1時間前

新潟や松下電気でプレーしたグレッグ・ストルトが仕掛ける「アジア大学バスケットボールリーグ(AUBL)」の野望

2000年代に日本でプレーしていたストルト氏[写真]=兼子愼一郎
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 かつて新潟アルビレックスBBや松下電気で活躍し、日本のファンに親しまれたグレッグ・ストルト氏。現在はAsian University Basketbal League(AUBL)のシニアバイスプレジデントを務める彼が創設に関わった、アジア屈指の名門大学が参加する国際大会「AUBL」の目指すものとは。アジアのバスケ界をレベルアップさせようとするストルト氏の情熱とビジョンに迫る。

インタビュー・文=峯嵜俊太郎(バスケットボールキング編集部)
写真=兼子愼一郎 

Asian University Basketball League(AUBL)とは?

アジア大学スポーツ連盟公認のAsian University Basketball League(アジア大学バスケットボールリーグAUBL)は、アジア屈指の名門大学が参加する大学バスケットボールの国際リーグ。2025年8月には中華圏、日本、韓国、モンゴルから12のチームが参加するシングルトーナメントを中国・杭州で初開催。2026年8月に第2回大会を開催後、11月からはホーム&アウェイ方式のフルシーズンに移行する。 第2回大会には、日本を代表して2025年インカレ優勝の白鷗大学と準優勝の早稲田大学が参加する。

■日本でのプレー経験が、人生の方向性を決めた

[写真]=兼子愼一郎


――ご自身は選手時代に日本でプレーされていましたが、当時の日本の印象はいかがでしたか?

グレッグ 私は2002年から2003年にかけて新潟アルビレックスBBで、そして2004年から2005年にかけては松下電気(パナソニックスーパーカンガルース)でプレーしました。チームメート、コーチ、スタッフ、そしてチームを支えてくれたファンの皆さん、関わったすべての人々がとても印象的でした。
 ヨーロッパやGリーグでもプレーしましたが、日本での日々は非常に特別な経験で、引退後の人生に大きく影響を与えてくれました。何より私の妻も日本人ですので、20年以上にわたって日本とのつながりを持ち続けています。

――他の国やリーグと比べて、日本のどういった点に特別なものを感じたのでしょうか?

グレッグ 私がプレーしていた当時、NBAやフランス、スペインといったトップリーグ以外の中堅リーグでは、給与が十分でなかったり、生活環境が整っていないことが少なくありませんでした。そんななか、日本や中国、韓国でプレーしたことのある選手の多くが「アジアに行けるチャンスがあるなら、絶対に行ったほうがいい。経験として最高だし、非常に安定している。チームの運営も素晴らしいし、ファンのサポートも最高だ」と話していたのをよく覚えています。

Dリーグ時代のグレッグ・ストルト氏[写真]=Getty Images

――そしてご自身も来日されて、それを経験したということですね。

グレッグ そうです。ヨーロッパやNBA Dリーグ(現Gリーグ)で数年過ごした後、新潟でプレーする機会を得ました。人から聞いていた通りの、あるいはそれ以上の素晴らしい経験でした。当時の競技レベルはスペインやフランスほど高くはなかったかもしれませんが、それでもチームの運営は素晴らしく、コーチ陣も海外で学び経験を積んだ方々で、チームメートも素晴らしかったのを覚えています。

■「ジェラシーを感じるほど」驚異的な進化を遂げた日本バスケ

――近年のBリーグの発展についてはどのように感じられていますか?

グレッグ 引退後はNBAに入社して働きながら、JBLからNBL、bjリーグ、そして今のBリーグへの変遷を見てきました。今のBリーグは、もし私がどこか他の国でリーグを立ち上げたり運営したりするのであれば、参考にしたいと思うほど素晴らしい。自分が選手としてその一部になれなかったことに、少しジェラシーを感じるほどです(笑)。私がプレーした当時も素晴らしかったですが、今のBリーグの試合やファンの盛り上がりは本当に素晴らしいです。

――今こうしてアジアのお仕事をされていますが、選手としての経験が今に活きていると感じることはありますか?

