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今大会の明成は、3回戦からはすべてが決勝カードといっても過言ではないほどの激戦区を勝ち上がってきた。しかも留学生を擁するチームとの連戦だったため、守備範囲が広いチェンジングのゾーンを準備し、驚異の粘りで相手をロースコアに封じ込めてきた。
ただ、大会を通してはオフェンスがうまくいかない時間帯のほうが多かった。優勝会見にて佐藤久夫コーチは、「今大会の4試合で自分たちのバスケができたのは決勝のラスト5分間。もうちょっと(自分たちのバスケを)やってほしかったというのがあります。ただ、ゲームというのは相手がいるもので終わってみなければわからないもの。最後は自分とチームを信じて開き直ることができました」と語っている。
最後には開き直れたということは、言い換えれば、思いきりやれない時間帯が長かったということでもある。このスッキリしない試合内容は、留学生チームにベスト8で敗れた過去2年間の課題でもあったのだ。
彼らのゴールがウインターカップならば、メインとなる選手を絞ってチーム作りを早く進めることもできただろう。だがコンバート組を含め、選手たちのゴールは高校ではなく、その先にある。この2年間、明成がなかなか浮上できなかったのは、そうしたサイズのある選手たちの育成に時間を要していたことも理由にあり、その点はウインターカップ中も続行中だった。
そんな中、大会目前に主力の得点源である2人の選手が負傷に見舞われてしまう。11月にはガードの菅野ブルース(197センチ/2年)が膝を痛め、12月にはフォワードの加藤陸(192センチ/3年)が右手の人差し指を骨折するアクシデント。本人もチームもウインターカップの舞台に立てないショックは計り知れず、選手起用のプランも変えなければならなかった。
こうしたアクシデントがあっても大会を乗り切ることができたのは、まさしく多くの選手を競わせて選手層を厚くしてきたからこそ。そして、チームメイトたちは「加藤とブルースの分も」と一層の団結をして大会に臨むことになったのだ。
ウインターカップに臨む明成のテーマは「もう一つ上の自分になろう」だった。過去2年間、メインコートで自分たちのバスケを表現できなかった悔しさから、3年生たちは「失敗してもいいから思いきり、スッキリやろう」を合言葉にして大会に臨んだ。試合内容を見ればわかる通り、選手たちは時折消極的な部分を見せながらも、最後には自分たちがやってきた粘りのディフェンスを信じて遂行し、勝利をもぎ取って毎日成長していった。
東山高校(京都)との決勝、3クォーター残り1分42秒、最大17点ビハインドの場面でこれまでまったく当たりのこなかった山内ジャヘル琉人の3ポイントがようやく当たり、ディフェンスをフルコートにする。ここで山内は両腕に筋肉の力こぶを作る『マッスルポーズ』(ダブルガッツポーズ)をして「ヤーッ!」と大声を張り上げた。ベンチでは佐藤コーチも同じポーズで選手を鼓舞している。選手たちが弱気な自分と決別し、壁を乗り越えた瞬間だった。
「どんどん打っていいぞ!」「もっと積極的に行け!」
指揮官の攻め気の言葉に体がどんどん前に動いていく。いちばん苦しい残り5分にディフェンスのプレッシャーをさらに強めて走ったとき、選手たちは殻を破り、「もうひとつ上の自分」に到達することができた。そして試合終了のブザーが鳴った。72-70だった。
優勝インタビューで2年生たちは「3年生」という言葉を何度も口にしていた。
「自分がダメな時に3年生が何回も声をかけてくれて、久夫先生以上に自分に厳しく接してくれて、そんな3年生がいたからこの優勝があると思います」(山﨑一渉)
「苦しいところで助けてくれたのはやっぱり3年生。自分が強くなれたのは久夫先生が教えてくれたのもあるけど、3年生がいつも怒ったり、励ましてくれたからです」(山崎紀人)
今年は新型コロナウイルスの影響で練習も試合も思うようにできず、我慢することばかりだった。そんな中で崩れることなくチームを引っ張り、試合では自分自身を表現して殻を破った3年生たち。「もうひとつ上の自分」へとチャレンジする姿勢が下級生に伝わったからこそ、チームが信じあって日本一になることができたのだ。