2017.02.10

“ノリノリ”のSNSを仕掛ける名古屋Dの広報「みんなでチームを作りあげていきたい」

名古屋Dの松本麻里さんに話をうかがった [写真]=名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
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名古屋ダイヤモンドドルフィンズTwitterをご覧になったことがある方はご存知だと思うが、このチーム、とにかく選手が明るい。カメラを向けられると、何かやらなければいけないと刷りこまれているのか、ホスピタリティが高い選手が多いのか、タイムラインに流れてくるたびにクスっと笑ってしまう微笑ましい投稿が多い。ハロウィンの仮装、マネキンチャレンジは当然のこと、日々の投稿もにぎやかなものが多く、ファウルなどのルール説明も選手自らが面白おかしく実演する。この、バスケットボールをわかりやすく、親しみやすくと心掛けて選手スタッフを巻きこんでいるのが、広報担当の松本麻里さんだ。SNSを中心に積極的にチームや選手をアピールし、先日行われたオールスターにはファン投票で張本天傑ジャスティン・バーレルを送りこむ原動力にもなった彼女はとても明るく、若くして大変多くの経験を積んだ、チーム愛溢れる広報のスペシャリストだ。そんな彼女のルーツと自らの任務について語ってもらった。

インタビュー=村上成
写真=名古屋ダイヤモンドドルフィンズ

――松本さんはもともとスポーツがお好きなんですか?
松本 もともとスポーツを観るのは好きでした。けれど、スポーツビジネスって面白そうだなと思うようになったきっかけはサッカーの日韓ワールドカップです(2002年開催)。フィリップ・トルシエ監督率いる日本代表の稲本潤一選手(現コンサドーレ札幌)のプレーにカッコいいなと思ってサッカーに興味を持ちました(笑)。それから、こんなに大勢の人が熱狂するスポーツイベントがあるんだと感動し、興味を持ったのを憶えています。

――スポーツ業界で働きたいと考えたきっかけを教えてください。
松本 日韓ワールドカップのきっかけもありましたが、アメリカのカリフォルニア州サンタクララにあった女子サッカーチームのFCゴールドプライドで1年間インターンとして現場の経験を積んだことが直接的なきっかけです。インターンでは様々なことを教えてもらいましたが、メインの業務として地域貢献やホームタウン活動に携わっていました。その時に、「ホームの試合1ゲームをまるまる使って、自分のやりたい企画を立てて実行していいよ」と言われ、『ジャパンナイト』という企画を実施しました。

――具体的にはどんな内容だったのですか?
松本 当時チームには荒川恵理子選手(現日体大FIELDS横浜)が所属していましたし、私も日本人ですから、サンタクララの方やチームのサポーターに、もっと日本を知ってもらいたいという想いから企画しました。とは言っても、何のノウハウもコネクションもなかったので、当時サンノゼジャイアンツにいた日本人スタッフの方に現地の日本人コミュニティとの連携方法を聞いたり、領事館にアプローチしたり、WEBでカリフォルニア州にある日本企業へスポンサーのアプローチをしたりと試行錯誤しながら進めました。当日は、荒川選手のそっくりさんコンテストを実施したり、選手入場に和太鼓を使ったりと、苦労はありましたが、自分で考えて、交渉を重ねた様々なアイディアを実現でき、達成感を得ることができました。

――素晴らしい経験ですね。インターンにそこまで権限を持たせるチームもすごいと思いますけど(笑)。
松本 そうですね。大変でしたけど、本当に貴重な経験でした。

――最初からアメリカで学ばれていたんですか?
松本 最初は日本の大学で経営学を専攻していました。実は、私は兵庫県で生まれたのですが、生後7カ月から高校を卒業するまではサイパンで育ちました。親が日本の大学で勉強をしてみなさいと勧めてくれたので、大学は日本へ行きましたが途中でスポーツマネジメントを専攻したいと強く思いワシントン州立大学へ編入し、スポーツマネジメントについて学びました。ワシントン州立大学では、私が4年生の時の1年生にクレイ・トンプソン(ゴールデンステート・ウォリアーズ)がいて、当時から有名でしたよ。

――ワシントン州立大学はバスケットボールの名門校ですね。それでバスケットボールの世界に……。
松本 いえ。実は最初はサッカーなんです(笑)。日本のJリーグのクラブでもインターンを経験したり、サイパンのサッカーU-12代表の手伝いをしたりもしたのですが、それらの経験から、スポーツ業界ではネットワーク構築の必要性と、実際に現場を知ることが大事だと考えて、プロクラブの求人を探していました。その時はアメリカにいたのですが、WEBで沖縄にあるサッカークラブのFC琉球の求人を見つけてアメリカから履歴書を出しました。あまり深く考えずに、求人の概要に英語を話せる人材と書いてあり、日韓ワールドカップの時に監督だったトルシエさんがいたり、沖縄はサイパンと同じ島国だし、とりあえずスポーツの現場で経験を積むためにも働きたいという思いがありました。のちにクラブの社長から聞いたのですが、「アメリカから履歴書が来たから、ビックリしたよ」と(笑)。気づけば沖縄で5年経っていました(笑)。

