2023.06.02
激しい肉弾戦の中で元から痛めていた右脚をさらに痛めた。直後は苦悶の表情を浮かべていたから、痛みは相当なものだったはずだ。試合中はそれでもプレーを続けたが、終了後、体内から出ていたアドレナリンは引き、緊張の糸も切れたのではないか。
ジャック・クーリーなど、琉球ゴールデンキングスの面々と健闘を称え合うと、横浜ビー・コルセアーズのエース、河村勇輝の顏には涙が溢れ、脚はもう痛みに耐えられなくなったようで、他の選手たちよりも先にバックステージへと消えていった。
数十分後に行われた記者会見。河村の表情は平静なものに戻っていたが、脚を引きずって会場に入ってきた。そんな彼の口から出てくるのは、チームをファイナルに導くことができなかった、勝たせることができなかった自責の言葉が多かった。
「今シーズン、チャンピオンシップ進出(という目標)をチームとして掲げて。でも出たからには日本一にならないといけない使命があると思うし、チームメートも日本一になりたいっていう気持ちで今シリーズに臨んでいたので、2連敗で負けてしまってそれができなかったのはすごく悔しいです」
4月の頭にその脚を痛め、同下旬に復帰も再度、その箇所を痛めた。結果、CSクォーターファイナルの川崎ブレイブサンダース戦ではベンチからの出場となり、出場時間を抑えながらプレーせざるをえなかった。それでも、普段とは異なるプレースタイルを用いつつ、チームの連勝とセミファイナル進出に貢献した。
だが、脚の故障で100パーセントの力を出せない河村を、琉球は容赦してくれなかった。変わらず彼が鍵を握る選手で、乗せるとチームが活気づくため、遥かに背が高くかつ運動能力の高いコー・フリッピンをマッチアップさせることなどで、封じにかかってきた。
琉球はまた、故障でリングへのアタックが十全にできずピックアンドロールから、左へドリブルするときにはプルアップのジャンプシュートが増えているといった傾向を、川崎戦を見て対策していた。
そんな琉球の自身に対するスカウティングを知ってか、知らずか、第2戦では左からもドライブインでリングをアタックしてきた。
「今日、出場時間に制限がある中でも試合に出させてもらって、ドライブをしないとなかなか打開できないというのが昨日の試合でもあったので、一つの選択肢としてドライブもやっていこうという気持ちで試合に臨みました」
2戦目で前日からドライブが増えた理由について、河村はそのように答えた。脚のことがあるとはいえ、河村の中へ切り込む力はチームが抜きん出ている。それを実行することで、相手からのファールを誘発したり、ディフェンダーを引き付けることでキックアウトパスからオープンな選手にシュートをさせるという、横浜BCが勝つための最善の攻撃の形を出していこうとしたということだ。
今シーズン、B1で最大の躍進を果たしたと言えるチームをけん引したのが、前からもっていた天性のアシスト能力に加えて得点力でも急成長を果たした22歳のPGだった。ポストシーズンの前には、大事な場面では自分がシュートを決めるなどチームを勝利に導きたいと述べ、エースとしての覚悟を示している。
だが、昨年のファイナルで破れ捲土重来を強い意思で目指す琉球の強固なディフェンスと自身への包囲網の前に、河村は屈することとなった。琉球とのSF2試合での平均出場時間はシーズンのそれから約6分減り、同平均得点は19.5点から13.5点へ、B1トップとなった8.5アシストは5.5へと減った。
「最後の最後までボールを預けてくれたチームメートや戦術を考えてくださったコーチングスタッフの方々の期待にこたえられなかったということは、やはり僕の力不足でもあり、本当に申し訳ない気持ちが大きいです」
昨年春に大学を中退し、今年、本格的なプロデビューを果たした男は、責任を背負うそんな言葉を口にした。故障についての言い訳は一切しない。むしろ「こういった大事な試合にベストコンディションに持ってこられなかった自分の詰めの甘さと実力のなさというのにはすごく悔しさを感じています」と、そこにおいても自らを責めた。
ただ、今シーズンは彼のバスケットボール人生の中でも最もきらびやかな光を放つ、重要な1年となった。同時に、高校や大学でと同様、プロレベルでも一握りの選ばれし類に数えられる力量を持った選手なのだと広く知らしめた1年にもなった。
自身が大きく成長する中でチームが初めてのCS出場を果たしたこの1年を「わくわくしたシーズンだった」と肯定的に振り返ったのには、こちらも安堵させられる。
故障を治すのが先決なのは言うまでもないが、シーズンが終わっても河村に休む間はなく、今夏のFIBAワールドカップへ向けて調子を上げていかねばならない。
45得点を上げながら琉球に破れた2月の天皇杯準決勝や今回のCSと、沖縄アリーナでは敗者として会場を後にしている河村。ワールドカップでは「胸を張って、勝って、気持ちの良い中でこのアリーナを去りたい」と先を見据えた。
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