2026.03.04
『SoftBank ウインターカップ2022 令和4年度 第75回全国高等学校バスケットボール選手権大会』で京都精華学園高校(京都府)を初優勝に導き、『令和4年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)』とともに夏冬制覇を成し遂げたイゾジェ・ウチェ。その後、Wリーグのシャンソン化粧品シャンソンVマジックに所属して2023-24シーズンの新人王に輝き、2年目の2024-25シーズンはレギュラーシーズンのベスト5に選出された。ベスト5のセンターは、デンソーアイリス一筋でプレーしている大ベテランで、日本代表の要、髙田真希がそれまで8シーズン連続獲得していた賞だ。
ウチェがWリーグの次代のスターとして活躍する姿、またいつか帰化し、日の丸を背負ってコートに立つ姿を誰もが想像しただろう。「日本にはファミリーのような存在の友達もいるし、いい国やから」と京都弁で話すウチェにとっても、その気持ちは同じだった。
だが、そんな気持ちを揺るがす出来事があった。

様々な思いを抱えて渡米を決意 [写真]=Syracuse University Athletics
昨年の1月、全米大学体育協会(NCAA)1部(D1)のなかでもトップ級のカンファレンスとして知られるアトランティックコースト・カンファレンス(ACC)に属するシラキュース大学から勧誘を受けたのだ。中学2年生のときにナイジェリアから京都精華学園中学校に留学し、バスケットボールに情熱を注いできたウチェが、「バスケを始めたときからずっと憧れていた場所」がWNBA。そこに最も近づける場所であるNCAAでチャンスがあればやってみたいという気持ちはあった。もちろん、WNBAに行くにはほかにも選択肢はある。だがD1のなかでも卓越したエリート選手が集まるACCで活躍することは大きなアドバンテージとなる。
「オファーがきて驚きましたが、すごくうれしかったです」。夢への道が開けたことを素直に喜んだ。
ただ、引っ掛かることもあった。ウチェがWNBAを夢見るのと同時に目指していたのが、前述のように日本代表のメンバーとしてプレーすることだったからだ。2021年に開催された東京オリンピックで女子日本代表が銀メダルを取ったときにその勇敢な姿を目にし、「背は低いけれど、みんな自信に満ち溢れていたし、絶対に諦めなかった」。
自分も一緒にプレーしたいという思いが溢れた。「今でもまだ日本にいて(日本代表で)やりたいと思っています。日本を出てしまったので、(帰化するためには)また最初からやり直さないといけないと聞いたので、できるかどうかわからないし、できないかもしれない。でも(日本人になって日本代表になりたいと)ずっと思っています」と本音を口にした。
アメリカでチャンスをつかみたい。でもそうすれば、日本代表のユニフォームが遠のいてしまう。さらに「アメリカで通用するはずがない」というネガティブな言葉も受けた。「めっちゃ怖かった」。ウチェは葛藤の日々を振り返った。
だが、最終的に渡米することに決めた。
「日本人になりたい。でも自分のドリームは追いかけたいから」――。自分の気持ちに従うことにした。

1年生ながらシラキュース大でスターターの座を獲得 [写真]=Syracuse University Athletics
シラキュース大のチームに合流する前には、馬瓜エブリン(ENEOSサンフラワーズ)主催の沖縄でのトレーニングキャンプに参加し、「すごくいいワークアウトができました。スキルやいろいろなことが学べたし、楽しかった」とウチェ。その後、渡米し加入したチームも「コーチも優しいし、めっちゃ楽しいバイブ(空気感)があるし、みんなシスターみたいな感じです。コートのなかでは厳しかったりもするけれど、そんな厳しさがいい。すごくいい雰囲気です」と楽しそうに話す。
コート上では、「みんなが私に頼ってくれている」とウチェ。その言葉どおり、ウチェは開幕戦からスターターとして出場し、4週目に初めての週間最優秀新人に選ばれると、レギュラーシーズン全日程を終えて17週中8度同賞を受賞。全29試合にスターター出場し、24試合で2ケタ得点、ダブルダブルは13度達成した。1試合平均15.0得点9.3リバウンド2.6ブロックショットは、いずれもチームトップ。リバウンドはACC4位、ブロックショットはACCトップで、3月2日時点でNCAA4位とルーキーらしからぬ活躍ぶりで、ACCの年間最優秀新人賞を受賞。ACCのオールファーストチーム入りも果たし、オールディフェンシブチーム、オールフレッシュマンチームにも選出された(リーグのブルーリボンパネルによる投票、ヘッドコーチによる投票それぞれで同4部門の賞に選ばれた)。1月の終わりには、大学バスケの年間最優秀守備選手賞に値するネイスミス年間最優秀守備選手候補の25人にも名を連ねた。
シラキュース大は昨シーズンのレギュラーシーズン、カンファレンスゲーム6勝11敗、全体でも12勝17敗でACC18チーム中14位に終わった。だが今シーズンはカンファレンスゲーム12勝6敗、全体で22勝7敗。カンファレンスゲーム内の勝敗は4位だったものの3チームがタイで並び、あとの2チームに敗れていたため最終的にはACC7位となったが、ウチェは昨シーズンの不振から躍進を遂げたチームに大きな影響を与えている。
「自分には運動能力があるし、どうやって高く跳ぶかも知っています。それに日本でやってきたから走ることもできる。もちろんアメリカには持久力があって走れる選手はたくさんいて、私はすぐにしんどくなってしまうけれど、背の高い選手のなかでは私が速いと思います」。これまで以上にサイズがあり、フィジカルななかでの戦いも「自分に自信があります。相手が強くても背が高くても欠点はあるし、私の強みもある。自信があるから何も考えずに自分のペースでプレーするだけ。全然難しくない」と凛とした態度を見せた。

名門大のゴール下で奮闘 [写真]=Getty Images
デューク大学やノースカロライナ大学、ルイビル大学と全米ランキング入りしているチームなど強豪がそろうカンファレンスで1年目からこれだけの活躍をしたことで、ウチェはWNBAへの手応えをどれだけ感じているのだろうか?
D1のトップレベルでのプレーに関しては「バスケやから。いつでもアジャストできるから。気持ちだけ」と話したウチェだが、夢の舞台に関しては、「まだまだもっと強くなって自信をつけたい。(まだ1年生で)その時間はいっぱいあるから。今は大学でしっかりと結果を残したい」と軽視はしておらず、大学でやるべきことをやってこそ、WNBAへの道は開けてくると考えている。
NCAAトーナメント “マーチマッドネス” 出場を目指したカンファレンス・トーナメントは5日(現地時間4日)からジョージア州ダルースで行われ、2回戦から登場するシラキュース大は6日(同5日)にカリフォルニア大学とウェイクフォレスト大学の勝者と対戦する。
「ディフェンスが大事。ディフェンスがよければオフェンスもついてくる。ディフェンスを頑張って、チーム一丸となって、チームワークを大事にやっていきたい」
夢への第一歩は、視界良好だ。
文=山脇明子
2026.03.04
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