2025.04.15

日本代表PGが絶賛した165cmの「越圭司」が渡米を志した理由…武器は雪山で鍛えた体幹と凄まじい向上心

Bリーグユースから羽ばたく有望株を直撃[写真]=長嶺真輝
スポーツライター

 また一人、日本の若き才能が海を渡る。

 今春までBリーグ・琉球ゴールデンキングスのU15ユースチームに所属していた越圭司のことだ。世界と勝負できるバスケットボール選手の育成を目的とした株式会社サン・クロレラのプロジェクト「GLOBALLERS」で奨学生に選出され、8月に渡米する。進学先はネブラスカ州にある「Concordia Lutheran Schools of Omaha」。3年間、学業とバスケの研鑽に励む。

 今年1月にあった「京王Jr.ウインターカップ2024-25 2024年度第5回全国U15バスケットボール選手権大会」では琉球U15にとって過去最高成績となる準優勝に貢献し、大会ベスト5に選出。初優勝を飾った3月の「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2025」では決勝でゲームハイの37得点を挙げ、大会MVPに輝いた。

 身長165センチという小兵ながら、抜群のスピードと得点能力は世代屈指だ。15歳とは思えない程のスキルの高さは、日本代表を長らくけん引してきた167センチの富樫勇樹千葉ジェッツ)が絶賛したほど。一対一における強度の高いディフェンスにも定評がある。

 どのような環境で自らを磨き、なぜアメリカに新天地を求めたのか。沖縄が晴天に恵まれた4月7日、ビーチに面したバスケットボールコートでインタビューした。

取材・文=長嶺真輝

■富樫が「点数の取り方が異常」と驚き

ずば抜けた得点力で存在感を示した越[写真]=B.LEAGUE


「びっくりするくらい、点数の取り方が異常です」

「(15歳で)あんなステップワークなんてありえない」

 これはテレビ朝日の番組「バスケ☆FIVE 日本バスケ応援宣言」に出演した富樫が、1月のJr.ウインターカップ準決勝で見せた越のパフォーマンスについて、驚きの表情を浮かべながら語ったコメントだ。注目している若手に越を挙げ、そう評した。

 飛び級でU18日本代表に選出された白谷柱誠ジャックを擁し、優勝候補筆頭だった四日市メリノール学院中学校(三重県)と対戦した準決勝、琉球U15は80-63で勝利。大会最大の番狂せのけん引役となったのが、チームハイの35得点を挙げた越だった。

 特に一人で8本を沈めた3ポイントシュートは、ほとんどがキレのあるドリブルからステップバックやサイドステップを駆使してプルアップで放ったもの。自らスティールしてのトランジションスリーもあり、多彩な得点バリエーションでゲームを完全に支配した。小さな体から放たれる強烈な存在感に、富樫や河村勇輝の姿を重ねた人も多かったはずだ。

 テレビ番組で富樫が絶賛していた話を本人に振ると、「いやいやいや…」と少し照れくさそうにしながらも「本当にうれしいです。限りなくうれしいです」と頬を緩めた。「でも、自分が上手いとは思わないです」とも言ったが、同じようなサイズ感で、プレーを参考にしている日本のトッププレーヤーからの高評価は自信につながるだろう。

■“日常”にあったNBAとスノーボード

 卓越したドリブルスキル、他を圧倒するスピード、急停止できるバランス感覚、激しい動きの中でもブレないプルアップシュート。そして、それらを生み出す強靭な足腰と体幹。15歳にして、なぜこれほどの能力が育まれたのか。その根源を探るには、独特な生い立ちを辿る必要がある。

越は2009年5月6日生まれの15歳[写真]=長嶺真輝


 愛知県東海市の出身。小学校1年生の時に地域のクラブチームに入り、本格的にバスケを始めた。きっかけの一つは、父・健太郎さんがバスケ好きだったこと。当時から自宅のテレビにはNBAの録画映像がよく流れていた。ステフィン・カリー、アレン・アイバーソン、マイケル・ジョーダン…。時代を彩ったスター選手たちに憧れ、特に華麗なドリブルスキルに目を引かれた。

「小学校のグラウンドにバスケゴールが一つあって、クラブ以外でも、よくそこで練習をしていました。ただシュートはほとんど打たず、ほぼドリブルだけ。NBA選手のドリブルがすごい格好良く見えて、ひたすら真似をしてボールを突いていました」

 日々の努力が実を結び、年々スキルが向上。小学校6年生でU12愛知県選抜に選出され、トライアウトを経て名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15にも飛び級で登録された。

名古屋D時代から非凡な才能を示していた[写真]=B.LEAGUE 


 当時から体幹の強さとバランス感覚にも優れていたが、それは、あるウインタースポーツが身近にあった家庭環境が起因している。この二つが重要な要素となるスノーボードである。

 父・健太郎さんはスポンサーが付いていた程の実力を備えたハーフパイプ選手で、母・華奈子さんもインストラクターの資格を持つ熟練者だ。越が幼い頃から、両親の出身地である長野県の雪山によく家族で行った。体力作りと足腰の鍛錬を兼ね、歩いて山を登り、上から滑り降りてくるバックカントリーもよくやっていたという。

