2018.11.03
昨シーズン、初のBリーグチャンピオンとなったアルバルク東京。ルカ・パヴィチェヴィッチ新ヘッドコーチの下、厳しいトレーニングを課して栄光を勝ち取った話はファイナル後の報道で見聞きした人も多いことだろう。しかし、ルカ体制の裏側には1人の男の存在があったことが取材を通じてわかった。リーグ連覇、さらに真のビッグクラブへの道を歩むアルバルク東京の礎を築いた恋塚唯GMに話をうかがった。
取材=入江美紀雄
写真=山口剛生、Bリーグ
Bリーグが開幕してまだ丸2年。アルバルク東京でGMを務める恋塚唯(こいづか・ゆい)の名刺にある役職は「ビジネスオペレーション・部長」だ。A東京で働くようになるまで恋塚はNBL(ナショナルバスケットボールリーグ)の最後の事務局長としてBリーグ自体の立ち上げに携わっていた。
「リーグ側のメンターとして各クラブと接していた中で、トヨタアルバルク東京(アルバルク東京の前身)の方向性と今後のビジョンに接し、自分の経験を活かせるのはここだと思いました。
私はJリーグの川崎フロンターレで10年間、事業の営業やプロモーションに携わっていました。いわゆる事業全般ですね。Jリーグは1993年に開幕してヴェルディ(現東京ヴェルディ1969)、マリノス(横浜F・マリノス)が活躍した黄金期がありました。しかし、その後、ずっとリーグ自体が順風満帆だったとは言えず、成長が止まった時期もあったわけです。そこで踏ん張ってリーグを盛り上げていったのが、浦和レッズや鹿島アントラーズという、しっかり地域に根付いて人気と知名度を上げていったクラブでした。
川崎で仕事を始めた当初は、川崎自体、公害やギャンブル、風俗といったイメージが強く、ヴェルディや大洋(ホエールズ/現横浜DeNAベイスターズ)もロッテ(現千葉ロッテマリーンズ)も出ていった中で、街全体がスポーツ、クラブに対してネガティブな感情をかなり持っていたのも事実です。そのイメージをクリーンにしていくことを、自分たちだけではなく、地域の人たちと一緒に、ステークホルダーのみなさんと一緒に地域を盛り上げていくというスタンスで川崎フロンターレではやっていきました。その経験をA東京でも取り入れて、地域に対するアプローチを進めています。
私の場合、1年目は事業部長としての役割が大きかったと思います。母体が実業団チームだったこともありクラブとしての運営はゼロからのスタートだったので、クラブのビジョンや事業の方向性という土台作りを行い、社長の林(邦彦)とコミュニケーションを取りながらアルバルク東京のプロクラブの在り方を構築していきました。立ち上げの際、スタッフはスポーツ興行運営の経験があるメンバーを揃えたので、適材適所で当てはまれば良かったと思います。さらにBリーグの開幕戦の出場クラブに選んでいただき、リーグの開幕プロモーションに同調することができたこともあって、ある程度の方向性はつかめました」
「Bリーグ初年度は伊藤拓摩さんにヘッドコーチをお願いしていましたが、企業チームからのしきたりというか流れがあったのも事実です。伊藤さんが英語を話せることもあり、外国籍選手の日常の世話までも行っていたので、彼に負担をかけすぎてしまった。正しいクラブ強化の青写真を描くためにも、それをリセットする必要性があると林(社長)と話し合い、成績に関係なく伊藤さんにはいったんヘッドコーチのポジションから引いてもらおうという結論に達しました。
次のステップでどのようなバスケを目指し、どのようにチーム作りを進めていくかを模索する中、日本代表のテクニカルアドバイザーを務めるルカ・パヴィチェヴィッチ氏に目が留まりました。ルカは代表チームの指揮をとっていたこともあり、うちは代表選手も多いし、森(高大)アシスタントコーチも送り出していたので、情報は入っていました。こんなに素晴らしい指導者が日本に来ていること自体がすごいことだと思っていて、次のヘッドコーチにリストアップしたのです。
ルカにはチームの強化に専念してもらいました。外国籍選手を含めた選手のケアはGMである私を中心に各担当が担い、年俸交渉なども私が行いました。私がバスケの素人だけに、ルカとのコミュニケーションは当初は毎日数時間取っていましたし、今でも密に取っています。ここに差異が生じないように努めました。
