2022.04.13

層の厚さを見せつけたトヨタ自動車が2年連続のファイナル進出/WリーグPO

初のリーグ連覇に向けてペースを上げるトヨタ自動車 [写真]=伊藤 大允
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

新戦力がチームに完全フィットしたトヨタ

 トヨタ自動車アンテロープスがセミファイナルでシャンソン化粧品シャンソンVマジックに2連勝してファイナルへと駒を進めた。トヨタ自動車のファイナル進出は2年連続で、7度目のファイナルとなる。

 1戦目80−57、2戦目83−63というスコアが示すように、トヨタの強さが際立ったセミファイナルだった。特に、2戦目は負傷している梅木千夏以外は全員が出場しての快勝だった。トヨタはプレーオフを迎えるまでに1カ月近くゲーム間隔が空いたことでリズムをつかむまではミスも出ていたが、インサイドで主導権を握れたことが勝敗を決した。

 1戦目は馬瓜エブリンが15得点8リバウンド。馬瓜ステファニーが19点10リバウンド。シラ ソハナ ファトージャが14得点7リバウンドとフロントコート陣が機能し、リバウンドではシャンソンを54-34本で圧倒。エブリンとステファニーの馬瓜シスターズが、千葉歩のスピードあるドライブを2人がかりでブロックしたプレーは圧巻だった。

 レギュラーシーズンで3ポイント王(51.95パーセント)とフリースロー王(91.89パーセント)の2冠に輝いた三好南穂に当たりがこなかったが、それを補える選手層があることがトヨタの強みでもある。ベンチから出てきたポイントガードの川井麻衣は、放った3本の3ポイントシュートをすべて決める活躍で10得点をマーク。1月のゲームを最後に休養していた長岡萌映子が復帰し、全員が揃ってプレーオフに向けて仕上げてきたことをアピールした。

 2戦目も主導権を握ったのはトヨタだ。出足はシャンソンが対抗したが、1戦目は不発に終わった三好が前半で3ポイント2本を含む14得点をマークして勢いを作ると、シラは17本ものリバウンドをもぎ取り、2戦目もリバウンドで優位に立つ。また、後半にはステファニーのキラーパスから宮下希保が合わせるコンビプレーが立て続けに決まり、若いポテンシャルが躍動する時間帯もあった。シーズン終盤に来て、今季に移籍してきた選手、チームに加入した新戦力を含めた戦い方が確立してきたことを示したセミファイナルだった。

トヨタの馬瓜ステファニーは2試合で34得点を挙げる活躍を見せた [写真]=伊藤 大允

ルーキー吉田は悔し涙。この経験こそが成長を促す

 一方、13年ぶりとなるファイナル進出を狙ったシャンソンは、クォーターファイナルのデンソー戦で粘れたボックスアウトやリバウンドの面で劣勢になってしまったことが後手を踏む原因となってしまった。

 トヨタの面々は「シャンソンはトランジションが速くてオフボールの動きが激しい」(三好)と警戒していたが、そうした走るプレーはリバウンドに絡んでこそ。セミファイナル直前に李玉慈ヘッドコーチが新型コロナウイルスの影響で試合の帯同ができなくなり、急遽、鵜澤潤アシスタントコーチがヘッドコーチを代行。リバウンドの課題と向き合いながら臨んだセミファイナルだったが、「トヨタのほうが実力は上でした」(小池)と完敗だった。

 だが、チームとしてこの1年の成長は目覚ましく、収穫が多いシーズンだった。セミファイナルを通じて小池遥と野口さくらが果敢に1対1を狙って壁を突破しようとしていたように、「選手自身がコミュニケーションを図ってプレーの選択をできるようになった」と鵜澤アシスタントコーチは選手の成長を褒めたたえた。ルーキーの吉田舞衣はセミファイナルでは思うように3ポイントを打たせてもらえず、試合後の会見では悔し涙を流していたが、そうしたルーキーながらも得点源としての自覚が芽生えたことも成長の階段をのぼっている証だろう。

「昨シーズンは少ない人数しか戦えなかったけれど、今シーズンは戦えるメンバーが増えてチームに一体感がありました。若いチームなのでこの経験を来シーズンにつなげます」とキャプテンの小池は来季へのステップアップを誓っていた。

今季、目覚ましい成長を見せたシャンソン化粧品。この経験を糧に来季も期待される [写真]=伊藤 大允

皇后杯での敗戦を機にチームが一つに

 Wリーグ2連覇を狙うトヨタだが、順風満帆でここまで来たわけではない。リーグの終盤、今シーズン限りで引退を表明している三好はチーム状況をこう語っている。

「年内はずっとしっくりこなくて、プレーしていても何か違うという感じでした。それが払拭できたのは12月の皇后杯の準々決勝で富士通に負けてからです。負けたあと、選手全員でミーティングをして思ったことを一人ひとりぶつけました。泣きながら本音を語った選手もいます。今まで何か違うと思いながらやっていたことについて、本音でぶつけあったことでチームが一皮むけた気がします」

 昨シーズンも皇后杯での負けを受け止め、チーム全員で向き合ったことがリーグ制覇へと結びついた。新戦力がシーズンを通してフィットし、馬瓜姉妹、三好、長岡ら代表組がコンディションを徐々に上げ、新型コロナの影響で隔離を挟みながらも、プレーオフまでにチーム力を整えてきた。ファイナルまでには細かい連携のミスを修正し、あとは最後の決戦に臨むだけだ。

 セミファイナルで攻守に大活躍した馬瓜ステファニーは語る。

「個人としてはまだ納得する出来ではないけれど、ファイナルでは三好先輩の花道を作りたいと思います。気持ちの部分でみんなを引っ張ってくれる三好先輩のためにも、今はみんなが一つになっています。ファイナルではもっといいゲームを見せられるように頑張ります」

今季限りでの引退を表明しているトヨタの三好南穂 [写真]=伊藤 大允


取材・文=小永吉陽子

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