 家族でスケートボードにも親しんだ。母・華奈子さんは「圭司の体幹や足腰の強さ、転び方の上手さは、小さい頃からの遊びで体が覚えたものだと思います」と分析する。

 その他にも、父・健太郎さんと体力作りのために近所の公園の周りを毎日走り込んだり、坂道ダッシュをしたりしていた。越は「小学校5年生の頃には公園の周りを毎日8周(1周約830メートル)くらいできるようになって、お父さんにも勝てるようになりました。スタミナも付きましたね」と振り返る。

■元日本代表スタッフ・末広朋也コーチを追って沖縄へ

末広コーチ(左奥)が指揮する琉球U15に移籍した越[写真]=B.LEAGUE 


 琉球U15では副キャプテンも務め、練習中から周囲への声掛けは多い。「コート上の監督」とも称されるポイントガードに必要なリーダーシップを伸ばした要因は、名古屋D U15時代から師事する末広朋也コーチの存在が挙げられる。

 男子日本代表で戦術分析を担うテクニカルスタッフを7年間(2011〜2018年)務めた経歴を持つ末広コーチ。豊富な経験を基にした指導はきめ細かく、越は「例えば、自分たちの試合動画を見ながら、残り時間や点差、ファウルの数などを踏まえて『この場面だとどういう選択がいいですか?』と聞いたりすると、的確に教えてくれます」と語る。

 一方で、普段は「あまり答えを言わないコーチ」とも言う。「練習中は、選手に考えさせて自分自身で答えを出させる指導の仕方だったので、たくさん悩みました。ポイントガードはチームを勝たせる選手じゃないといけないので、これは永遠の課題です。今も考え続けています」と話し、頭を使う習慣が身に付いたようだ。

沖縄でも心技体を磨いた[写真]=長嶺真輝


 末広コーチは責任感や謙虚さを持つこと、バスケ以外での生活を整えることなど、人間性の向上も重視する。このコーチングの在り方が、プロ選手を目指し、強い成長意欲を持つ自身の性分とマッチした。

 中学1年生を終えるタイミングで末広コーチが名古屋D U15から琉球U15に移ったが、「末広コーチはプロになる選手、日本を背負える選手になるための人間性を養うため、私生活から多くのことを指摘してくれるので、付いて行きたいと思いました」と、中学2年生の10月に母・華奈子さんと沖縄へ移住。その後、全国に名を轟かせるまでに才能を開花させた。

 末広コーチの下で学んだ期間を振り返り、「ポイントガードとしてのバスケットボールIQや責任感を持つことは、一番伸びた部分だと思います」と自負する。

■河村、富樫、岸本、田臥…「良い部分を合わせた選手」に

 アメリカ挑戦を志した理由は至ってシンプルだ。

「バスケを本格的に始めた小学1年生の頃からNBAを見ていて、その頃からずっとNBAでプレーしたいと思っていました。だったらアメリカに行くしかない。本当にシンプルなんです」

[写真]=長嶺真輝


 とはいえ、極めて大きな目標であることは間違いない。2年連続でメンバーに選出された「GLOBALLERS」のアメリカ遠征では、現地のレベルの高さを実感した。「アメリカの選手の体の強さや高さ、『絶対に勝ってやる』というメンタルは強烈でした。中学生2年生で身長210センチの選手もいました。本当にすごかったですね」。ただ、そう語る表情は実に生き生きとしている。向上心が強いからこそ、新たなチャレンジを心待ちにしているのだろう。

 渡米まであと4カ月ほど。オンラインの英会話レッスンを受けたり、体力作りをしたりしながら着々と準備を進めている。もちろん異国の地での新生活がすぐに安定するとは考えていない。「初めの1年間はバスケも語学も絶対に苦労するので、我慢の年だと思っています。そこで踏ん張って、2年目以降につなげたいです」と冷静に先を見据える。

 NCAAディビジョン1やNBAでプレーすることを目標に掲げるが、河村勇輝がBリーグを経由してNBAデビューを果たしたように「いろんな道がある」と視野を広く持つ。先々の選択肢を増やせるかどうかは、あくまで自分次第。だからこそ、目指す選手像のスケールは無限大だ。

河村勇輝選手や富樫勇樹選手、琉球で言えば岸本隆一選手、ドルフィンズで言えば齋藤拓実選手のプレーもよく見ます。前の世代で言えば、田臥勇太選手のプレーも参考にします。全員の良いところが合わさった選手になれれば、もっと強くなれる。そういう選手になりたいです」

[写真]=長嶺真輝


 新天地へと旅立つ15歳は、今後どのような成長曲線を描いていくのか。むろん、大きな壁にぶつかることもあるだろう。それでも、持ち前の強い向上心で一歩一歩、着実に理想とするバスケットボールキャリアを切り開いていくことを期待したい。

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