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車いすバスケ女子日本代表、パリで踏み出したロスへの大きな一歩

最終戦に勝利した車いすバスケットボール女子日本代表 [写真]=Getty Images
フリーライター

8月28日~9月8日に開催されたパリ2024パラリンピック。4大会ぶりに自力出場を果たした車いすバスケットボール女子日本代表は、グループリーグで3戦全敗を喫し、準々決勝、5-8位決定戦予選でも敗れた。しかし、最後の7、8位決定戦ではスペインに72-55で快勝。順位こそ6位から7位と下がったものの、3年前の東京2020パラリンピックではかなわなかった“有終の美”を飾るとともに、4年後への大きな手応えをつかんだ。

文=斎藤寿子

最高のゲームで締めくくったパリパラリンピック

「体の小さい選手が、いかに体の大きいチームに戦っていくのかというなかで、これしかないという戦術と気持ちを最後の試合で見せることができた」と岩野博ヘッドコーチが語った通り、スペインとの試合はまさに3年間の集大成となった。

 そのパリでのラストゲームを迎える前日、選手ミーティングではキャプテンの北田千尋(持ち点4.5)がチームメイトたちにある提案をした。

「自分のために、チームのために、明日の40分間、これだけはやり続けるということをそれぞれ宣言しよう」

 すると、選手たちから一番多く聞こえてきたのは「楽しむ」という言葉だったという。

「実は、今大会では “楽しむ”という言葉をあえてみんなの前では言わないようにしていたんです。自分たちは勝ちに来たんだからと。でも、みんなから“楽しむ”という言葉が次々と出てきて、“あぁ、やっぱりみんなバスケが好きで、楽しみたいと思ってるんだな”と。そして私自身もこの素晴らしい会場で素晴らしい観客の皆さんやボランティアの方々の前で楽しんで終わりたいな、と思いました。だから今日は“一番楽しんで、最後に最高の笑顔で終わろう!”とみんなに言って、試合に臨みました」

 そんなキャプテンの言葉を体現するように、日本は世界随一の高さを持つスペインに対し、序盤から攻防にわたって圧倒した。第1クォーターから2度も8秒バイオレーションを奪うなど、わずか10分間でスペインのターンオーバーは9と、最大の武器であるディフェンスで、日本は流れを引き寄せた。

さらに最大の課題としてきたシュート決定力も、練習の成果が発揮された。柳本あまね(2.5)、北田、財満いずみ(1.0)、網本麻里(4.5)と、スタートの5人中4人がそれぞれ1本目のシュートを決め、幸先いいスタートを切った日本は、20-13と最初の10分間で大きくリード。第2クォーター以降も主導権を握り続け、一度も逆転を許すことなく、72-55でヨーロッパ3位を撃破した。

 この3年間で欧米の強豪相手に、50点台に抑えたのはわずか1度。ましてや70点台を超える得点を挙げたのは初めてのことだった。

「決してスペインが弱いというわけではなく、自分たちがプラン通りのゲーム運びをすればこれだけ点が取れるということを結果として証明できたかなと。60点に抑え80点を取って勝つ、という理想に近いゲームをして勝つことができました」

 そう振り返った指揮官は、言葉を詰まらせ、目に涙を浮かべながら、こう続けた。

「選手たちが最後にどんなプレーを見せてくれるかということがずっとあって……本当に良かったです」

世界の高さへの挑戦はこれからも続いていく [写真]=Getty Images

ロスへの課題は“手応え”から“勝利”へ

 パリでの戦いは、初戦から5連敗と予想以上に厳しかった。決してすべてが力負けしたわけではなく、ほとんどの試合で勝機はいくつもあった。何度も追い上げ、追いつき、そして逆転に成功した瞬間があった。それは、世界の8強に入っただけの実力が日本にあることの証でもあっただろう。だが、最後に勝ち切るだけの実力や経験値が、日本にはまだなかった。

 初戦でチーム最多得点をマークするなど、今大会を通して好調をキープし、シックスマンとして大きな働きをした土田真由美(4.0)は、こう述べている。

「いい試合ができたというのは成長した証。でも勝ち切れなかったのは残された課題だったなと」

 敗れた5試合は、いずれも2ケタ差での黒星だったことを考えれば、その課題はもちろん小さくはない。ただ内容からすれば決して完敗だったわけではない。グループリーグ第2戦のドイツ戦は、最大12点差から一時は逆転に成功した。今大会銀メダルを獲得したアメリカとのグループリーグ第3戦は、最大21点差を猛追し、最後は10点差に。銅メダルの中国との準々決勝では最大23点差から12点差にまで詰め寄った。5-8位決定戦予選のイギリス戦も第4クォーターでは何度も5点差に追い上げた。実績からすれば格上の相手を苦しめることができる段階にまで、日本が到達していることは確かだ。次は、いかに勝利へとつなげるかが、4年後に向けての課題となる。

「自分たちは出場国8カ国中8番目」と覚悟し、下剋上を狙った日本のパリでの戦いは7位で幕を閉じた。目標からは程遠い結果となったが、世界最高峰の舞台で戦ったものしか得られない大きな手応えに、選手たちは早くも闘志をみなぎらせている。

「東京の時は正直メダルにどうやったら近づけるのかわからなかった。でも、今は少し見えてきた気がしています。死ぬ気で頑張ったらロスで表彰台に上がれるんじゃないかという手応えを感じているので、ここまできたらメダルを手にするまではやめられません」と北田。財満も「ロス、待っとけという気持ち」と語れば、柳本も「ビジョンが見えたので、ロスでは必ずベスト4、メダルを取って喜びたい」と4年後への思いを語った。

 東京2020パラリンピックで3大会ぶりにパラリンピックの舞台に復帰し、今回は4大会ぶりに自力出場を果たした女子日本代表。その歩みは、着実にメダルへと近づいている。

ロス大会での活躍を誓った柳本あまね(左)と財満いずみ(右) [写真]=Getty Images