それでもルカの考え方をより選手に伝える、間に入るアシスタントコーチが必要ということで、今年はレバンガ北海道の水野(宏太)ヘッドコーチをチームに招いて、ルカのバスケの理解度を上げていく環境作りを行いました。水野さんは対戦相手としても非常にタフなヘッドコーチだったので、彼の知識を取り入れることで、うちのバスケにさらに深みが出る。3シーズン目を迎えるにあたり、コーチ陣を入れ替えて、飛躍できる環境、さらに強化を進める下地作りを進めたのです」
また事業という面でも2シーズン目のA東京には新たな課題が突きつけられる。それは、当初ホームアリーナにしていた代々木第2体育館の改装時期と重なり、A東京は23区から離れて多摩地区にあるアリーナ立川立飛(東京都立川市)をホームアリーナにするということだった。
「アルバルクというとクールなイメージを持たれる方も多いと思います。マスメディアが多く存在する首都圏にあるチームの利点を生かしてプロモーションも展開しました。しかし、立川にフランチャイズを移すということで、いろいろと焼き直しを迫られました。客層が変わってくるのもあり、今では地域の中に入っていって、アットホームな雰囲気が徐々に出来上がりつつあると思っています。選手とファンとの親近感ですね。3シーズン目を迎えて、アリーナの雰囲気が変わってきたと思いませんか?
シーズンキャッチフレーズだった『WE』は、ファンの皆さんの声に耳を傾けながら一緒に作り上げるためのものでした。皆さんに「みんなで盛り上げていこう」、「おらが町のアルバルク東京」と思われるように、そこを前面に押し出す。それにより地元の自治体や企業といったステークホルダーの人たちとの関係性をより深めていって認知を広げていく活動を、今は限られたスケジュールの中で目一杯やっていきたいなと思っています」
クラブの事業化と強化の筋道を作った恋塚にとって、今後着手していくのが育成に関してとなる。今シーズンより15歳以下のユースチームを所有することがB1クラブのライセンス発行のためにはマストの条件となった。加えて2021年からは18歳以下のユースチームも条件に加わることになっている。また、A東京では小学生を対象にしたバスケットボールスクールも開校した。
「将来的には育成の延長線上にトップチームがある絵を描いていかなければいけません。幸いにもうちのクラブにはしっかりとした練習施設がある。ユースやバスケスクールに通う子達もここで練習しますが、それだけにトップチームの選手が身近な存在になるはずです。またユースをトップチームのトレーナー陣が一緒に見ることにしているので、さらに距離を縮めることができるはずです。これは強みです。
U15のヘッドコーチにはトップチームから塩野竜太を異動させました。元々彼には自分のバスケットボールの哲学があり、育成のビジョンをしっかりと持っていた。彼にユースとスクールを任せることでアルバルクの育成の基礎が出来上がると思っています。ゆくゆくはスクールを都内全域に広めることで、東京の子ども達のバスケ熱を高めることができ、バスケの技術向上に少しでも役に立てればと考えています。
ユースとスクール運営はクラブとしての地域貢献に大きな役割を担うはずです。Jリーグのクラブではすでに軌道に乗っているところも多いのですが、事業と強化、さらに育成を三位一体で推進していきます。これはまだスタートしたばかりですから、しっかりと基礎を固めて、ひとつずつ積み上げていきたいと思います」
アンダーカテゴリーの強化については、実際に現在行われている部活動との関係性も構築していく必要があるだろう。先進のJリーグといえでも一朝一夕で出来上がったものではない。アルバルク東京がビッグクラブに向けて一歩を踏み出したが、ゴールはまだまだ先にある。じっくりと時間をかけて作り上げるためにも、その礎が大切だということは予断を挟む余地はない。恋塚GMの次の一手にも注目だ。
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