2017.04.27

仙台89ERSのクラブスタッフが語る地域との連携意義とボランティアの存在

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歴史的なBリーグの1年目がいよいよ終盤戦を迎えた。初タイトルを懸けて戦うチームやチャンピオンシップ進出を懸けて戦うチームがある。その一方で、下位4チームによって争われる残留プレーオフに回ることが決定的となり、苦しい戦いが続くチームもある。B1リーグ全18チーム中、最下位の仙台89ERSもその一つだ。地元選手を数多く抱え、チームワークの良さや闘志あふれるプレーを武器にBリーグ元年に挑んだが、主力選手のケガも多く、その力を十分に発揮できない状態が続いている。厳しいチーム状況の中にあっても、仙台という地域と仙台89ERSをこよなく愛し、チームの運営を支える人たちがいる。数多くのボランティアスタッフのメンバーだ。リーグ屈指と言われるホスピタリティを持つボランティア組織を束ねる仙台89ERSの地域リレーション部・川村亜紀さんに、「ボランティアスタッフと地域連携」について聞いてみた。

インタビュー=村上成
写真=Bリーグ仙台89ERS

――川村さんが株式会社仙台89ERSに就職したきっかけは何ですか?
川村 私が大学4年次の5月に設立、2004年の5月に法人として立ちあがり、ある時に「仙台にプロのバスケットボールチームを作ります」という記事が地元の新聞に載ったんです。就職活動をしている時期にその記事を思い出して、メールを送ってコンタクトを取ったことが最初のきっかけです。メールに返信をくれたのが今の社長で、「一度話をして、あなたの思いを聞いてみましょう」ということで会う機会を与えてもらいました。

――小さな頃からスポーツ業界で働いてみようと考えていたのですか?
川村 大学の4年間を仙台で過ごしたのですが、その間に宮城県で国体があったり、サッカーの日韓ワールドカップが宮城スタジアムで行われたり、ベガルタ仙台がJ1に昇格を決めたのも大学生の時でした。あとは東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生するかと話題になったのもその頃で、宮城県のスポーツ界がとても盛りあがっている時期だったので、スポーツに携われたらいいなと思い就職先を探していました。

――仙台89ERSは創立12シーズン目を迎えますが、クラブの特徴を教えてください。
川村 仙台では3番目にできたプロスポーツチームという位置づけです。ベガルタ仙台、東北楽天ゴールデンイーグルス、そして仙台89ERSができました。バスケットの売りというか、私たちの強みはお客さんと選手を含め、地域との距離がすごく近いことですね。バスケットはプレーを間近で見て迫力を感じ、試合後には選手がコートを一周してハイタッチをしたり、その流れでサイン会をすることもあります。この身近さはバスケットが誇れる部分なのではないかと思います。

――地域との距離も近さも仙台89ERSの特徴ですよね。
川村 チームの顔でもあるキャプテンの志村(雄彦)を筆頭に、みんながいろいろなところに赴いてふれあいの場を作っています。もちろん、選手の価値向上も必要だと思いますが、設立からこれまで、地元の方々にバスケットを、仙台89ERSを身近に感じていただくということを意識してきました。その中においては、地元出身選手が多いことも特徴の一つになりますね。

――距離の近さだけでなく、選手の身近さがあるということですね。
川村 チームを身近な存在に感じてもらい、応援してもらえるように心掛けています。そのためにも、自分たちから動きだして、距離をどんどん縮めていく戦略が必要です。お客さんからは、「選手、スタッフ、チアリーダー、ボランティアがいて、一つの家族のようですね」と評価していただくことも少なくありません。ボランティアさんたちが自分たちのチームだと思って活動している雰囲気や、チアリーダーもチームが好きで応援したいという思いで活動してくれているので、クラブとしての一体感が出せているのかなと思います。

――ぜひボランティアについても聞かせてください。仙台89ERSではどのようにボランティアを組織化されているのでしょうか?
川村 登録人数が150人くらいいまして、1試合平均で40名程度の方が参加してくださっています。

――たくさんの方が参加しているんですね。
川村 そうなんです。誰でも気軽に参加していただきたいという思いがありますので、組織化と言うほど何かを固めているわけではなく、毎試合、クラブ側から「今日はこういう仕事をお願いします」という形で活動にあたってもらっています。

――ボランティアの中にはどのような方が多いのでしょうか?
川村 平均年齢が60歳を超えているんです。だから、活動している中で本当にいろいろなことに気づいてくださるんですよね。年の功じゃないですけど、社会人経験も私たちと倍くらい違うわけじゃないですか? だから、こちらから業務をお願いしてはいるものの、「ここはこうしたほうがいいのでは?」とか、「こっちはこのほうがよさそうだ」などの提案をたくさんいただきます。様々な提案は社員の代わりに気づいてくれていることだと思うので、一つ残らず全部聞かせていただいています。

