2024.10.02
地中海最大の島、シチリア島。イタリアの形を細長いブーツにたとえると、爪先の先端に位置する。日本から約1万キロも離れたこの島に、同じく南国の離島県である沖縄を本拠地とするBリーグの琉球ゴールデンキングスが降り立った。
琉球は9月7、8の両日(現地時間)、シチリア島西端の都市トラパニで開かれたプレシーズン国際トーナメントに参戦。主催クラブであるイタリアリーグ1部(セリエA)のトラパニ・シャークから招かれ、クラブとして初となる欧州遠征を行った。アジアNo.1の球団を目指し、「沖縄を世界へ」という理念を掲げる琉球にとって、歴史的な一歩になったことは間違いない。
今回の遠征が持つ意義は、琉球だけにとどまらない。Bリーグ全体を見ても、日本のチームが強豪国ひしめく欧州での国際試合に参加したのは初の事例となる。それも「招待」を受けて、である。日本のバスケットボールが欧州からどう見られ、今後にどんな波及効果が期待されるのか。現地レポートをまとめた。
取材・文=長嶺真輝
地中海に面した港湾都市で北アフリカのチュニジアに近く、中世には貿易の中心地として栄えたトラパニ。製塩業のほか、マグロ漁なども盛んだという。街の中心にある旧市街にはヨーロッパらしい古代の石造建築が並び、海沿いには延々とビーチが続く。夏は高温で雨が少ない地中海性気候で過ごしやすく、観光客も多い。
ゆったりとした空気が流れるこの地方都市を本拠地とするのが、琉球が参加した国際トーナメントを主催したトラパニ・シャークである。創設は1964年。市街地の端に位置するパラ・シャークアリーナをホームとする。
強豪国の代表選手やNBA経験者が多く所属するパルチザンは、レアル・マドリード(スペイン)やパナシナイコス(ギリシャ)などでユーロリーグを計9回制した世界的な名将ジェリコ・オブラドヴィッチが率いており、大会に箔を付ける意味で打って付けのチームだ。
他方、欧州から見れば極東に位置する日本のチームである琉球を選んだ理由は何だったのか。大会前、アントニーニ氏は地元メディアのインタビューの中で「日本チームとの親善試合はどのようにして生まれたのか」との質問に対し、以下のようなコメントを発している。
「私はトラパニブランドを世界中に持っていくチームを望んでいました。多くのフォロワー(SNSのことだと推察される)を持つチームと試合をすることで日本全国にトラパニの名を届けることができ、アジア市場で共鳴を与えることができる。世界におけるこの街のイメージを少しでも変える。そのために日本の重要なチームをゲストとして迎えることは不可欠です」
筆者は現地に4日間滞在したが、最も観光客が多い市街地でもアジア系とおぼしき人を見掛けた回数は片手でも余るほどだった。物理的な距離の遠さや地方都市ということもあり、アジアにおける認知度が高いとは言えないはず。
琉球はBリーグでトップクラスの人気と実力を誇り、東アジアスーパーリーグ(EASL)にも3シーズン連続で参戦中であり、スポーツを通じてトラパニという都市をアジアに広める上であつらえ向きな相手と判断したということだ。アントニーニ氏は大会終了後も「イタリアのバスケットボールとトラパニに対し、アジア市場の扉を開いてくれた琉球に感謝を伝えたい」との声明を発表している。
遠征前、NBAネッツに勤めた経歴もある琉球の安永淳一GMも筆者のインタビューに対して「10年ほど前であれば、世界的に見てヨーロッパの次にくるリーグは中国のCBAでした。しかし、今ではヨーロッパやオーストラリアの力のある選手、世界各地で活躍するアメリカ人選手らがどんどんBリーグに入ってきています。BリーグはNBAに次ぐ世界No.2のリーグを目指していますが、ヨーロッパでも日本のリーグが次の時代をリードする存在と認識されてきているのだと思います」と語っていた。
今月10日に発表されたBリーグの2023年度決算は経常収益が過去最高の79億6400万円に上り、4億4500万円の黒字を出した。成長著しいリーグに対し、アジアでのマーケットを開拓したい海外クラブがアプローチをするのは自然な流れと言える。
