Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
「本当に思う通りにいかないゲームだったのですが、選手がよく頑張ってくれて、最後は勝ち切ることができました」
「令和3年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の男子決勝、54-37で帝京長岡高校(新潟県)を下して勝利を収めた中部大学第一高校(愛知県)の常田健コーチは試合をこう振り返った。
インターハイ初優勝の懸かった“最後の一戦”は産みの苦しみを味わった。
「帝京長岡さんのペースにどっぷりハマって、前半は自分たちの思い通りにいかないことのストレスが多かった状況でした」と常田コーチが振り返るように、オフェンスで強みを上手く出せず。速い展開から畳みかける攻撃が鳴りを潜めてしまう。
それでも、「前半は、幸いにもマンツーマンとゾーンを上手く変えながらのディフェンスが機能していたので、後半はオフェンスで上手くいっていなかったことを解消できればチャンスはあると思っていました」(常田コーチ)と、作り込んできたディフェンスで帝京長岡の独走は許さず。本来のプレーとはいかないながらも前半を1点リードで終えた。
すると後半、インサイドで強さを発揮する田中流嘉洲(3年)のリング下のシュートが決まると、シューターの坂本康成(2年)の3ポイントシュートが続き、さらにはアブドゥレイ トラオレ(3年)の2連続シュートも決まって一気に10点差を付ける。
その後、追いかける帝京長岡に対して「10点リードできたことで少し落ち着きが出始めた」(常田コーチ)ことや、走り込んできたというスタミナは後半も落ちなかったことで、最後までこれを守り切り、全国初優勝を遂げた。
今大会は無観客試合だったこともあり、コーチや選手の発する声は静かな体育館にいつも以上に響いた。そこで良く常田コーチから聞かれた言葉が「内容にこだわって」。この理由を常田コーチは試合後、以下のように明かした。
「インターハイは『全国大会の新人戦』。全国の強豪校はこれで終わらないですし、この優勝は大きいことですが、どうインターハイを勝ち上がっていくかが今後のウィンターカップにつながると思っています」
さらにこう続ける。「上手くいかないときに、それをどうやってコントロールして自分たちのやりたいバスケットにつなげていくかという(課題を)クリアにしていかないと。個で優勝しても次のウインターカップでは一回戦で負ける要素が十分にあります」
夏を戦いながらも、指揮官はしっかりと冬も見据えていたのだ。常田コーチは、アンダーカテゴリーのチームにもスタッフとして携わっており、今回、「FIBA U19 ワールドカップ 2021」に出場してインターハイには途中合流となった仙台大学附属明成高校(宮城県)、福岡大学附属大濠高校(福岡県)の選手たちに対して「彼らは本当に大変な中この大会に臨みました。本来の彼らの力は出せずじまいで終わりましたが、日本のバスケットのために一生懸命頑張ってきてくれた彼らがこのまま終わるわけはないと思ってます」と労った。
大会前、組み合わせを見た同校の西村彩アシスタントコーチが「(2018年・愛知県開催の)インターハイと一緒ですね」と言ったという。
「あ、そうだなと。(トーナメントを戦う上で)いくつか山があるのですが、そのターニングポイントが全部同じだったので、決勝は東海インターハイのリベンジを考えたら、このシナリオで勝たないかぎりは次がないなという思いで私自身は戦いました」と常田コーチは言う。
3年前の地元・愛知で行われたインターハイでは、優勝候補の一角として決勝まで勝ち上がり、地元優勝に大きな期待が集まった。だが、決勝では開志国際高校(新潟県)の前に敗退。あと一歩で日本一の夢は断たれた。
それ以来となったインターハイの決勝で、見事リベンジを達成した中部大第一。常田コーチ自身も初めての全国優勝となったが、その感想を聞かれ「能代工業高校(秋田県/現・能代科学技術)の加藤廣志先生に生前、『君でも優勝できるんだよ』と言ってもらったことがあったのですが、そのときは全然ピンとこなかったんです。(仙台大学附属明成高校/宮城県の)佐藤久夫先生にも『まず指導者がその気にならないと。自分でもできるという考えを指導者が持っていないといけない』と背中を押してもらった経験があります」と、名将たちとのエピソードを語った。
これまでも優勝に近づいたことは何度もあった。そこでの経験、悔しさを糧につかんだ優勝。表彰式後、記念撮影を終えると、3年生たちが常田コーチに声をかけた。留学生ら大きな選手たちが中心となる輪の中に入った常田コーチは、新潟の地で宙を舞った。
写真=伊藤 大允
取材・文=田島早苗