2022.03.28

「最初で最後かもしれないから」 元日本代表・吉田亜沙美が見た恩塚JAPAN…そしてW杯に臨む後輩への想い

長年にわたって日本代表をけん引してきた吉田氏[写真]=田島早苗
中学や高校、大学などの学生バスケットをはじめ、トップリーグや日本代表と様々なカテゴリーをカバー。現場の“熱”を伝えるべく活動中。

2月10日〜13日に行われた「FIBA女子バスケットボールワールドカップ2022 予選」。インターネット中継で女子日本代表の2試合を解説した吉田亜沙美は、その試合をどのように見たのか。元日本代表の司令塔が感じた恩塚JAPANの特長や課題とは。

インタビュー・文=田島早苗

「すぐにはうまくいかないし、うまくいかない方が成長できる」

ワールドカップ予選を突破した女子日本代表[写真]=伊藤 大允


――まず初めに、女子日本代表のカナダ戦とボスニア・ヘルツェゴビナ戦を見た感想をお聞かせください。
吉田 一番印象的だったのは、選手たちが楽しそうにプレーしているところでした。『やらなきゃ』というよりは『チャレンジする』ことを楽しんでいて、すごくいい顔をしてバスケットしていることが印象に残りました。

――とはいえ、日本代表は結果も求められます。楽しみながらも勝つことの難しさもあるのではないでしょうか。
吉田 ちゃんとメリハリを付けてやっていることは感じました。私が(日本代表で)プレーしていたときも、練習は本当に一生懸命やるし、厳しい練習のなかで互いをリスペクトし、刺激し合っていました。そういった練習のなかに楽しさがあると思うので、そこに関しては、今回見ていても、『ただ楽しくやっていればOK』といったスタンスではなかったと感じています。若さやフレッシュさがあり、(加えて選手からは)日の丸を背負う使命感を持って、『自分がやるんだ』という気持ちが見えた2試合でした。心配や不安もなく、期待だけが残りましたね。

――心強い言葉です。吉田さんから見る恩塚JAPANの強みとは?
吉田 交代の選手が、出てすぐに自分のプレーをできることは新しい強さだと思います。相手にとっては、疲れてきたところで新しい選手が元気いっぱいにプレーしたら、やりづらいはず。日本のベンチワークは強さになるのではないでしょうか。ただ、最後の勝ち切り方は課題かなと。とはいえ、若い選手たちが早い段階で国際大会を経験できたことは素晴らしいと思います。

――プレー面での特長というと?
吉田 フルコートのディフェンスで相手を嫌にさせる。プレー的にも精神的にも、前から当たられることはすごくストレスなので、東京オリンピックやそれ以前からもそういったスタイルではありましたが、改めてそれができることは日本の武器だと思います。プラスして、3ポイントシュートの確率が高くなっているのは魅力的ですね。反面、インサイドの得点が少ないとも感じました。『ディフェンスからブレイク+3ポイントシュート』は日本の強さになっているので、あとはインサイドのプレー、2ポイントシュートのプレーが必要だと感じます。

――日本には渡嘉敷来夢(ENEOSサンフラワーズ)や髙田真希選手(デンソーアイリス)といった安定したインサイドプレーヤーがいるからこそ、効果的に使いたいですね。
吉田 そうですね。ボスニア・ヘルツェゴビナは、ボールをインサイドに入れてディフェンスを収縮させ、そこからキックアウトでカウンターの1対1というプレーがすごく効いていました。日本もそれはできるし、インサイドでボールを持ったときに(相手ディフェンスが)トラップには来ないにしても、ボックスの外からもらってドライブというのはできると思います。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦の後半は、パスを外で回して3ポイントシュートを打つのみとなり失速してしまったので、そういったときに誰かがドライブで切っていくことが必要だと感じました。

――ディフェンスなども課題が残りました。
吉田 新ヘッドコーチの体制になって日も浅いですし、そういったプレーは(日々の)積み重ねもあります。あとは試合のなかで選手たちが、恩塚(亨)ヘッドコーチが言っている『アジリティーを高く』して適応していくこと。『今何が必要で、何ができていないか』という判断が、若いチームだからこそ、これからの大事だと思います。

――課題が見えたことは良かったことでもありますね。
吉田 新しく体制が変わって、そんなすぐにはうまくいかないし、うまくいかない方が成長できる。最初からうまくいったらつまらないし、課題が見えた方がやりがいもあると思います。選手たちも課題が分かったと思うので、これから恩塚ヘッドコーチのバスケットをさらにインプットして、ヘッドコーチの思い描いてるバスケットを超えるようなチームになったら本当に面白いチームになると思います。

「合宿から一日一日を大事にして」 OGからW杯に臨む後輩たちへエール

2006年のアジア競技大会で大神と抱擁する吉田。吉田は10代の頃から日本代表として国際大会を経験してきた[写真]=Getty Images


――これで今年のワールドカップ出場権を獲得ですが、ワールドカップでいうと、吉田さんは12年前の2010年(当時は女子世界選手権)に22歳で出場しています。
吉田 記憶は…あまり。ただ、シンさん(大神雄子/トヨタ自動車アンテロープスアシスタントコーチ)がアルゼンチン戦でブザービーターを決めて勝ったことは覚えていて、シュートが決まった瞬間、カウントかノーカウントかザワついて。みんなは喜んでいたけれど、私は心配していました。

 あとは(トップチームの)日本代表として世界と戦ったのが初めてで、私と世界のポイントガードとの差は何かを考えたときに『得点力が足りない』と感じた大会でもありました。ポイントガードがポイントゲッターというような国もあったので、『シュート力をつけないといけない』と思い、(その後は)ピックを使ってのジャンパーなどをひたすら練習した気がします。若いときにそれを経験できて良かったと思っているので、さっきも言ったように、若い選手が早いうちに世界を経験できることは大きな財産だと思います。

――2010年大会ではアシスト王に輝きました。
吉田 なんかそれも、別に表彰式とかなかったじゃないですか。だから「アシスト王って言われても…」って(笑)。試合に出ている時間が長いから、「当たり前だし、ガードだし」と、特別うれしいという思いはなかったです。

――9月のワールドカップに出場する日本代表にエールをお願いします。
吉田 いろんなことにチャレンジしてほしいですね。日本代表は、数いる選手のなかからピックアップされた選手たちと一緒にできる場なので、合宿から遠慮せずにチャレンジしてほしい。世界大会に出るならなおさらで、「どうせ私は」などと思っている時間がもったいない。もしかしたら最初で最後かもしれないですから。

――吉田さんも実際、2014、2018年大会ではケガなどで不出場でした。
吉田 ワールドカップやオリンピックは予選で負けることもあるし、ケガで出られないこともあるので、合宿から一日一日を大事にして後悔のないように。それと、アメリカやヨーロッパなど、いろんな大陸の国のバスケットを知るチャンス。良いものは盗んでほしいです。

 

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