは無縁でした。プロスポーツのリーグ戦で、大学の施設が利用されるというのは初めての試みです。我々がこうしてプロスポーツの手助けをするということは、そのクラブが地域に支えられているということだと思います。スポーツと地域は切り離せないものですし、その橋渡しができるのは良いことかなと思います。実は体育館をお貸しすることで批判を受けるかもしれないという不安もありましたが、皆さん好意的に受け取ってくださり、正直ホッとしています(笑)。

――今後はクラブとどんな連携を築いていきたいですか?
三木 バスケットボールが日本の社会に定着する、その協力ができればと思います。Bリーグもまだ社会的に確立されたものではないですけど、それを日本の社会、日本人に定着させることは、大学にとって社会貢献になると思っているんです。バスケットボールは本当に素晴らしいスポーツですが、これまで日本では、あまり本格的に接する機会がありませんでした。とても良い立地にある青山学院記念館をお貸しすることで、多くの方が見に来られる環境になったと思いますし、これをきっかけにバスケットボールが人気になれば我々もうれしいです。大学がスポーツを普及させていく、その土台を提供することに違和感はないと思います。場所の貸し出しに限らず、これからもこうした協力をどんどんやっていければと思っています。

――土日に大学体育館をお貸ししている間、学生はどこで活動しているのでしょうか?
三木 渋谷区と学生生活部が協力して、近隣施設や相模原キャンパスなど代わりに使用できる場所を確保しています。気楽に「プロに体育館を貸して儲かっていますね」なんて言われることもありますが、代替場所の使用料やそこまでの学生の移動費などの負担を考えると、そんなに儲かっていません。むしろ、代替場所を手配するための段取りが結構大変です(笑)。

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――青山学院大学のバスケットボール部とSR渋谷の交流などは考えていますか?
三木 今のところないですね。我々の古い発想かもしれませんが、プロとアマチュアはきちんと区別をするという考えがあって。ただ、本学のバスケットボール部も強いんですよ。サンロッカーズやリーグの人気が出れば、自然とバスケットボール部にも良い影響が出るんじゃないかなと期待しています。

――学長ご自身はスポーツ経験はありますか?
三木 私は小さい頃に柔道をやっていて、高校は野球を、社会人になってソフトボールをやっていました。

――バスケットボールをやったことは?
三木 背が高くなるならやっていたんですけど(笑)。でも経験者に聞いたら「背が高いからバスケットをやるんだよ」と。確かにそうですよね(笑)。

――(笑)。スポーツマンだった学長から見て、バスケットボールはどう映りますか?
三木 楽しいですよ。迫力がありますし、激しいスポーツですからね。狭いコートの中で走ってもほとんど転倒せず、ちゃんと止まれるのもすごい。私みたいな素人がやったらすぐに倒れちゃいますよ(笑)。動きが速いし、パスのスピードも速い。あの速さは実際に見ないとわからない。先日、試合を実際に見てみて本当に楽しませてもらいましたし、たくさんの方々にも見ていただきたいなと思いました。

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――SR渋谷は現在中地区4位です。ここまでの戦いをどう見ていますか(2016年11月1日取材)?
三木 ちょっと残念ですね。最初がすごく良かっただけに。まあ初年度から優勝すると、次への楽しみがなくなるかもしれないですけど、引き続きがんばってもらいたいです。最初苦労してじわじわと実力をつけて、それで優勝したら渋谷区も盛りあがりますし、そういう展開も期待しています。

――「期待」とありましたが、成績以外でクラブにどんなことを期待していますか?
三木 陸上競技部が示した青学のイメージを、プロの皆さんにも出していただきたいと思っています。陸上競技部の選手たちはものすごく練習しているんですよ。自己管理も徹底しています。でも試合に勝った後のインタビューでは、それをひけらかさない。負けた相手に配慮して、さらっと答えるんです。原晋監督が選手たちにコメントの練習もさせていて、そういう対応ができているんですよね。スポーツ選手は、スポーツ選手である時間よりも、一般社会で生きていく時間の方が長いものです。原監督はその一般社会で生活する上で、必要なコミュニケーション能力なども身につけさせているんですよ。以前は「勝った! やりました!」みたいなコメントが多かったと思います。しかし、陸上競技部の選手たちがスマートなコメントをすることで、駅伝自体をよりさわやかなものに変えたかなと。サンロッカーズの選手たちにはもちろん勝ってほしいですし、そのために大変な努力をしていると思います。それと同時に勝ち方や試合後のコメントも含めて、プロ選手にふさわしい対応をしていただきたいなと。それがバスケットボール選手の模範となっていき、渋谷区民、そして日本の多くの方々に愛される選手、チームになっていってほしいと思っています。

――SR渋谷には広瀬健太選手と伊藤駿選手の2人の卒業生がいます。
三木 サンロッカーズの中心選手として活躍できるよう期待しています。彼らは青学生にとって目標になる存在です。ぜひ活躍して現役生がさらに憧れる選手になってほしいですし、応援しています。

 

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