グレッグ もちろんです。このAUBLでの仕事に関して言えば、立ち上げの際に真っ先に連絡を取ったのは、当時のチームメートやコーチ、そしてNBA時代に関わりのあったBリーグの方々でした。また、実は選手を辞めた後、住友重機械工業で2年間働いていました。選手としての経験だけでなく、そうした日本企業で従業員として働いたユニークな経験が、日本や中国、そしてこの地域で仕事をする上で間違いなく活きています。

■アジアの大学バスケに眠る、未開拓の巨大な可能性

昨年8月に開催された第1回大会「AUBL 2025」の様子

――ではあらためて、AUBLを設立した理由やきっかけを教えてください。

グレッグ 私たちは昨年AUBLをスタートさせました。アジアのバスケットボール界で、プロや女子など様々な分野がある中で、何ができるかを考えたとき、大学バスケに大きな「ギャップ」があることに気づきました。
 フィリピンなどはビジネス面でもバスケットボール面でも非常に成熟していますが、他のほとんどの市場において、大学バスケは人気があるにもかかわらず、あまり注目されていませんでした。韓国から日本、日本から台湾など、各地で親善試合は行われていましたが、組織化されたものはなかったんです。そこで、AUBLを立ち上げようと思いました。

――プロリーグなどと比較して、大学バスケの魅力は何でしょうか?

グレッグ 大学バスケの素晴らしい点は、早稲田大学、北京大学、清華大学といった、確立された有名大学が参加していることです。世界中に多くの卒業生がいるこうした大学が一堂に会して大会に臨む、それがビジョンでした。
 実際、昨年8月の第1回大会で各地から集まったチームの試合を見て、レベルの高さ、バスケットボールとしての面白さ、そしてファンベースの素晴らしさに驚きました。非常に大きなモメンタムが生まれ、これをさらに拡大・成長させていくことがこれからの挑戦です。

――大会をより発展させる具体的なビジョンはあるのでしょうか?

グレッグ 現在は短期間でのトーナメント形式の大会ですが、今後は長期にわたる「リーグ」にしたいと考えています。競技の観点からも試合数が多い方が良いですし、ファンベースの構築やビジネスの観点からも、期間を広げて試合数を増やす方が魅力的です。そこで、今年の11月にはホーム&アウェイ方式のシーズンをスタートさせます。チームが地域内を移動して試合を行う形式です。
 私はNBAで「選手の育成」に多くの時間を費やしてきました。中国の強豪は中国国内で、日本や韓国の選手も国内だけで対戦して「国内で一番」になることはできます。しかし、より大きく、速く、強いチームと対戦しなければ、それ以上のレベルには到達できません。この大会で、若い時期に他国の優れた選手やコーチと常に競い合うことで、間違いなくレベルアップに繋がります。最終的にはBリーグ、CBA、KBLといったすべてのリーグのレベル向上に寄与すると考えています。

■「世界と繋がる架け橋」として、AUBLが果たす役割

[写真]=兼子愼一郎

――日本では大学を早めに辞めてプロになる選手が増えています。AUBLは大学にいながらもハイレベルな経験を積める舞台になるでしょうか?

グレッグ そう思います。早期のプロ挑戦が増えているのはBリーグが成功している証拠でもありますが、すべての選手がプロになる準備ができているわけではありません。大学ではプレータイムをより多く確保でき、コーチからも直接、丁寧な指導を受けられます。準備ができていないままBリーグに行けば、ベンチの端に座ってチャンスを待つだけになってしまうかもしれません。
 また、何を食べるか、どう眠るか、メディアとの接し方、投資、そして家族との向き合い方。20歳の若者にはまだ分からないことがたくさんあります。大学で学び、卒業することは、人生において非常に良い選択肢だと思います。
 そして競技面においては、AUBLが補完的な役割を果たせると思います。トッププレイヤーにとってAUBLでより強い相手と戦うことは、経験だけでなく露出にもなります。他国のスカウトの目に留まったり、マーケティングやビジネスの機会も得られます。AUBLを確立・成長させていくことで、大学に残るかどうかの判断材料の一つになればと考えています。

――実際、第1回大会参加者からはどのような反応がありましたか?

