2025.08.09

イラン戦でステップアップしたジェイコブス晶…若きエースをブロックも「勝たなきゃダメ」

相手の若手エースと白熱のマッチアップを繰り広げたジェイコブス(右手前)[写真]=fiba.basketball
スポーツライター

■世代交代中のイランに接戦の末に敗れる

 勝たなければならない重要な一戦だった。終始クロスゲームだったが、終盤は約4分も無得点に終わり、70-78でイランに敗れた。

 イランに勝利してグループ1位になれば、ストレートで準々決勝進出が決まるが、グループ2位になれば、グループAの3位チームと準々決勝進出をかけた戦いをしなければならず、その相手は韓国対レバノンの敗者になる。最終戦のグアムに勝利することが大前提だが、イランに敗れたことで1試合多くなるばかりか、韓国かレバノンのどちらかを倒さなければベスト8にたどりつけない茨の道を進むことになった。

 近年のイランはアジアを3度制した時代とは違い、長年チームをけん引したハメド・ハダディ、ニックハ・バハラミらが引退し、今大会はベーナム・ヤクチャリ、モハメド・ジャムシディらの得点源も不在。リバウンド力に長けたアルサラン・カゼミは35歳ながら、彼を主体に世代交代を図っているところだ。

 近年の対戦成績でいえば、日本は2022年に行われたアジアカップのグループラウンドでイランに敗れているものの、直近では2023年2月、ワールドカップ予選Window6で対戦し、3ポイントが爆発して35点差で圧倒している。ここ数年のイランは世代交代が非常に遅れており、低迷しかけていたのだ。

 だが、今大会のイランは新たなスタートを切っていた。持ち前のフィジカルな攻撃を軸に、新世代が台頭する戦い方へと移行していたのだ。これでもかとリムアタックを仕掛け、体をうまく当ててブロックされないようにズレを作り、レイアップでのフィニッシュを決め切る。この大会に入って3ポイントを含む攻撃力を取り戻している富永啓生は「相手のレイアップという強みを止めないといけないことはわかっていたのですが、たくさんやられてしまった…」とスカウティングをしていながらも、抑えられなかったことを明かしている。

 イラン戦ではその富永の3ポイントこそ当たったものの(9本中5本成功)、ターンオーバーを17も出していては勝てる試合も勝ち切れない。ベンチ采配を含め、次戦に向けて立て直さなければならない。

富永は好調なシュートタッチを披露も、第4Qにファウルアウト[写真]=fiba.basketball

■イランの若きエース、アミニに対抗したジェイコブス晶

 そんな悔しい敗戦の中で、唯一、台頭した若手がジェイコブス晶だ。出足に2つのファウルを犯したことで乗り切れなかった吉井裕鷹や、ディフェンスの要である馬場雄大の交替としてウイングのポジションで奮闘を見せた。トム・ホーバスヘッドコーチは「この試合で晶はすごいステップアップした」と評価し、第4クォーターはスタートから出場させ、最終的には25分49秒までプレータイムを伸ばしている。見所となったのは、ドライブやステップを駆使して24得点8リバウンドを叩き出したイランの若きエース、モハンマド・アミニとのマッチアップだ。

要所での3点弾でチームに勢いを与えたジェイコブス[写真]=fiba.basketball

 第4クォーター残り7分を切った場面ではタフなディフェンスで抑え、残り2分58秒には豪快なブロックで阻止。この時点でスコアは70-70と同点であり、ジェイコブスをアミニにマッチアップさせた采配は明らかに奏功していた。

 ジェイコブス晶とモハンマド・アミニ――日本とイランの次世代を象徴する2人は、2022年のU18アジアカップ(当時はU18アジア選手権)で対戦している。現在、ジェイコブスが21歳で203センチ。アミニが20歳で201センチ。ポジションも同じフォワードだ。

 U18代表でのイラン戦でジェイコブスは前半で13得点4リバウンドと奮闘するが、試合中に腕を負傷してしまい、後半は出場していない(その後、大会の全試合を欠場)。そのイラン戦で日本は23得点、6リバウンドと奮闘したアミニの活躍もあり、66-68で逆転負けを食らってしまうが、最終的には準優勝まで駆け上がっている。

 対してイランは5位に終わるが、アミニ自身は地元開催の大会で活躍し、川島悠翔や今年のNBAドラフトでブレイザーズに一巡目指名されたヤン・ハンセン(中国)らとともにベスト5に選出され、一躍アジアのライジングスターになった。2023年のワールドカップでは最年少でイラン代表に選出されて平均13.2得点を叩き出し、イランのリーディングスコアラーへと躍進している。現在はフランス1部リーグでプレーをしており「NBAを目指す」と宣言している逸材だ。彼とマッチアップしたジェイコブスは言う。

「アミニとは親しい知り合いではないけれど、話をする間柄で、今日も試合後に声をかけ合いました。彼はU18(日本代表)で一緒にプレーした岡田大河と(モナコU21時代に)チームメートだったこともあり、それで知り合いになりました。同じ世代で活躍している選手なので気になりますし、彼は成長していました。U18と今回で2回もイランに負けてしまったので、すごく悔しい。次に対戦したら絶対に勝ちます」

 そして、「自身はステップアップできた試合だったのでは」と問うと、「勝たなきゃダメです。負けたのでそういうことは言えません」と悔しさを噛みしめ、こう続けた。

「初戦よりは良かったですけどミスもありました。自分はいいときもあれば悪いときもあるので、試合ごとに成長していかなければならないです。次の試合は40分間、自分たちのバスケをやり切ります」

 苦しい過渡期にいながらも、イランは次世代スターが出現して勝利をもぎ取った。日本もアジアカップを通して、代表の座をつかんだ若手選手たちを含め、チームの底上げを図りながらタフな試合を制していかなければならない。

取材・文=小永吉陽子

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