2020.12.24

「能代工業」としてのラストゲーム。1回戦屈指の好カードは最後まで走り切った九州学院が逆転勝利!

ゲームの終盤、九州学院が能代工業のお株を奪う激しいディフェンスから逆転に成功 [写真提供]=日本バスケットボール協会
スポーツライター

 試合の大半で主導権を握っていた能代工業高校(秋田)が九州学院高校(熊本)のプレスディフェンスと走力に飲み込まれ、72-77で逆転負けを喫した。

 今年は勝負の年を迎えていた能代工業。来年より能代西高校との統合・校名変更により、『能代工』として挑む最後の大会だったこともあるが、何より「今年は個性的な選手が多く楽しみな年」と小野秀二コーチが新チーム結成時から手応えを感じていた代だったからだ。

 実際に2月の東北新人戦では決勝で仙台大附属明成高校(宮城)に肉薄。能代工業といえば伝統のゾーンプレスというイメージがあるが、小野コーチが就任してからの4年間は伝統の走りはそのままにピック&ロールからの展開を織り交ぜ、どこからでも得点が取れるチームを目指していた。シュート力があるキャプテンの中山玄己、視野の広さとスピードがあるポイントガードの大石隼、アウトサイドシュートが得意の佐々木駿汰、パワフルな上村大佐、堅実なゴール下で粘る森山陽向ら3年生に加え、2年生生ガードの高橋裕心など様々なタイプが揃い、3位になった2015年以来となるウインターカップでの上位進出を狙っていた。

能代工業はシュート力があるキャプテンの中山玄己を中心に上位進出を目指していた [写真提供]=日本バスケットボール協会


 ただ、対する九州学院もウインターカップで2年連続ベスト16と地力をつけてきたチーム。「チームプレーで戦い、ディフェンスもオフェンスも面白いバスケで旋風を巻き起こす」と田中洋平コーチが目標を語っていたように、自分たちのやるべきことを最後まで見失わなかったのだ。

 出足は能代工業が上村のリバウンドと中山の好確率の3ポイントシュートで流れをつかみ、開始3分半で16-2と上々の滑り出し。第2クォーターに入ると九州学院がエース中野友都の得点、跳躍力がある野美山翔馬や堤玲太(いずれも3年)の奮闘で迫るが、能代工業は上村が3連続ゴールを決めて前半を11点リードで折り返す。

 流れが動き出したのは第3クォーターに入ってから。九州学院がプレッシャーを強めて反撃開始すると能代工業はガード陣が立て続けにミスを犯し、何度も僅差に詰め寄られる。しかし、それでも勝負所の3ポイントで凌ぎ、能代工業が12点リードして最終クォーターを迎える。だが九州学院はあきらめていない。田中コーチの言う「面白いバスケ」はここからが本番だった。

 九州学院はオールコートプレスをかけ続け、ハーフコートになれば効果的にゾーンディフェンスで能代工を苦しめ、オフェンスリバウンドを支配。攻めてはエース中野が「(福岡大学附属)大濠や報徳(学園)と練習試合をしても通用していた」と自信を持っていたドライブやピックを使った攻めを中心に第4クォーター開始から13-0のランで一気に加点。

九州学院のエース中野友都は両チーム最多の38得点を挙げる活躍 [写真提供]=日本バスケットボール協会


 残り5分に九州学院が69-67で逆転すると、接戦になりながらも最後まで走り切って突き放し、77-72で熱戦に終止符を打った。第4クォーターのスコアは25-8。能代工業はトータルリバウンドで45-29本と上回りながらも、18本もスティールされ、ターンオーバーは相手の7に対して25と終盤の消極的な姿勢が致命傷となった。

 九州学院が見せたプレスディフェンスと終盤の猛攻は、まるでかつての能代工業を見ているかのような躍動感があり、能代工業のお株を奪う粘り強さで2回戦へと駒を進めた。
 
 能代工業の小野コーチは「今年の3年生は個の能力が高く、シュートがうまい選手が揃った代でしたが、いいときとダメな時の差が大きく、ダメなときは個に走ってしまう傾向がありました。秋田県予選でもそうだったのですが、すごい力も発揮するけれど、後半にスローダウンしてしまうところがあり、そこを改善することができませんでした。大会前には能代工業の名前が変わるという注目が大きくなり、もしかすると選手たちは目に見えないプレッシャーを持ちながらプレーしていたのかもしれません……」と敗因を語る。

 司令塔の大石は「もう一度、強い能代工業を復活させるつもりでこの1年やってきましたが、負けてしまい本当に悔しいです。相手のゾーンは対策していたのですが、プレッシャーに煽られて気持ちで逃げてしまい、弱気になったのがいけなかった」と肩を落としながらも、「来年に学校名が変わっても能代工業のプレースタイルは変わりません。(高橋)裕心を中心に今年よりもレベルアップして走って勝ってほしい」と後輩に託した。

 3年生からエールを受けた2年生ガードの高橋は「能代科学技術に名前が変わっても、これまでの先輩たちが築いてくれた能代工のカラーは変えず、能代工らしいと思ってもらえるように、激しいディフェンスから走るバスケをコートで出して、来年もまたこのウインターカップの舞台に戻ってきます」と伝統を受け継ぐことを誓い、東京体育館をあとにした。

文=小永吉陽子

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