2018.02.08

バスケットボール界活性化に期待! DeNAはベイスターズで何をしたのか? そして川崎で何をしたいのか聞いてみた

バスケットボールキングプロデューサー(事業責任者)

 2017年12月6日、Bリーグ理事会において、川崎ブレイブサンダースの2018-19シーズンからのオーナー変更が承認された。株式会社東芝から事業の承継を受けたのは株式会社ディー・エヌ・エー。前身の東芝バスケットボール部を含めて67年の歴史を持ち、リーグ優勝4回、天皇杯優勝3回数える名門チームの運営にスポーツビジネスで実績のあるディー・エヌ・エーが参入したことについて、バスケットボール界活性化への期待の声も多く聞かれる。ディー・エヌ・エーは2011年からプロ野球の球団経営に乗り出し、横浜DeNAベイスターズで昨季までの6季で観客動員数を1.8倍に増やすことに成功した。その事業運営の手腕を買われて、DeNAバスケットボールの代表取締役に就任したのが元沢伸夫氏だ。

 元沢氏はベイスターズの執行役員事業本部部長として、チケッティングからスポンサー営業、競技振興まで幅広い範囲で興業の責任者を務め、プロスポーツチーム運営のスペシャリストと言っても過言ではない人物だ。自身も小学生時代には剣道(剣道2段)、中学・高校ではサッカー、大学では競技ボートとスポーツを愛好し、スポーツに育てられ、スポーツに助けられ、スポーツを通じて生かされたという思いを強く持つ。

 バスケットボールの競技経験はなく、北卓也ヘッドコーチや選手たちには「僕は素人なので、いろいろと教えてください」と自己紹介したという元沢氏だが、バスケットボールの競技経験はないにしても、スポーツに対する思いの強さに間違いはない。「喜怒哀楽や、思ったとおりにならないいろいろな挫折を一番学ばせてくれたのはスポーツです」と笑顔で述べると、「チームでやる喜び、悔しさ、努力の大切さも学びました。スポーツに対する感謝というか、スポーツに関わることへの誇りは非常に強く感じています」と力強く語る元沢氏。

 日本のバスケットボール界に新しい風を吹き込む期待のキーマンに、日本のバスケットボール界をどのように見ているのか、プロ野球での経験をどのように川崎ブレイブサンダースに活かすのかを聞いてみた。

インタビュー=村上成
写真=山口剛生

■バスケットボールのポテンシャルの高さに衝撃を受けた

――株式会社東芝と株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)で事業承継について発表されました。改めて、川崎ブレイブサンダースの運営を承継した理由を教えてください。
元沢 バスケットボールに関しては、Bリーグが誕生してから、開幕戦やファイナルはもちろん、シーズン中の試合を何度か見に行っているのです。そこでスポーツビジネスとしてバスケットボールのポテンシャルを強く感じ、興味を持ちました。

――なぜバスケットボールに強く惹かれたのですか?
元沢 もともとは野球とシーズンが重ならないコンテンツを探していたということはあります。どうしても野球がシーズンオフの時に、我々がスポーツビジネスを通じて、街の方やファンの方に提供できるコンテンツが少なくなってしまうという課題がありました。そこでバスケットボールも併せてやらせていただけるのであれば、1年中いろいろなスポーツコンテンツを地域の方中心に提供できるのではないかという考えにいたり、それによって我々の存在意義が増すと考えています。ただ、それとは別に、単純にバスケットボールという競技自体のポテンシャルの高さにも大きな衝撃を受けました。

――具体的にポテンシャルの高さを何に感じましたか?
元沢 野球と大きく違う点として、まずアリーナという閉ざされた空間での演出です。事業面において野球とは異なる面白い演出、イベント、企画運営ができそうだなというワクワク感もありました。そして、競技そのものの魅力にポテンシャルを感じて、私自身、本格的なプレーの経験はないのですが、あくまでライトファンとして観戦した時、観戦型のスポーツとして、野球やサッカーを超える可能性を体感したのです。具体的には、得点が非常に激しく動くことです。2時間という締まった、決められた時間の中で、得点が多く動いて、3ポイントシュートやダンクシュートなど、ルールをよくわからなくても必ず盛り上がるシーンがあります。また、日本人が好きな野球の戦略性というものは、バスケットボールにおいても非常に高く、セットプレーを含めてかなり緻密である点。加えて、バスケットボールはサッカーの魅力であるフィジカルな部分、体と体のぶつかり合いも兼ね備えています。観戦型のスポーツとして、見せ方、演出の仕方によっては、野球やサッカー以上の魅力を引き出すことが可能なのではないかと感じました。

