
2025.03.27
沖縄水産。この高校名から真っ先に連想する競技といえば、多くの人が「高校野球」と答えるだろう。夏の甲子園で2年連続準優勝を飾るなど1980〜90年代に全国で一世を風靡した。公立高校ながら、甲子園出場は春夏通じて通算12回に上る。
その「沖水」が今、沖縄のバスケットボール界で急速に台頭している。
旗振り役は嘉陽宗紀コーチだ。小禄高校や豊見城高校などの公立高校を10回以上に渡って全国に導いた名将である。レバンガ北海道などでプレーし、現在は解説者としても活躍する松島良豪氏(小禄高出身)の恩師でも知られる。
沖縄水産は今年1月、県大会の一つである「小橋川寛杯争奪高校生バスケットボール選手権大会」で初優勝を達成。2022年8月に嘉陽コーチが赴任してから、わずか2年半での県制覇となった。
県代表として参戦した「第21回沖縄市長杯おきなわカップ2025・第3回琉球ダイハツカップ」(3月22〜23日、沖縄市体育館)では東山高校(京都府)、柳ヶ浦高校(大分県)という強豪と対戦した。得難い経験を糧に、50年以上ぶりの全国大会出場を狙っている。
しかし、それから2年後に当たる昨年の全国高等学校総合体育大会(インターハイ)の県予選で準優勝を飾り、その後のウインターカップ県予選ではベスト4。そして、先述した小橋川杯優勝だ。なぜ、飛ぶ鳥を落とす勢いで強豪にのし上がることができたのか。
嘉陽コーチは対応力の強化を要因に挙げる。
「まずやった事は、チームの形を作るために戦術を整えました。ディフェンスでのプレスやゾーン、オフェンスではセットもあります。それらを全部持っておいてゲームに臨んだので、相手に対応できるようになるのは早かったと思います」
内容自体はシンプルなものだ。ただ、ほぼ一からチームを作っていく状況だったことを考えると、短期間で完成度を高めるのは容易ではない。公立高校で専用の練習場があるわけでもない。体育館を使えるのは平日週4日で1時間半ずつ、土日は3時間ずつ。限られた時間の中で質にこだわった。
個の能力が高い1年生のブリティン ジェレド 琉貴[写真]=長嶺真輝
中学までの実績が決して豊富とは言えない選手たちに対し、この指導法がハマった。キャプテンの高吉伊吹希も「嘉陽先生は選手一人ひとりやチームに対して必要があれば練習を止めて細かく教えてくれるので、それが結果につながってると思います」と手応えを語る。
嘉陽コーチが赴任後、初めて入学時から指導する代となった高吉ら2年生が少しずつ勝利を積み重ねると、下の代も「嘉陽先生の下でバスケがしたい」と選手が集まってきた。現在は2年生14人、1年生19人の計33人にまで部員が増えた。
身長191センチのマクミランアレックスと184センチのブリティンジェレド琉貴、180センチの末吉青空の1年生3人は中学時代に県の育成選手に指定されており、ポテンシャルの高い選手もチラホラ。戦力が整い、県内で優勝争いに絡むまでに急成長を遂げた。
高い得点能力を誇る金城都馬[写真]=長嶺真輝
予選リーグで対戦した東山に対しては53ー72、柳ヶ浦戦では43ー58で敗れた。高さのある留学生を擁するチームに対し、テーマに掲げる「オールコートで守り、オールラウンドに攻める」バスケでいずれも第3クォーター終了時点のビハインドは5点以内に抑えていたが、最終盤で一気に突き放された。指揮官は「個の力で打開することも必要な第4クォーターの勝負所でシュートを決めきれない。メンタル面も含めた強さが必要です」と語る。
5・6位決定戦で戦った地元のコザ高校との試合も、オーバータイムの末に68ー69で競り負けた。コザは沖縄水産と同様に高さこそないが、スピードと高いスキルを持つ選手が多く、前日の予選リーグから臨機応変に戦い方を変えることができなかった。
選手たちに「自立」を求める嘉陽コーチ[写真]=長嶺真輝
「いろんなチームがいて、試合の中でも相手が変化してくる中で、意思を持って工夫することができない。もっと自立をしないといけません。1年生に強く言う2年生がいなければ、自分から『こうしよう』と言える1年生もいない。他人に要求すると、自分にも責任が課されて成長につながります。自分たちに矢印を向け、そういう習慣を身に付けてほしいです」
高吉も「県外の強豪は試合中に一人ひとりが要求し合っていました。自分たちも強く言い合えるようになっていかないといけないと感じました」と言い、チームの在り方に改善点を見出したようだ。
高校野球で名を馳せる前の1960年代に4度インターハイに出場し、県内ではバスケットボールにおいても黄金期があった沖縄水産。それ以来の快挙達成が懸かる県予選までに課題を乗り越えることができるか。指導歴30年超に及ぶ名将の下、さらなるレベルアップに挑む。
取材・文=長嶺真輝
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