グレッグ 日本の例で言えば、白鷗大学の網野友雄監督は非常にポジティブなフィードバックをくれました。彼らは昨年の8月にフルメンバーで大会に参加しましたが、アジアのチームとの対戦はインカレへの良い準備になったそうです。その他の国のチームからも「期待以上の大会だった」といった感想をいただきました。
 また、大会を通して参加チーム間に「ライバル意識」も芽生え始めていました。1年半前は全く繋がりのなかったチーム同士が、今では「次は絶対あのチームと対戦したい」「次は勝ちたい」と言い合っています。こうした熱量を生み出すことは、私たちの目標でもありました。この関係性をファンの皆さんにも共有し、大会にもっと興味を持っていただければと思っています。

――今年の第2回大会で、前回と比べてアップデートした部分はありますか。

グレッグ 最も大きな違いは、2つの新しい国、オーストラリアとフィリピンの大学が加わることです。異なるスタイルのバスケットボール、新しいレベルの競争が加わることで、選手はもちろん、ファンの皆さんもより素晴らしい経験ができるのではないかと思います。

――第1回、第2回と続けての中国開催ですが、ご自身は中国の大学バスケの盛り上がりをどう見ていますか?

グレッグ 中国でのバスケットボール人気は凄まじいです。私はこれまで14年中国に携わってきましたが、どこに行っても熱狂的なファンがいます。大学バスケにおいては、2015年にCBAにドラフト制度が導入されたことが、大きな転換点になりました。
 それ以前は、15歳くらいでプロのユースに入るか、普通の学業を続けるかの二択しかありませんでしたが、ドラフトによって「大学を経てプロになる」という選択肢ができました。これにより、北京大学のような有名大学でプレーする価値が上がり、大学バスケのレベルと人気が飛躍的に向上しました。
 とはいえ、フィリピン以外の地域では、大学バスケの露出はまだ十分ではありません。AUBLとして各国内リーグと協力して、スポンサーやメディアを巻き込み、露出を増やしていければと思っています。

――AUBLを通じて選手たちにどのようなことを学んでほしいですか?

グレッグ 私自身の経験に重なりますが、フロリダ大学を卒業した当時、フロリダが世界の中心だと思っていました。でも、マイアミやオーランドのチームでプレーできるほど上手くはなかった。唯一の選択肢はアメリカの外に出ることでした。
 そこで学んだのが、海外に行き、人々に会い、異なる文化を学び、人間関係を築くことの重要性です。20年前に日本で築いた関係が今も活きているように。若い時期に居心地の良い場所を抜け出し、世界と繋がること。私は23歳でそれをしましたが、20歳の時にやっておけばよかったと思っています。
 バスケットボールの世界は非常に狭いです。AUBLでの経験は、ネットワーキングの面で選手たちに大きな一歩を与えます。対戦した相手の連絡先を交換し、10年後に一緒にビジネスをするかもしれない。あるいは日本に来るときに質問できる相手がいるかもしれない。
 Bリーグの外国人選手やCBAの選手たちも、こうした機会を最大限に利用してネットワークを広げ、その後の人生に役立てています。競技面だけでなく、選手たちにはAUBLをそうした機会として活用してくれるとうれしいです。

―― ファンの方々にはどのようなところに注目してほしいですか?

グレッグ まずは、選手の努力と高いレベルの競争です。Bリーグのような激しい戦いが、私たちのすべての試合で見られるはずです。次に「距離感」です。BリーグやNBAのスター選手とは距離がありますが、AUBLでは選手やチームとの距離が非常に近いです。舞台裏のコンテンツ、試合後の写真撮影など、ファンが選手と直接触れ合える機会を最大限に提供したいと考えています。
 そして最後に、大学バスケならではの情熱です。プロが最高峰ですが、大学生という非常にモチベーションの高い世代が、大学の名誉を背負い、初めて出会う他国の選手と戦う姿。そこには他のレベルでは見られない特別な情熱と興奮があります。ぜひそこを楽しんでください。

[写真]=兼子愼一郎

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