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4連覇を果たした女子アジアカップの興奮も冷めやらぬ10月4日、女子アジアカップでMVPを受賞した本橋菜子率いる東京羽田ヴィッキーズ対山梨クィーンビーズのカードで第21回Wリーグが幕を開ける。
東京五輪前年となる今シーズンは変則的スケジュールでリーグが行われる。今回から新たに2回の五輪予選が組み込まれたことで、11月と2月の五輪予選期間にはリーグを約1か月にわたって中断するスケジュールになるのだ。2回にわたる五輪予選には、すでに開催地枠を獲得した日本と、昨年の女子ワールドカップの優勝によって五輪出場権を得たアメリカも出場することになっている。この2回の予選を戦う日本代表メンバーは現在のところ発表はないが、シーズン中に代表戦を行うために、コンディションをどれだけ整えられるかが重要となる。また、各チームにとってはブレイク期間にどれだけチーム力を上げられるかがカギを握りそうだ。
【第21回Wリーグ】
●レギュラーシーズン/全12チームによる2回戦総当たり方式
●セミクォーターファイナル/レギュラーシーズン5~8位チームによる1戦先勝方式
●クォーターファイナル/レギュラーシーズの3位・4位チームとセミクォーターファイナルの勝者2チームによる1戦先勝方式
●セミファイナル/レギュラーシーズン1位・2位とクォーターファイナル勝者2チームによる2戦先勝方式
●ファイナル/セミファイナル勝者による2戦先勝方式
【東京五輪予選】
●五輪プレ最終予選(アジア予選)/2019年11月11日~11月21日(予定)
●五輪最終予選(世界予選)/2020年2月3日~2月13日(予定)
今シーズンも優勝争いの軸となるのは11連覇中のJX-ENEOSサンフラワーズだろう。日本代表としてアジア4連覇に貢献した渡嘉敷来夢、宮澤夕貴の高さと得点力、今季からキャプテンを務める岡本彩也花の運動量は健在。日本代表の切り札となったシューター林咲希の出番も増えそうだ。そんな中で注目となるのが、3月の引退発表から半年の時を経て、復帰を果たした吉田亜沙美の存在だろう。復帰する理由はズバリ「東京五輪」の出場を目指すためだ。
「現役中に自国でオリンピックを開催する機会はそうそうないので、覚悟を決めて戻ってきた」という吉田は、昨シーズンもシックスマンだったとはいえ、あとからコートに立っても完全なまでにゲームを掌握してきたことから、スタミナと筋力を戻せばチームに貢献できることは間違いない。ただ、五輪に出るというチャレンジであれば、リーグでトップクラスのパフォーマンスを見せる必要があるため、吉田にとってはバスケット人生をかけた最大の挑戦になる。
JX-ENEOSのもう一つの変化は新しい指揮官の就任だ。梅嵜英毅ヘッドコーチ(以下HC)は日立ハイテククーガーズで指導して以来、14年ぶりのWリーグ復帰となる。
「名門チームを引き継ぐことになり、覚悟を持ってやってきました。伝統のディフェンスから速攻というスタイルはそのままに、次第に自分の色をプラスアルファして出していきたい」と決意と指導方針を語る。
一時は吉田が引退を表明し、インサイドの要だった大﨑佑圭の後継者を育成中という意味では、「JX-ENEOSの独走を止めるのは今シーズンがチャンス」との声がささやかれていたのは事実だ。そんな中、絶対的司令塔が戻り、新しい指揮官を迎えたJX-ENEOSがどのようなバスケットを展開するかは興味深い。連覇を12に伸ばす期待というよりは、プライドを持ちつつ心機一転の気持ちで挑戦するシーズンになるだろう。
