2022.04.25

【指導の原点】稲垣愛(四日市メリノール学院中学校女子バスケットボール部)/後編

2021年度、夏冬の中学タイトル2冠を達成した四日市メリノール学院中学の稲垣愛コーチにインタビュー [写真]=伊藤 大允
フリーライター

 今年の3月、「第2回全国U15バスケットボール選手権大会」(ジュニアウインターカップ)で2連覇を達成した四日市メリノール学院中学校。昨年夏にも全国中学校大会(全中)を制し、昨年度は夏冬の“2冠”を達成した。

 チームの指揮を執るのは稲垣愛コーチ。前任の朝明中学校時代には全中で2位など輝かしい成績を残し、平野実月(トヨタ自動車アンテロープス)、粟津雪乃(東京羽田ヴィッキーズ)のWリーガーをはじめ、高校や大学でも活躍する選手を多く輩出している。

 稲垣コーチのインタビュー後編は、指導におけるフィロソフィーなどをお届けする。

取材・文=田島早苗

声は意識を変える、意識は人を変える

――昨年度のエース深津唯生さん(桜花学園高校1年)をはじめ、稲垣コーチのチームは、選手たちが楽しそうにプレーしているのが印象的です。
稲垣
 私は、選手に考える力を持たせたいという思いがあります。今、アシスタントコーチをしている前田成美(旧姓:高橋)は、朝明中のときに山田愛(オルベリー・ウォドンガ・バンディッツ/オーストラリア)と同級生でキャプテンをしていました。当時、彼女にタイムアウト取らせたり、交代させたりもさせていましたが、練習メニューを決めさせても、こちらが『この練習をやってほしかった』というものを選んでいた。前田は当時からそれができる選手でした。下級生からゲームキャプテンだった黒川心音(桜花学園高校2年)も全く同じですね。想像力や発想力が抜群な選手でしたし、しっかり自分の考えを持ち、それを周りと調和させる力を持っていました。

 やっぱり、やらされているのではなく、自分で考えてやるから楽しい。もちろん、そこに至るまでには、選択する材料などをこちらが与えないといけないので、鍛えるときは鍛えるし、何回も同じ練習をやるときもあります。絶対に楽しいことばかりではないし、しんどい練習もありますが、腹をくくったときに人は強くなる。強くなったら楽しさも出てくると思っています。

――「自分で考える」ことは、言葉でも伝えていくのですか?
稲垣
 言います。今は何でも与えられる時代なので、与えられると思って待ってる選手は多いんですね。だから、与えないよ、自分で考えなさいということは結構言います。練習中も選手同士でたくさん話をさせます。例えばゲーム形式の後なら、「1分、しゃべりなさい」と言って、マッチアップした相手に自分のどこが良かったか悪かったか聞きにいく。そうすることで客観的に自分のことが分かるようになるんです。

 口に出すことは大事。口に出した以上、自分でもやらないいといけないですから。声は意識を変える、意識は行動を変えるということにもつながると思っています。

Jrウインターカップで2連覇を達成して選手たちと喜びを爆発させた [写真]=伊藤 大允


――自らが考えるとことは1年生ではすぐにできないですよね。
稲垣
 確かに、1年生は気づいて口に出すことはすぐにはできないです。ただ、何でもいいんです。声だけでなく、何か気づいて行動に移すことが大事で、気づいたからタイマー押すとか、得点板をやるとか。そうやって自らが気づいて行動した選手には、気づく力があるということなので褒めます。それが毎回同じ選手だったとしても褒めることは損にはならないですから。

 選手たちには、『社会に出て可愛がられる人になりなさい』と言っています。会社で机が汚いなと思って拭けるのか、仕事の資料でここがちょっと数字が違うなと気づけるのか。それが自分の仕事ではなかったとしても気づける人になってもらいたい。難しいし大変だけれど、そういった習慣を中学生のうちに身につけてほしいなと思っています。

その先にも続くファンダメンタルの重要性

――ミニバスを経験してる選手もいれば、経験しない選手もいる中、中学生の指導で重きを置いている点は?
稲垣
 徹底したファンダメンタルですね。ファンダメンタルは絶対に裏切らないと思うので。ボールの扱い一つから、ディフェンスの構え、手の位置といったことなどは、中学生のうちに絶対に教えてあげたいと思っています。それが中学、高校にも絶対につながると思っています。

――ファンダメンタルは、それなりに時間を割いて練習していますか?
稲垣
 三角パスは3時間ぐらいやるときもありますよ。特に今の時期は、やり直すことが多く、なかなか終わらないんです(笑) 
 
 ボールキャッチのときの指の向きなどからこだわっていて、コンマ何秒か遅れただけでも試合では命取りなんだよと伝えます。例えばパスをしたいと思ったときに瞬時に投げられないというのは、(パスする先が)見えていてもスキルがないから投げられないこともある。そういったことがないように、選手たちには一つひとつの動きにこだわってと言っています。

――基礎練習を繰り返して、正確な動きを身につけていくのですね。
稲垣
 ジュニアウィンターカップが終わってからは、原点に立ち返ってドリブルレイアップからはじめました。足の踏み出しやドリブルの突き出しといった練習ばかりやっています。

――選手たちの意識も個々によって異なります。
稲垣
 自分の目標設定をどこにするのか。チームが全国優勝という目標を掲げているのなら、そこに行くにはどうしたらいいのか? それを逆算しながら考えて取り組んでもらいたいと思っています。あとは選手それぞれに合ったプレースタイルを見つけてあげたいですね。私は良いプレーをしたときには絶対に褒めるようにしています。当然、ダメなこともダメと言いますが、良いことも言ってあげないと選手たちはわからないので。

――これまでの話を聞いていると、バスケット指導者は天職だったのではないかと思います。
稲垣
 自分ではわからないですが、良い縁に恵まれていると思います。周りに素敵な方たちがたくさんいて。それこそ、10年間のOL生活もありがたかったんですよ。会社の常務が国体にまで差し入れ持参で応援に来てくれて、写真もたくさん撮ってくれました。

――稲垣コーチは、指導をはじめたときには一児の母でもありました。家庭と指導との両立は大変だったのではないですか?
稲垣
 そうですね。娘が小さいときは練習に連れて行っていました。周りからも旦那の理解があるからだと良く言われます(笑)

――稲垣コーチのバイタリティやモチベーションはどこからくるのでしょう?
稲垣
 生徒たちがかわいいですよね。ただただ、かわいい(笑) 指導ってプライスレスなところがある。それが大きいのではないかなと思います。

――教え子たちも様々カテゴリーで頑張っています。彼女たちの存在は?
稲垣
 教え子の活躍、活躍というか頑張っている姿はうれしいし、楽しいですね。だから私は、いつも卒業するときに、3年生たちに対して『ありがたいな』と思うんです。『こんなにバスケットを好きにさせてくれてありがとう』って。それと同時に、『これからもっともっと私を楽しませてね』とも思います。それは、バスケットだけでなく、何でも良いんです。美容師でも歯科衛生士でも看護師さんでも。それぞれの立場で頑張っている姿を見ると『キュンキュン』しますね。

 中学生の指導は面白い。『いつの間にこんなことできるようになったの?』ということも多くて。昨日までやれなかったことが今日できるといったように、伸び代が大きい。それが面白いし、その姿を見られることがうれしいし、やめられないです。

「中学生の指導は面白い」と語る稲垣コーチ。この日もコートに立ち指導を行った [写真]=田島早苗

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