
2025.06.06
7月開催予定の「FIBA女子アジアカップ2025」に向けて女子日本代表が本格的に始動した。
今年から新たにチームの指揮を執るのはコーリー・ゲインズヘッドコーチ。2月までは男子日本代表のアソシエイトヘッドコーチを務めていて、過去には女子の世界最高峰リーグであるWNBA(アメリカ)のフェニックス・マーキュリーの指揮官として優勝を経験するなど実績のある指揮官だ。
自身の初陣となる三井不動産カップではどのような試合を見せてくれるのか? 男女問わず世界のバスケットボールに精通する新ヘッドコーチに女子日本代表への思いを聞いた。
インタビュー・文=田島早苗
写真=野口岳彦
――祖母が日本人で『YASUTO』というミドルネームもお持ちですが、改めて女子日本代表のヘッドコーチを引き受けた理由を教えてください。
ゲインズ かつて高橋雅弘さん(日本バスケットボール協会副会長、WJBL専務理事)から日本の女子のの強化を手伝ってくれないかと連絡を受けたことがありました。2009年のことです。当時、私はWNBAのフェニックス・マーキュリーのヘッドコーチを務めていたので日本に行くことは難しかった。そこで日本からフェニックスに来てもらうことを提案し、フェニックスで一緒に練習しました。フェニックスのチームはWNBAのチャンピオンチームでしたし、ダイアナ・タウラシ(元アメリカ代表)やペニー・テイラー(元オーストラリア代表)ら世界のトップ選手たちが在籍していました。そうした最高の選手たちから日本の選手たちが学ぶことができる環境だったので、これは一つ成果があったと思っています。そういったことからも、女子日本代表ヘッドコーチ就任ということだけでなく、私にとって日本のバスケットボールに関わらせていただくことはとても光栄なことです。
――WNBAではアシスタントコーチとヘッドコーチとで合わせて2度優勝。この経験は今回の日本代表でも生きてきますか?
ゲインズ WNBAでの私の歴史は、間違いなくフェニックスというチームに行ったことです。フェニックスはそれまで一度も勝ったことがなかった中、私たちは1番にプレーのスタイルを変えました。そのスタイルは速いペース、時間を掛けずに3ポイントシュートを放つことなどでした。それまでの女子のバスケットボールは、ほとんどがパス、パス、パス。時間を使いながらのオフェンスで、ショットクロックの秒数が減ってからシュートといったことが多くありました。それを私たちは変えました。5秒以内、時には3秒以内でのシュートを打つようにしたのです。
ただ、(開幕から)最初の7試合はひどい負け方で、周囲は私たちに対してうまくいかないのではないかと疑ってました。女性であのスタイルはできない、前例がないとも言われました。けれども、その我慢の時期を乗り越えて優勝をすることができました。
もちろん、新しいスタイルに変えて定着させることは時間がかかります。そうした経験から得たもの、女子日本代表にもつなげられることとしては、忍耐が必要だということです。一夜にして何かを変えることはできないことを理解する。簡単に変えることはできないけれど、価値のあることは簡単にはいかないものなのです。難しいことですが、私は成功すると思っています。自分たちを信じること。ピースがそろい、全員が共通理解を持つまでに少し時間を与えてほしいと思っています。
WNBAでは2度の優勝経験を持つゲインズHC [写真]=Getty Images
――日本も速い展開を得意としていて、それは昔から大きく変わらない日本のスタイルです。
ゲインズ 当時のフェニックスには大型の選手もいましたが、WNBAの他チームと比べればサイズがあったわけではなかったので、女子日本代表とも大きな違いはありません。ある意味似たようなチームだとも思います。
オーガナイズ(組織化)されたカオス。「何をやっているんだ?」と相手チームを混乱させるようなペースだけれど、組織化されている。スピード感がある、走る、シューティングを強みとする、そういったチームにしていきたいと思っています。
組織化されたカオスは、規律を理解し守らなければなりません。規律はどのスポーツにおいても常に重要です。走り続け、オフェンスもディフェンスも攻め続けることは簡単ではないし、高いレベルを維持し続けることも難しいです。でも、共通理解を持ってハードにプレーし続けることはカギとなると思います。
ゲインズHCはチームづくりの哲学について熱く語った [写真]=野口岳彦
――6月に三井不動産カップが控えていますが、チーム作りで意識していることはありますか?
ゲインズ 人生における他のことと同じように、何事も段階を踏まなければなりません。赤ちゃんがハイハイをし、最初は少しつまずきながらも歩くようになっていく。そして走るようになる。それと同じようなステップを踏むことが必要です。あまり多くのことをやろうとするつもりはありません。私たちのアイデンティティを確実に見つける必要があって、それをみんなに知ってもらう。そこから成長していきます。NBAやWNBAでのコーチングや大学、NBAでのプレーと何事にも近道はなく、段階を踏まなければならない。三井不動産カップに向けても慌てたり、踏まなくてはいけない段階を飛ばしたりしないように、チーム作りをしていきたいです。
――日本で国際強化試合を行うことができる三井不動産カップの存在をどのように感じていますか?
ゲインズ このタイミングで試合ができることにとても感謝しています。それは選手のためにも、コーチのためにも、日本のバスケット、関係するすべての人のためになります。とても貴重な時間で、試合をすることによって練習以上のことを学ぶことができるからです。国際大会に出場するにあたって、何をしなければならないかがわかるし、やるべきことも見つかる。自分たちの進む道を見つける手助けになるのです。改めてこうした試合を毎年開催していただいていることに感謝しています。
――三井不動産カップではどういったバスケットボールを見せたいですか?
ゲインズ 国内のファンにとっては、女子アジアカップ(7月13日〜20日/中国開催)前に私たちのプレーを直接見ることができる絶好の機会だということは理解しています。(開催地の)中国に行くことができない多くのファンも私たちのプレーを見るために愛知に来てくれると思います。
男子日本代表で私がアソシエイトヘッドコーチを務めていたとき、ワールドカップが沖縄で行われました(2023年)。あのとき、ファンの方たちがものすごく情熱的で感情的でした。ファンのおかげで最後まで諦めることなく全力を尽くすことができたと思っています。日本のバスケットボールに男子も女子も関係ない。私たちは競争心があり、精神的に強く、日本チームとしてのプライドを持ちながら戦います。
女子日本代表が(2016年の)リオデジャネイロオリンピックに出場したとき、私はサンタモニカにいて、日本とアメリカの準々決勝をスポーツバーで見ていました。そこにはアメリカ人ばかりだったけれど、試合を見ていたみんなが日本チームに引き込まれていった。そこで私は「なぜ日本を応援しているの?」と聞きました。彼らは私が日本のバスケットボールと関係があることを知らなかったけれど、日本はとてもハードにプレーしていて情熱的だと言って応援していました。
あのときと同じように応援してくれる方たちにそういった感情を持ってもらいたい。勝つことはいいことだけれど、時にそうしたプレーを通して情熱を伝えることもメダルと同じくらいの価値があると思っています。日本チームはこれからも一生懸命、全身全霊を尽くしていきたいと思っています。
スタートした練習を見守る新指揮官 [写真]=野口岳彦
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