今シーズンの大きな話題は、トヨタ自動車アンテロープスにやってきた新指揮官ルーカス・モンデーロの存在だ。強豪女子スペイン代表HCという大物が日本にやってきたのだから驚くばかりである。女子スペイン代表を率いて、リオ五輪で銀メダル、昨年の女子ワールドカップで銅メダル、今年6月にはヨーロッパ優勝に導き、ロシアや中国リーグで強豪を率いるなど、実績は群を抜いている。その指導の源はバスケットを愛する情熱と綿密な準備にあるといっていいだろう。「日本のバスケットにとても興味があり、トヨタ自動車からのオファーはとてもうれしかった」(モンデーロHC)と新天地でのチャレンジを引き受けた次第だ。
モンデーロHCは以前、大神雄子が所属していた中国WCBAの山西を指揮して3回の優勝経験を誇るが、うち1回は大神が司令塔の時に成し遂げている。また、スペイン代表ではスタッフ各自の役割を徹底させ、チームを戦う集団にまとめあげる手腕を発揮しており、そうした姿はWリーグに新しい風を吹き込むのではないだろうか。そのアシスト役になるのが、今季からコーチングスタッフ入りする大神雄子だ。
課題は、チームが機能するためにどれだけの時間を擁するかだが、キャプテンの三好南穂は「ルーカスのバスケットはエナジーと集中力を持って、楽しむことを第一にするスタイルですが、ディフェンスに関してはとても厳しいです」と話す。強固なディフェンスを展開することにより、昨季まで課題だった好不調の波をなくすことができれば、今季のトヨタ自動車は怖い存在になる。
ただ、強豪のスペイン代表とて、2月の五輪最終予選には出場しなければならない。スペイン代表の指揮官として続投と思われるモンデーロHCが抜けたときに、チームをどのように強化していくのか、年明けの戦いがポイントとなるだろう。
リーグ活性化のためには、JX-ENEOSの一強時代に終止符を打つことが求められる。ただ女王JX-ENEOSこそ「自分たちがいちばん練習して、いちばんの負けず嫌い」と選手たちが口を揃えるほど、常に全力の姿勢を打ち出している。だからその牙城は崩れないのだ。
「JX-ENEOSはファイナルになるとギアがすごく上がる。ファイナルを戦い抜くための準備とメンタルがとても必要だと、実際にファイナルに出てみて分かりました」とは、昨季のファイナリスト三菱電機コアラーズ・古賀京子HCの言葉だ。
プレーオフでのJX-ENEOSの強さは群を抜く。これまでは、ファイナルでJX-ENEOSに挑むチームはどこか、という視点で勝ち上がりが注目されてきたが、この5シーズンでデンソーアイリス、トヨタ自動車、富士通レッドウェーブがファイナルに進出。そして昨季に三菱電機が加わったことで、ファイナルを戦い抜くに必要なメンタルと強度を知るチームは増えており、年々リーグは底上げされているのは確かだ。今季、有力とされる三菱電機、トヨタ自動車、デンソー、富士通らは昨シーズンから移籍での変動はあれ、大きな戦力のマイナスはないだけに、混戦に持ち込む戦いを期待したい。また粘り強いトヨタ紡織サンシャインラビッツ、アジアのMVP本橋菜子を擁する東京羽田がダークホースとなって暴れることで、さらに面白くなるだろう。
最後に、変化という意味ではデンソーにもスポットを当てたい。デンソーは今季からヨーロッパの強豪、女子セルビア代表のアシスタントコーチを務めるヴラディミール・ヴクサノヴィッチ氏を迎え入れた。キャプテンの髙田真希は「私自身は日本代表で世界の様々なバスケットに触れているけれど、チームメイトたちがこれまでとは違う世界のバスケットを経験することは楽しみだし、時間はかかるかもしれないけれど、必ずレベルアップにつながる」と話す。
髙田の言うように、デンソーやトヨタ自動車が先陣を切って世界のトップを知る指揮官を迎え入れたことは、日本の女子バスケットの視野が広がり、対戦チームにとっても刺激になることは間違いない。様々な変化と改革のもとで行われるWリーグ。東京五輪に向け、一層の盛り上がりの中でいよいよ開幕を迎える。
文=小永吉陽子