エコステーションでのボランティアさん

――全部となると、なかなか大変ですね。
川村 特に開幕時期は、正直いっぱい挙がってきます(苦笑)。とはいえ、「なるほど」と思わされることがたくさんあるので、「気づいたことを書いてください」と控室にメモを置いています。もちろん無記名にしているんですが、開幕戦が終わってみたらものすごい量でした(笑)。

――チームを含めて「育てる」という感覚で参加されているんでしょうね。
川村 そうですね。良くしようという思いを常に持ってもらっています。指示された活動をただやるという感覚ではなく、常にいろいろなところを見て「ここのポジションはここじゃなくて、こっちに立ったほうがお客さんにとっていいと思う」とか、「案内板をここに出したほうがいいと思う」というのを考えてくれているので、すごくありがたいですよね。

――12年間、プロクラブでキャリアを積んできたと思いますが、ご自身の仕事で楽しかったことや辛かったことを教えていただけますか?
川村 辛かったことはやはり震災ですね。地震が起きたことが辛いというよりも、その後チームが一時的に解散し、選手たちはレンタル移籍するような事態になったんです。選手たちがいない時期、私たちスタッフが被災地訪問する中で、私たちよりもっともっと苦しい生活を強いられている方、生活が立ち行かなくなった方がたくさんいらっしゃいました。そういった姿を見て、「自分たちも何かしなければいけない」という思いというか……。

――葛藤があったんですね。
川村 そうなんです。このチームを守っていかなくてはならないから多方面にいろいろな支援をお願いしていたんですけれど、言い方はおかしいですが、本来はもっと支援を必要としている人がたくさんいる。そういった方々の力にもなりたいけれど、チームのためにも動かなければならず、いろいろと複雑な思いがあって当時は気持ちがとてもしんどかったですね。

――うれしかったこと、楽しかったことはいかがですか?
川村 うれしかったことは、震災で傾き掛けたクラブにいろいろな人が支援をしてくださったことです。1試合平均の集客が2,000人に到達するかどうかのクラブに、20,000人もの方が存続のための署名をしてくれたんです。まるで奇跡のような感じで、次のシーズンもきちんと戦えるように準備を整える過程の中、いろいろな人の熱い思いを感じられたことは、苦しい中でもすごく心温まりました。

――多くの方の支援があったんですね。
川村 被災地に行けば行くほど、本当はもっと苦しいのに、「あなたたちもがんばってね!」、「89ERSも大変だけどお互いがんばろう!」と声を掛けてくれる方がいて、すごく温かさを感じました。私たちが被災地に励ましに行きながら、逆に励まされて帰ってくるのが毎回のことで、そういう時に地域の人たちとのつながりの大切さや温かさというのを感じて、それらはずっと大事にしていきたいなと思いました。復活した試合で涙されていたファンの方もいたんですけど、それまでに至る過程でこちら側の人間としても感慨深いものがありました。

――昨年9月からBリーグが始まり、また新たなスタートを切りました。これから仙台89ERSとしてボランティアを交え、地域でどのような活動をしていきますか?
川村 ボランティアの皆さんはやりがいを感じてくれている方が非常に多いので、課題を見つけながら一生懸命やってくれる方が多い。その関係性を今後も持続していくことで、この先もクラブとしての運営面が一段二段とステップアップできると思います。

――ボランティアの皆さんとの関係性をより重視していくと。
川村 ボランティアの皆さんとは今の関係性を大事にしながら、できれば「Bリーグで一番ボランティアが充実しているクラブ」と言ってもらえるようにしたいですね。たぶん、それが皆さんの次のモチベーションにつながっていくと思うんです。

――なるほど。
川村 昨年11月、栃木さんが仙台に来て試合をした時に、栃木さんのファンの方がメールをくださいました。いくつかお褒めの言葉をいただいたんですけれども、その中でボランティアに対して「おもてなしがすごくよかった」と書いてあって、皆さんに紹介したんです。それを本当にすごく喜んでくれて。ボランティア活動そのものが評価されることってあまりないため、一人の方のメールで皆さんがすごく幸せそうな表情をされていたので、そういう評価をどんどんもらえるようになりたいなと思います。私も一緒に成長しながら「Bリーグのボランティアと言えば仙台!」と言ってもらえるようなクラブにしたいです。

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