2017.10.18

【NBA COLUMNS from LA】モントレズ・ハレルがピンクのバッシュに込めた思い

今季からクリッパーズに所属するモントレズ・ハレル[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

NBA2017-18シーズンがいよいよ今日開幕! ビッグネームが大きく移籍した激動のオフを終え、今シーズンはどのような戦いが繰り広げられることだろう。バスケットボールキングではNBAの試合結果をお伝えするとともに、今シーズンはロサンゼルス在住のライター、山脇明子氏によるコラムを毎週お伝えする。現地でなければわからない、そして実際に取材した“もぎたて情報”は必読!

 この夏、クリス・ポールとのトレードでヒューストン・ロケッツからロサンゼルス・クリッパーズに移籍したモントレズ・ハレル。身長203センチ体重109キロのパワーフォワードで、同ポジションとしてはアンダーサイズだが、活力溢れるプレーでゴール下を支配する3年目の選手だ。昨季Dリーグ(現Gリーグ)でプレーした際には、相手の選手に押されて揉めた時に、2人の間に入った審判を床へ押し倒してしまい5試合の出場停止処分を受けた。

ハレルはインサイドで躍動するハードワーカー[写真]=Getty Images

 しかし、コートを離れたハレルは心優しい青年だ。プレシーズン・ゲームで、ハレルはピンクのバッシュを履いてプレーした。そのシューズには、自らの手書きで”Brenda Bunn”という名前が書きこまれていた。後半には普通のシューズに履き替えたのだが、そこにも”ブレンダ”という一人の女性の名前がたくさん書かれていた。

 「これは、昔の彼女のお母さんの名前だ」。ブレンダさんが誰かと聞くと、ハレルはそう答えた。「僕が元彼女と付き合っていた時、彼女のお母さんが僕のことをいつも応援してくれ、助けてくれた。でも乳がんになり亡くなった。僕の家族は幸い無事でいるけれど、多くの女性が乳がんと戦っている。そういう女性ががんに打ち勝つよう願っているし、元彼女のお母さんのような悲しみが出来るだけ起こらないよう女性には気をつけて欲しいと思っている。僕はNBA選手という、人にメッセージを送りやすい立場にいる。だから同じような願いを持つ人を代表して、こうやってメッセージを送っているんだ」。

ピンクのバッシュを履いてプレーするハレル[写真]=Getty Images

 話を聞いたのは、試合後のロッカールームだった。ふとハレルのロッカーを見ると、ピンクのキャップがかけられていた。「まさか、これを被って来たの?」と聞くと、「もちろん」とハレル。ピンクは、乳がんへの認識を高めるために使われているカラー。アメリカでは10月に乳がん啓発運動が行われており、ハレルは毎年、この月にピンクを身に着けている。 ちなみに、その”元彼女”とは、5年ほど前に別れたという。しかし、その後も連絡を取り合い、いい友人関係を築けているのは、彼女の人間性はもちろん、彼女のお母さんの温かかった心が、いつまでも二人の心を繋いでいるからだ。実は、彼女はもうすぐ結婚する。「彼女が幸せになることは、心から嬉しい」とハレルは微笑んだ。

 「僕と彼女は違う道を歩むことになった。でもそれが、僕の彼女への感謝の気持ちや、彼女の亡くなったお母さんへの思いを断ち切る理由にはならない」とハレル。「これからも10月になればピンクを身に着ける」と言う23歳は、大きな体のてっぺんにピンクのキャップをポンと乗せてアリーナをあとにした。

取材・文=山脇明子

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