2017.02.24
9月22日、Bリーグの歴史的な開幕戦。新しいスポーツエンターテイメントの誕生の瞬間は、LEDコートや音と光の演出など新時代の到来を感じさせる素晴らしい演出の連続だった。その後、各クラブもそれぞれのホームゲームでは手を変え品を変え、バスケットボールを楽しみにアリーナへ訪れるお客さんへ様々な演出で精いっぱいのおもてなしを続けている。地域やクラブの色もある演出を各アリーナでぜひ楽しんでいただきたいが、その中でもぜひ、一度体験してほしいのが大阪エヴェッサのホームゲームだ。
大阪のホームゲームは、“鬼才”猪子寿之氏率いるチームラボと協働で開発した“4Dステージ”を採用している。「大阪エヴェッサ×チームラボ」4Dステージは、国内製最大出力の20,000ルーメンの4基の大型高輝度プロジェクター、Bリーグ最大級の大型LEDビジョン、そして56台のムービングライトを常設している。この4Dステージの由来だが、ホームゲームで使うオリジナルの『エヴェッサパークアプリ』を使用する応援によって、その時々で見えるもの見せられるものが変わっていく。参加することで3Dを超えた体感ができる場所という意味を込めて「4D」というネーミングになった。このBリーグの中でも必見の会場演出や興行面を支える“縁の下の力持ち”が手塚明子さんだ。手塚さんにこの演出を採り入れるまでの経緯、やりがい、苦労を聞いてきた。
インタビュー=村上成
写真=Bリーグ
――まず始めに、手塚さんのご経歴からうかがいます。チームの興業面をご担当されていますが、どのような経緯で現在に至っているのでしょうか?
手塚 中学生の頃からバスケットボールをやっていて、大学生まで続けていました。大学の途中で、大会運営を行う学連(全日本大学バスケットボール連盟)に携わる機会があって、その時にタイミング良くユニバーシアード2009があり、試合に帯同することができました。大会の盛りあがりや海外の雰囲気を実際に体感して、運営側の仕事のやりがいを強く感じたんです。日本でも同じように運営側として盛りあげていきたい気持ちがあり、大学を卒業してから、大阪エヴェッサに勤めることになりました。
――ちょうど求人があったタイミングだったんですか?
手塚 大学の先生のつながりが大きかったのですが、タイミングも良かったんだと思います。運営に関しては、学生から合わせて10年以上やっていることになりますね。
――プレーヤーとしてバスケットボールに向き合っていて、何をきっかけに運営やサポートする側になったんでしょうか? その時はどういう気持ちでしたか?
手塚 運営に携わることになったきっかけは、くじ引きでした(笑)。本当はずっとプレーヤーをやりたかったんですが、大学の決まりでメンバーの中から運営スタッフを選ばなくてはいけなかったんです。そこで“ハズレくじ”を引いたのが私でした。当時は、自分もプレーヤーとしてやりたい気持ちが強かったですし、運営には全く興味がありませんでした。嫌々やっていましたが、続けるうちに、バスケットボールを通じてたくさんの人に出会えましたし、多くのことを学びました。そこで、バスケットボールの試合が様々なサポートによって成りたっているんだと感じ、そこにやりがいを感じました。
――当時は“ハズレくじ”だと思っていたものが、実は“当たりくじ”だったわけですね。
手塚 そうですね(笑)。あそこで学連をやっていなければ、今は全く違う仕事に就いていると思います。
――ユニバーシアード2009に帯同して、実際に海外と日本の違いはどういった部分で感じましたか?
手塚 大会はセルビアのベオグラードで行われたのですが、学生の大会だったので演出がとても凝っているというわけではありませんでした。ただ、自国チームの試合ではアリーナが満員になって、自分たちの国を応援するという一体感や熱意がすごかったです。
――それでは、現在のお仕事の役割などをお聞きしたいと思います。運営とは具体的にどのようなことをされているんでしょうか?
手塚 ホームの試合を開催するまでの準備から、当日の段取り、そして試合終了から撤収するまでのすべてを統括することが私の仕事です。
――この仕事をしていて、一番楽しいと感じる時はいつですか?
手塚 この仕事の一番の魅力は、自分たちで考えて、実際にそれを実現できるところだと思います。そして実現したことにお客様からダイレクトで反応をいただけるところが、やりがいにもつながります。
――ダイレクトな反応というのは、具体的にどういったものでしょうか?
手塚 会場で直接声を掛けてもらえることもありますね。良いことも言っていただけますし、例えば「このイベントをやるならもっと早く知らせてほしかった」と言っていただいたりもします。今はお客様の多くがSNSを利用されているので、そういったところから声を拾ったりもします。Bリーグは、ファンと選手やスタッフが近い距離にいると思います。私たちからするとお客様は何千人といるわけですが、お客様からすると私たちスタッフの一人ひとりを見ています。会場で声を掛けてくださる方もいますし、担当のスタッフに直接、「あそこ改善した方がいいよ!」と言ってくださる方もいます。様々なことを教えていただきながら、私たちも成長できると思っています。
――そこは楽しくもあり、つらくもありそうですね。
手塚 そうですね。そこは良くも悪くも様々な声が届くので、私たちはその声を聞いて改善していければいいと思います。あとは、今のBリーグにはたくさんのクラブがあって、各クラブにそれぞれのカラーがあります。その中で私たちは“大阪らしさ”を試合で出すようにしています。それを磨くためにも他のクラブを見て勉強して、いい部分を大阪らしくアレンジして採り入れられるようにしようと考えています。
――具体的にこのチームの仕掛けが面白かったと感じたクラブはありますか?