――可能性があると感じていた中で、川崎ブレイブサンダースの話があったという流れでしょうか?
元沢 これに関してはバスケットボールだけではなく、あらゆるスポーツチーム、特にプロスポーツの団体を持たれている会社さんとは定期的にいろいろなお話をさせてもらっているのです。その中で、東芝さんとご縁があって、2017年の7月頃から具体的な話が出てきて、双方の考えが一致しました。

――新たに誕生したBリーグについてはどのように見ていましたか?
元沢 Bリーグ自体にも大きな可能性を感じましたし、見ていて面白いなと思いました。バスケットボールの競技人口はとても多いと聞いていますし、すでに中学生男子の部活では、おそらく野球部の人数を抜くのではないかと言われています。バスケットボールは、多くの子どもたちがやっているスポーツにもかかわらず、興行としてのアウトプットの場が今までなかったので、Bリーグというステージができたことに興奮しました。

――川崎に対する率直な印象を聞かせてください。
元沢 お世辞抜きで、チームスタッフも、事業をやっているクラブスタッフも、ものすごく一生懸命やっていると感じました。僕がイメージしていた何倍も一所懸命、興行の運営、チーム運営をやっているなと。その度合いは、とても強いものを感じています。

――特にどの部分においてでしょうか?
元沢 特に事業運営においてですね。プロ野球とは比べものにならないほど人、お金、設備やあらゆる面でリソースが限られているなかで、クラブの皆さんが、自分の組織や担当の垣根なく、一丸となってなんとかいいものを作ろうという姿勢は、改めて気づかされるものが大きかったです。野球は恵まれた環境だと思いましたし、逆にバスケットボールのスタートラインから自分が関わらせていただけるありがたみ、ご縁を強く感じました。

■データと同じくらい肌感が重要

――これから元沢さんのノウハウを川崎に移管することで、これまでとは違うものができる可能性があるという伸びしろは感じますか?
元沢 伸びしろは想像すると眠れないくらいあります(笑)。いろいろな夢と、こんな面白いことができそうというものがイメージできます。川崎市という大きな経済基盤を持っていて、かつ人口がどんどん増えて、発展している大きな街でやらせてもらうことは大きいですね。

――横浜DeNAベイスターズでは顧客データを収集、分析し、チームを伸ばしていったとうかがいました。
元沢 お客様のことを知るという手段は、競技が変わっても、必ずプロの興行では一番重要なことだと思っています。データはもちろん重要です。データはあらゆる角度から多面的に、お客様がどのような方なのかわかりますし、何に満足して何が不満なのか徹底的に知ることができます。しかし同じくらい定性的に肌感でお客様のことを知るのも重要です。本当にお客様のことを知るには、1シーズン以上は掛かると思っています。実際にお客様の目線で、実際にお客様の受けるサービスを自分でも一つひとつ体感して、それをどう思うかと……。お客様と話したり、いろいろな人の意見を聞いたりすることは最も重要なことだと考えています。

――これまで、経験した具体的なエピソードはありますか?
元沢 ベイスターズでは、データ分析は重要なツールになっていたので、いろいろなところからデータが上がってきました。なので定性的な部分については僕自身が、すべてのホームゲーム、イベントを実際に見て体感してきました。その中でお客様が盛り上がっていないイベントと、盛り上がっているイベントがあるのです。すべてがうまくいっていないわけじゃない――それがなぜなのか、どうすれば良かったのかを、何回もお客様と一緒に体感するとわかってきます。その肌感が非常に重要です。ときには同じスタンドにコッソリ座って、周りのお客様の反応を見たり、意見に耳を傾けるとよくわかります。

■美味しいラーメン屋はどんなに外れたところにあっても流行る

――ベイスターズでどのような仕事を担当していましたか?
元沢 もともと親会社のDeNA出身で、2013年シーズンの終わり頃からいろいろとレクチャーを受けて、2014年に正式にベイスターズの一員になりました。そこから事業本部長として、興行の責任者というポジションで昨シーズンまでやらせていただきました。

――会場演出などを含めてということですか?
元沢 管轄しているのは、売り上げを直接的に上げるスポンサー営業、グッズ部門、チケット部門、放映権に加えて、実際の試合の興行を運営したり、試合を演出するスタッフ、野球振興スクール、地域振興なども見ていました。