「5年ほど前、私は日本の学生やプロチームのコーチ向けにクリニックを開くために、東京に2週間滞在しました(※2018年のJBA主催のコーチクリニック)。それは素晴らしい経験でした。日本のチームは走ってシュートして、走ってシュートしてを繰り返し、相手は集中しないといけない。ディフェンスも走って戻り、良いファウルやボールをカットしたりして基本を貫いています」
パリ2024オリンピックで銀メダルを獲得したフランスに対し、グループリーグで対戦した日本代表が第4クォーターの残り10秒まで4点をリードしていた試合にも触れ、こう続けた。
「日本に対するリスペクトやトランジションディフェンスの集中を欠いたフランスに対し、日本ははるかにいいプレーをしました。だからこそ今夜の試合前、私はチームに対して『今日は高いレベルのトランジションディフェンスやイージーバスケットをする相手と練習ができる』と伝えました。それは正しかったです。私たちは(琉球との試合に)とても多くのエナジーを費やしました」
「本当に成長しています。Bリーグの試合もテレビで多く見ましたが、多くの素晴らしい選手、素晴らしいコーチがいる。NBAのスタイルに近い部分もあれば、ヨーロッパのバスケに近い部分もある。だから『おめでとう』と言いたいです」
最後は笑みを浮かべながら「we need to watch out(私たちは警戒しないといけない)」という言葉で締め括ったラファエレHC。日本代表は急激にレベルが上がってはいるが、最新のFIBAランキングでは21位とまだまだ世界的に見れば挑戦者の立ち位置に変わりはないため、多少のリップサービスはあるかもしれない。それでも要注目の対象となっていることは間違いないだろう。
10日にあったBリーグの理事会後、琉球のイタリア遠征に対する所感を聞かれた島田慎二チェアマンが「代表選手は海外のトップ選手と戦って意識が高まることがありますが、クラブが外に出ていくことにより裾野が広がり、Bリーグのクオリティーアップにつながる。とてもいいことだと思います」と言ったように、クラブに所属しながら個々の選手が強豪国の代表クラスと対戦できることは、日本のレベルの底上げにつながるだろう。
欧州に関しては、ドイツが初優勝を飾った昨年のW杯は8強のうち6カ国、今夏のパリ五輪も金メダルを獲得した米国以降はフランス、セルビア、ドイツと4強のうち3カ国を占めた。一対一の比重が大きいNBAとは異なり、個々の選手が優れた状況判断をして質の高いチームバスケットを目指す欧州のスタイルは、身体能力の高い選手が多くない日本にとって学びも多いはずだ。
海外からのオファーについて、島田チェアマンは「海外からレベルの高い選手がBリーグに来ていて、エージェントとのコネクションが強まると、派生してこういう動きが出てくる」と分析したが、その逆もまた然り。
今シーズンも群馬クレインサンダーズにドイツ代表のヨハネス・マーティン、横浜ビー・コルセアーズにエストニア代表のマイク・コッツァーなど力のある選手が移籍し、既に欧州の選手にとっても日本が魅力的に映っていることがうかがえるが、欧州クラブとの交流が深まれば、Bリーグへの有力選手の流入がさらに加速することもあり得る。
リーグやクラブの事業規模、人気、競技力など、すべての面において「NBAに次いで世界第2位になる」という野心的な目標を掲げているBリーグ。その目標を成就させるためには、現時点で世界第2位との見方が強いユーロリーグは避けては通れない。1945年に創立したパルチザンのように、欧州には歴史が深いクラブも多い。今回の琉球のように現地で交流を深めることは、その国のバスケ文化を学んだり、自らのクラブ自体や本拠地とする地域を世界に知ってもらう意味でメリットは多く、引いてはBリーグ全体の価値向上にもつながっていくはずだ。
<3位決定戦>
デルトナ バスケット 80-71 琉球ゴールデンキングス
<決勝戦>
トラパニ・シャーク 61-89 パルチザン・ベオグラード
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