手塚 例を挙げると琉球ゴールデンキングスですね。琉球は、もともとNBAで運営に携わっていた方が、今の演出にも携わっていることもあって、NBAを意識した仕様になっているように見えます。空間作りが非常にうまいと思います。イベントで見ると、三遠ネオフェニックスです。私も以前フェニックスにいた時期がありましたが、イベントの取り組みに関してはとても面白いことをやっているなと思います。あと、三遠は多くの方がボランティアに協力しています。組織として整備されていて、ボランティアがボランティアを育てるというような仕組みができあがっているんです。その部分は参考にしていますね。チームキャラクターの起用法で見ると、サンロッカーズ渋谷のサンディーです。あれはキャラクター設定がしっかりしています。この3クラブは意識して見ていますが、他のクラブの様々な取り組みも常日頃見るようにしています。
――逆にここはつらいなと感じたことはありますか?
手塚 これは良いところでもあるんですが、ホームゲームの回数がとても多いことです。どうしてもシーズン中は作業に追われてしまうことが多いですね。具体的に言うと、2月4、5日のホームゲームの時には同時に22日の試合のことも進めなければいけなくて、告知関連の作業も考えると3月の試合も視野に入れなくてはいけません。お客様からすると、ホームゲームの回数が多いことで、毎回イベントがあって楽しい回数が増えるんですが、私たちスタッフからすると業務の量も増えますし、イベントを考える時間が限られてしまうので、サービス自体が悪くなってしまうことにもつながります。ただ、考えることが私たちの仕事ですし、お客様は楽しみに待ってくださっているので、あまり苦には感じていません。
――開幕の時から話題になっていましたが、どうしてチームラボと取り組んでいるのか、きっかけを教えてください。
手塚 もともと、チームラボさんはbjリーグ初年度からスポンサーでご協力いただいている関係だったんです。その中で、Bリーグが始まることになり、私たちも今までとは違った形の演出をしていかなければいけないと考え、チームラボさんとお話させていただきました。ただ、チームラボさんはいろいろなところでイベントをされていますが、スポーツとの取り組みはこれが初めてだそうです。そこでお互いがやりたいことをお話して一緒に進めていくことになりました。
――猪子さんやチームラボとの取り組みで楽しかったことやワクワクすることがあったと思いますが、大変だと感じたことはありましたか?
手塚 チームラボさんと一緒にやらせていただくことで、すごく刺激になっています。具体的には選手の紹介の仕方。スターティングファイブを紹介する時は、通常であれば一人ひとりを呼びこみます。ところが、大阪のやり方は選手をコート上に5人配置して、そこにスポットライトを当てていくやり方なんです。ずっとバスケットボールをやっていて、この現場で働いている身からすると、すごく斬新で奇抜な発想ですね。チームラボさんはもちろん競技優先としつつも、全く違った見方からいろいろな発想を生みだしてくれるので、そこの調整が必要な面もあります。ゼロベースでの新しい発想なので、やりたいことをくみ取って、現場に落としこむことは楽しくもあり、大変でもありますね。
――まだバスケットボールを見に行きたいとか、Bリーグが気になっているとか思いながらも一歩踏みだせない方もいると思います。そういう方に大阪やバスケットボール、日々の興行の魅力を聞かせてください。
手塚 バスケットボールの試合と言うと、バスケットボールだけと思ってしまいがちですが、それだけでなくその前後もイベントがあって、ハーフタイムにもイベントがあります。1日とおして楽しめる場所であることを知ってもらいたいですね。もちろん会場内には飲食もあって、ご家族やお友達同士で来られる方もいます。そういう楽しい空間の一部として、バスケットボールがあることを知ってもらいたいことが一つです。あとこれはバスケットボールの特徴だと思いますが、サッカーや野球に比べてものすごく近くで見られるんです。それと本当にスピーディーです。途中でお手洗いに行く時間もないくらい、スピーディーにゲームが進んでいきます。
――大阪の場合は、2階席の方が演出が見やすいかもしれないですね。
手塚 そうですね。私たちがやっているプロジェクションマッピングは2階席の方が楽しめますね。演出を楽しむのであれば、そしてバスケットボール全体を楽しむなら、2階席をお勧めします。より迫力を求めるのであれば、1階席です。人によって楽しみ方も違いますし、その楽しみ方に応じていろいろな席をご用意しています。
――これからアリーナで仕掛けていきたいこと、やってみたいことはありますか?
手塚 私たちはこのアリーナを10年間の指定管理ではなく、賃貸借契約させてもらっています。ある程度自由にできるので、会場内装飾をすべて大阪のカラーに染めることや、すぐ横の広場を使ったイベントと、バスケットボール観戦の複合イベントなどもやってみたいですね。
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