――チーム運営で必要な要素はひととおり経験されているのですね。
元沢 興行に関してはですね。ありがたいことに、ひととおり任せていただいたので、横串を通したからこそ見えてくるものがあり、判断がつくものが多くありました。

――野球とバスケットボールでは様々な違いがありますが、箱の大きさ、立地などベイスターズと比較するとどうしても不利な条件だと思います。課題、難しい部分はどこでしょうか?
元沢 実はあまり感じていないんです(笑)。ハマスタ(横浜スタジアム)は立地的に最高で、最寄り駅から徒歩数分で行くことができます。しかし、川崎市とどろきアリーナは駅からのアクセスを比べると不利になりますし、会場としてのキャパシティーの問題もあります。ただ、面白いものにはお客様が集まって来ます。例えば、美味しいラーメン屋はどんなに外れたところでも、皆さん行きますよね。それと大きく変わらないと。私の仕事は、どんな条件であっても必ずお客様が来たくなるようなコンテンツを作ることだけだと思っています。

――アリーナは、スタジアムと比べるとキャパが小さく難しい部分もあると思いますが……。
元沢 まずはとどろきアリーナが全席完売になってから、その先を考えます。川崎の現運営会社の方もいろいろな努力をしていて、チケットの販売も、ものすごく一所懸命やっていますので、どんどんお客様が増えていますけど、全席完売で、チケットが完全に取れないという状況にはなっていません。まずは、そういう状態にしたいです。

■重要なのは空間演出、グッズそして飲食

――その中で、これまでの経験をどのように活かしていきたいのですか?
元沢 大きく3つのことをやりたいと思っています。まずとどろきアリーナでの空間演出はいろいろチャレンジしていきます。あの場所、あの空間に入ったら、テンションが数段階上がるような空間演出をいくつかやれます。これは川崎市さんといろいろと相談しながら進めていけばと思っています。次がグッズと飲食です。この2つに関しては、もちろんクラブの収益にもつながりますが、その収益のためというより、お客様に来てもらって、楽しんでもらうためのコミュニケーションツールとして非常に有益だと、ベイスターズでの経験から思っています。バスケならではのグッズ、フード戦略は必ずあるので、そこは直接的に私自身、関わってやっていきたいと思います。

――横浜スタジアムの飲食はとても充実していますよね。
元沢 ベイスターズは、かなりこだわっていましたので(笑)。

――まずどこから手を付けていきますか?
元沢 今は想像が膨らむばかりですけど、そこの気持ちを抑えて(笑)。まずはこれまで東芝さんが長年培ってきたチームの運営方針、やってきたことを、正しくしっかりと引き継ぐことが重要だと思っています。ベイスターズのときもそうでしたが、それまでの非常に長いクラブの歴史はお金では買えません。そこはしっかりとリスペクトして、”知る”ということを人一倍大事にしたいと思います。

――具体的に7月の事業継承以降取り組まれることを教えてください。
元沢 まずは今の運営方針、これまでやってきた歴史を学ばせてもらってから、いろいろとやりたいことがありますが、優先順位をつけて実現可能な範囲で戦略を固めていきたいと思います。今のチームもクラブも、一所懸命やってきていると感じます。まずはしっかりと受け止めたいと考えています。

――横浜に野球チーム、川崎にバスケチームを持つことになりますが、地域の連携はどのように取っていく予定でしょうか。
元沢 もちろん、神奈川県という意味合いにおいて、川崎市以外の都市と連携することを排除するわけではありません。しかし、バスケットボールチームとしては、まずは川崎という場所で、川崎の方々にもっとチーム知ってもらって、アリーナに足を運んでもらって、楽しんでもらう、好きになってもらうことです。数年間はこのことに注力したいと考えています。それくらい川崎市は大きいですし、多くの可能性を秘めています。

――川崎というチーム、地域を活用して実現したいことは何ですか?
元沢 スポーツはものすごい力を持っていると思っています。人生を直接的に豊かにする、これはほかにはないものだと考えています。川崎という場でやらせていただくご縁なので、スポーツを通じてまずは川崎の方々の人生にとって、少しでもプラスの要素を提供できる存在になりたいです。そしてその蓄積が川崎全体の活力になる思っています。川崎の方々が、このチームが川崎にあって自分たちにとって誇りだと思ってもらえるような存在に、1日でも早くなれるようにしたいです。

今季途中からパンツにDeNAのロゴが入った [写真]=B.LEAGUE

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