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「本当に難しい世界だと感じました」…桜花学園のエース・金澤杏が明かした葛藤と仲間への思い

ケガで苦しい1年を過ごした桜花学園のエース・金澤(中央)[写真]=伊藤大允
バスケットボールキング編集部

 12月28日、東京体育館で行われた「SoftBank ウインターカップ2025」女子決勝。大阪薫英女学院が桜花学園を66−61で破り、ウインターカップ初優勝を飾った。4年ぶりの優勝を目指した桜花学園にとって、悔しい敗戦となった。

 試合後、報道陣の前に立ったのは、この日ベンチから声援を送り続けた金澤杏だった。1年次から主力として活躍し、新チームではゲームキャプテンに指名されながら、春の右膝前十字靭帯断裂という大ケガでシーズンの大半を棒に振ったエース。彼女の言葉からは、この1年間の葛藤と、チームメートへの深い感謝、そして未来への強い決意がにじみ出ていた。

 それでも今大会、金澤はコートに立てた。2回戦の柴田学園大学附属柴田学園戦、96-56と大量リードの試合終盤、わずか1分41秒だった。同じくケガからのリハビリを続けていたチームキャプテンの棚倉可奈とともに背番号5をつけてコートに立った瞬間について、金澤はこう振り返る。

「まずは一番に、ずっとコートを離れていたので、本当に試合に出られたことがうれしかったんですけど」

 しかし、その言葉に続いたのは複雑な心境だった。インターハイではベンチ入りすらできず、応援席からチームの優勝を見守った。ウインターカップでは短い時間ながらコートに立てた。それでも、本来なら先発として戦っていたはずの自分——。

「やっぱりどこか悔しい気持ちというのは個人的にあって。ウインターカップで優勝できれば、その思いが全部飛んで、うれしい気持ちに変わるのかなというように個人的には考えるようにしていました」

 チームの勝利が全てを癒してくれると信じていた。だが、その願いは叶わなかった。

ベンチから声を出し続けた金澤[写真]=SoftBank ウインターカップ2025

 下級生から試合に出場し、将来のエースとして経験を積んできた。新チームではゲームキャプテンに指名され、春の全関西大会では京都精華学園を破るなど、順調なスタートを切っていた。そんな矢先に襲った右膝の大ケガ。前十字靭帯断裂という診断は、あまりにも辛い宣告だった。

 昨年のウインターカップ準々決勝、精華女子高校(福岡県)戦、先発出場していた金澤は、自身のターンオーバーでチームを敗戦に導いてしまった。その悔しさを晴らすため、この1年間を過ごしてきたはずだった。

「ウインターカップでの負けはウインターカップでしか取り返せないと思っていました。新チームでゲームキャプテンをやらせてもらって、全関西でも京都精華さんにも勝てて、いい状況だったのに、この一つのケガで、本当にこんな1年になるとは思っていませんでした」

 復帰を目指してリハビリに励んだが、本格的な復帰は叶わなかった。ウインターカップまでに戻ってきて、いつも通りプレーする。そんな目標を持っていたが、そう簡単に回復できるケガではない。

「やっぱり、こういうケガをしてしまうと、本当に難しい世界だと感じました」

 高校バスケットボールは終わった。しかし、この経験を無駄にはしない。

「大学バスケでは、この経験を生かして、ケガをしないで、応援してくださる人に自分のプレーを見せられるように頑張りたいと思います」

 金澤に代わってコートで戦い続けたチームメート、特に濱田ななのと山田桜来は、出られない3年生の思いを背負い、インターハイ優勝を成し遂げた。ウインターカップでも堂々としたプレーを見せた。

「本当に、自分が見えていないところまで棚倉が見てくれて、チームを支えてくれていました。コートに立っている濱田とか山田にも感謝ですし、棚倉とか菅とか、全面でサポートしてくれた3年生に、まずは感謝の気持ちでいっぱいです」

 しかし、同時に後悔の念も消えない。ケガをしなければ、もっとチームに貢献できたかもしれない。

「やっぱりケガをしてしまったのが一番後悔として残っているので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんですけど。でも、この3年間は楽しかったので、『ありがとう』と伝えたいです」

腕に刻んだ決意の「日本一」[写真]=伊藤大允

 まだ万全ではない状態でのベンチ入り。それでも、自分の役割を全うすることができたと金澤は感じている。声を出し、チームメートをサポートする。コートに立つ時間は少なかったが、やるべきことはやった。

「しっかり自分の仕事を全うしたいですし、ベンチに入れなかった子たちもいるので、ベンチにいてよかったなとか、自分が戻ってきてよかったなって思ってもらえるようなことは、できたんじゃないかなというように思います」

 大学進学後、金澤が目標にしているのは、1年生のときに最上級生だった田中こころ(現ENEOSサンフラワーズ)だ。金澤にとって2歳しか先輩ではないのに、すでに日本代表にも選ばれ、女子アジアカップで大活躍も見せた。当時は一緒に自主練習も重ね、同じ大阪出身ということもあり身近な存在だった。

「一番身近で参考にしているのは、やっぱり田中こころさんです。自分が1年生の時の3年生で、ペア練習や自主練も一緒にやっていました。大学では、誰にも止められないようなドライブやシュートを磨いて、1年生から思い切りプレーして、自分らしさを出したいなと思います」

 桜花学園での3年間――最後は優勝で有終の美を飾れなかった。それでも、この経験は決して無駄ではなかったはず。金澤杏の新たな挑戦は、これから始まる。

文=入江美紀雄

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