2022.04.19
昨春から今春にかけて、東京医療保険大学女子バスケットボール部のアシスタントコーチを務めた吉田亜沙美。同大学のヘッドコーチで、現在は女子日本代表のヘッドコーチも務める恩塚亨氏とは、約1年間、大学というカテゴリーでともに戦ってきた。また、遡れば、吉田の選手時代には、日本代表のスタッフとしてともに戦ってきた仲でもある。現・女子日本代表の指揮官をさまざまな立場で見て、『恩さん』と親しみを込めて呼ぶ吉田に聞いた『恩塚ヘッドコーチってどんな人?』とは。
インタビュー・文=田島早苗
――指導者としての恩塚亨ヘッドコーチはどのような方でしょうか?
吉田 頭の中に選択肢がいっぱいあって、『今こう来たからこうしよう』『このオフェンスは通用しなかったからこっちに変えよう』というチャンネルの切り替えが早いですね。
“天才”って恩さんのことを言うんだろうなと思うのですが、でも、それだけいろんな勉強したり、試合を見たりしているからなんですよね。それと選手想いですね。接していると「あ〜、選手のこと好きなんだなぁ」と感じます。
――吉田さんは、15年前のU20女子アジア選手権のときから一緒に日本代表として戦っていますよね。
吉田 はい。あのときは実費で大会に来ていました。当時は試合のビデオを撮って編集してくれる人はいなくて、大会が終わった後だったかな、私のプレーを編集したDVDを作ってもいいか?と声をかけてくれたんです。私にしたらうれしいことなのに、私が嫌な思いをしないように確認を取ったところに紳士的なイメージを持ちましたね。
――昔と比較して、変わった点や逆に変わっていない点などはありますか?
吉田 変わらないのは、バスケットが大好きだということ。それと学んでいく姿勢、挑戦していくことは変わってないと思います。変わったことは…私のなかではないですね。大学では1年しか一緒にやっていないけれど、コーチとしては何も変わっていないと思います。
――日本代表と大学とで指導の方法を変えていると感じますか?
吉田 大きくは変わっていないです。大学でも求めるものは高く、大学生だから(求めるレベルを)下げるという感覚ははないと思います。(初めて大学の練習に参加したときに)『これ、大学生の練習なんだ!』と驚くぐらいでした。
日本代表の選手たちは、システム的にもひと工夫あるスタイルになったので、それを自分のなかに落とし込むのはちょっと時間がかかるかなとは思います。でも、日本代表選手だから適応も早いと思うし、ちゃんと理解できればそこまで難しいことではないと思います。
――以前、吉田さんは恩塚ヘッドコーチは言葉を選んで発していると言っていました。
吉田 はい。まず、わかりやすい。一番はそれですね。すごく言葉を大切にしているから、使い方だったり、言い方も考えています。言葉を整理してから伝えているので、気を使っていると思いますよ。そこは、私がコーチとして続けていく上では学ぶべきことであり、大事なこと。私がプレーヤーのときも練習を見てもらう機会がありましたが、そのときもイメージしやすい、スッと頭に入ってくる説明でした。
――恩塚ヘッドコーチの掲げる『世界一のアジリティー』に関してはどのように感じていますか?
吉田 すごくよく分かります。だって、指導者に言われなくても、選手が分かっていたら、選手で解決できる。(コート上で)プレーしているのは選手なので、選手が解決する方が早いわけです。それに、コーチが外から見ていて、『こうした方がいいな』と思っていても、実際にプレーしている選手たちは、『それはやりにくい』と思っていることもある。それは私もプレーヤーのときに感じたことがあるので、コートのなかで「今こうなってるから、こうしよう」と選手同士で解決できることはチームにとってはいいことだし、選手の力にもなると思います。
時代なのかもしれないけど、今はあまり泥臭くプレーしなくなったというか、スマートにバスケットするようになってきました。でも、アジリティーの部分は、時代とは関係ない。選手は肌で感じたものを頭で整理し、みんなでコミュニケーションを取って解決することが勝ちにつながると思います。1から10まで言われてやるよりは、1から10まで自分で考えてプレーした方が絶対に身に付くものは大きいですから。
ーー恩塚ヘッドコーチは「ワクワクがあふれるバスケット界に」とも語っています。この『ワクワクマインド』に関しては?
吉田 ネガティブな考えの選手は結構いると思うんです。ただ、ポジティブな人もネガティブな面があるし、ネガティブな人もポジティブになれる瞬間はあると思うので、義務感というよりは、使命感を持ってワクワクした気持ちで臨んだ方が楽しいと思います。
今回、女子日本代表が、あれだけいい顔をして、みんなが楽しそうにやってる姿を見たら、こっちも楽しかったし、うれしかった。それは、小中学生など、若い選手たちにもいいメッセージになると思います。怒られてやるより褒められた方が、今の選手たちは受け入れやすくなっている。選手に『できるんだ』という思いを与えること、選手のエネルギーを満たしてやる気にさせることの方が、(選手とコーチが)お互いに良い関係になるのではないかなと思います。
――最後にコート外での恩塚ヘッドコーチの意外な一面も教えてください。
吉田 すごく面白いですよ。冗談も言うし、ちょっとシャイな一面はあるので、こんなこと言っていいか分からないですが、見ていて『かわいいな』と思う瞬間もあります(笑)。
本当は人前に出て話すのが苦手なタイプだと思うのですが、プレゼンしている姿を見ると、全国の人に伝えたい気持ちが勝るからやっているんだなと思いますね。同じ人見知りとしてリスペクトでしかないです。
あとは、美味しいお店をすごく知っている。ご飯に連れてもらったお店が全部美味しかった。ハズレがないし、パン屋さんに詳しい。そこはちょっと意外な一面でした。
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