――就職の決め手が変わっていますね(笑)。5年を沖縄で過ごした後は?
松本 その後、サッカーとは違う競技で、新しいチャレンジをと考えていたので、そのタイミングでお声掛けいただいたナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)の広報に転職しました。それまで、バスケットボールにはなじみがなく、実はルールも全く知らなかったので、クラブではなくリーグとしての広報の仕事は面白そうではあるけど、すぐにやれるか不安もありました。自分の経験をどれだけ活かせるのかわかりませんでしたが、良いところをうまく採り入れていきたいと考えて転職しました。

――なるほど。常にアクティブな松本さんらしい考え方ですね。
松本 バスケットボールの知識がない中で、新しいファンを増やすために何ができるか考え、仕事に就いてからはなるべく多くの会場に足を運びました。バスケットボールのことを知らない人にも観に来てもらえないかと思い、会場やチームの雰囲気を実際に感じとり、観客席からの視点で、試合以外の魅力を伝えるレポートをNBLのFacebookなどで連載するなど、SNSを活用した取り組みを実践できたことは大変良い経験になりました。

――新しいスポーツへの挑戦でしたが、その後はなぜリーグからクラブへ転職されたのですか?
松本 リーグの仕事も魅力的だったのですが、もっと現場に踏みこんだ仕事がしたいと思うようになり、Bリーグの開幕に合わせて名古屋ダイヤモンドドルフィンズにお世話になることになりました。

――ワシントン州立大学のご卒業ですから、すぐにバスケットボールの業界にと思っていましたが(笑)。クラブの現場でのお仕事はいかがですか?
松本 本当にやりがいがあります。やることも本当にたくさんありますが(笑)。私が最初にスポーツマネジメントの世界に入りたいきっかけとなったFCゴールドプライドのインターンの時に似ているかもしれません。体力的には大変なことが多いのですが、楽しくやっています!

――広報のご担当としてライバルというか、一目置いているチームをあえて挙げるとどこですか?
松本 そうですね。みなさんBリーグ元年ということで、様々な取り組みをされていますし、どのチームの取り組みも刺激になりますが、あえて言えば、アルバルク東京、栃木ブレックスはチームの持つブランド力が高いと思います。ブランド力というのは大きな武器になりますよね。サンロッカーズ渋谷琉球ゴールデンキングスも“うまさ”を感じますね。仕掛けるタイミングやアイディアの豊富さなどは一目置いています(笑)。

――広報として気を付けていることは?
松本 言い方は悪いかもしれませんが、プロスポーツクラブにとっての商品は選手と試合です。広報として、商品となる選手の特徴や性格などを知らないと売りこめないので、選手とのコミュニケーションをしっかり取ることをとても気を付けています。また、スタッフの人数も限られていますし、他の業務もあるため、自身の業務と時間のバランスを考えながら、広報施策や運営にも優先順位をつけて取り組んでいます。

――Bリーグが開幕し、松本さんがチームに参加して変わったところはどんなところですか?
松本 Bリーグ開幕前は、ハリセンを使った応援スタイルでしたが、Bリーグの開幕に合わせて変更しました。ただ、長年続けてきて浸透していた応援スタイルを急にガラッと変えたため応援の仕方がわからないというファンの声がSNS上で多く見受けられました。親しみやすく受け入れてもらえるにはどうしたらいいかを考えたところ、やはりファンは選手を観に、応援しに来てくれているため、選手に出演してもらい、選手の特徴や性格に合わせて応援の仕方を面白おかしく説明していきました。けれど、徐々に選手たちもファンの喜ぶ声を耳にしていくにつれてエスカレートしてきて、ハロウィンの時にコスプレをしてもらうような季節ごとのイベントだったり、今はルール説明なども選手を起用したりと、親しんでもらうための工夫をファンの声も聞きながら積極的に行っています。SNSといってもさまざまなメディアがありますし、SNSもWEBの中の一つのカテゴリです。WEB全体を有効活用していくことで、もっともっとやれることもあると考えています。

――名古屋DのSNSは特徴的ですよね。選手のノリも良いですし。他には何かありますか?
松本 選手がみんな積極的にアイディアなどを出してくれるようになってきたので、本当に助かっています。ドルフィンズのSNSをみて「面白いな」、「楽しそうだな」、「カッコいい」と思ってもらい「今度試合を観に行ってみようかな」と思ってもらえるようなきっかけ作りができていればうれしいですね。SNS以外でのファンクラブ会員向けのファンサービスやホームゲームのイベントなどはクラブとしてもいろいろ試行錯誤しています。

――なるほど。まだまだこれから改善していくこともあるわけですね。最後にこれからの抱負を聞かせてください。
松本 ドルフィンズは今後のバスケットボール界を引っ張っていく若い選手が集まっているチームです。「プロとして」育てていくのも楽しみの一つですね。クラブとしては、選手のことを好きになってもらうことはもちろん、もっと大勢の方にドルフィンズを通じてバスケットボールを好きになってほしいですし、そのためのきっかけ作りをしていきたいです。選手、スタッフ、メディアも、みんなでクラブを作りあげていきたいと思っています。みんなで作りあげ、愛され、誇られるクラブとなることが、クラブのブランドアイデンティティ『ドルフィンズレッド 世界に刻み込め!』を浸透していき、クラブはもちろん、名古屋地区のブランド力を高めることになり、プロスポーツクラブとしての地域密着を表現する一つであると考えています。

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