2019.05.25

車いすバスケ女子U25日本代表が地元タイに完勝し、2位通過で準々決勝へ

前線から当たる激しいディフェンスでタイを4点に抑え込んだ日本は決勝トーナメント進出を決めた [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

「女子U25世界車いすバスケットボール選手権大会」(タイ)は大会3日目の25日、予選プール最終戦が行われた。地元タイと対戦した日本は、スタートから主導権を握る展開に。後半に入ってシュートの確率が下がり、思うように得点は伸びなかったものの、それでも前半は相手をゼロに抑える好守備を見せて圧倒し、47-4でタイを破った。これで予選プールを2勝1敗とした日本は2位通過で、26日からの決勝トーナメントに臨む。

先取点に込められたキャプテン山﨑の思い

大会3試合目にして初の先発に名前を連ねたキャプテンの山﨑佳菜子 [写真]=斎藤寿子

 試合開始早々、日本の積極的なディフェンスがさく裂した。ボールマンに対して高い位置からジャンプアップする日本の強くしつこいプレッシャーに、タイはパスさえ容易に出せずに苦戦を強いられた。24秒バイオレーションやバックパスなどのミスを繰り返し、第1クォーターだけでタイのターンオーバーは18を数えた。

 一方、日本は前日のような確率の高さこそなかったものの、それでも相手のターンオーバーから得たチャンスにしっかりと決めるなど、得点を積み重ねていった。

 なかでも躍動したのが、キャプテンの山﨑佳菜子だ。この日、3試合目にして初めてスタメンに抜擢された山﨑。試合直前にしてスタメンに自身の名前があがった時には「思い切ってプレーしていこう」という気持ちが沸き上がってきた。と同時に「ヘッドコーチからのメッセージと受け取った」という。

 実は3月の合宿あたりから調子を上げきれずにいた山﨑。現地入りしてからも思うようなプレーができずに苦しんできた。それは傍目から見ても感じられた。特に初戦は最大の強みである「思い切りのいいプレー」が出ず、普段であれば積極的にインサイドにダイブする彼女だが、ボールが回って来てもすぐにパスをだしてしまうシーンが多く見られていた。

「ミスをすることを怖がっていた」という山﨑だが、「どんどんシュートを打っていいよ」というチームメイトからの激励に、徐々に積極性を取り戻しつつあった。そんな中でのスタメン抜擢に、「もっと自分らしさを出しなさい」という指揮官からのメッセージだと感じたのだ。

山﨑は「自分が先取点を入れる」と人知れず心に誓ってコートに出た。そして、試合開始直後にカットインプレーでチーム最初の得点を決めてみせた。その後も積極性を失わなかった山﨑は、たとえシュートが決まらなくても、その後すぐにリバウンドボールを取った相手に強くプレッシャーにいくなど、攻めのプレーでチームをけん引した。

指揮官の意図があった後半の”苦戦”

ドイツとの”負けられない戦い”に挑む女子U25日本代表チーム [写真]=斎藤寿子

 試合は日本が圧倒的な力を見せつけるかたちで進み、前半は相手に一度も得点を許さず、33-0で試合を折り返した。

 しかし、後半に入ると、一見、日本の勢いに陰りが出てきたように思われる試合展開に。特に第4クォーターではわずか得点は4にとどまり、相手には初めてミドルシュートを決められてしまう。いったい、何が起きていたのか。

 その第4クォーター、山﨑沢香HCはこれまでプレータイムが少なかった選手を中心としたラインナップで臨んだ。そして、ディフェンススタイルをガラリと変更したのだ。そこには決勝トーナメントに臨むにあたってのチームへの”戦略”が隠されていた。

 日本は前半で成功していた、早めに張り出してジャンプアップにいくスタイルから、インサイドケアを重視したディフェンスへと切り替え、確実にリバウンドを取って、そこから速攻へとつなげていくバスケへとシフトした。今後、決勝トーナメントで対戦するであろう強豪チームを想定しての対策だった。

「これまでは守備からリズムを作るということをしてきましたが、相手が強くなれば、それができない場合も十分に考えられます。そこで、高さのある相手を想定したディフェンスをしき、相手にシュートを打たれても、自分たちのオフェンスで立て直しを図れるような展開にしたいと思いました」

 ところが、実際にはパスのタイミングが合わなかったり、フィニッシュの確率が悪く、得点を伸ばすことができずに苦戦を強いられた。それでも山﨑HCは、ディフェンススタイルを元に戻すことなく、やり続けた。こうした実戦での経験が、明日以降に大きくつながると確信していたからだ。

「明日からの決勝トーナメントは、それこそ負けることのできない、より厳しい試合が続きます。その中で連勝で乗りに乗ってというよりも、悔しい思いを抱きながら、しっかりと強い気持ちを持って臨むことができるのではないかと思います」

 予選プールを2勝1敗とした日本は、明日26日の準々決勝で、もう一方のプールの3位ドイツと対戦する。そのドイツ戦に対して、山﨑HCはこう語る。

「高さとパワーではドイツの方が上回りますが、日本の強みである細かいチェアスキルからのスピードに乗ったプレーというところで十分に対応することができる。あとはお互いのシュート確率での勝負になるのかなと思っています」

 予選プール3試合でのフィールドゴール成功率は、日本が36%に対し、ドイツは23%。日本が上回ってはいるものの、決していい数字とは言えない。そして、強豪との対戦が控える準決勝以降を考えれば、さらに確率を高めることが不可欠だ。

 いよいよ幕が上がる”負けられない戦い”。その初戦のドイツ戦は、日本時間12時(現地時間10時)にティップオフだ。

文・写真=斎藤寿子

試合の模様は「女子U25世界選手権公式HP」でライブ配信されています。
https://www.youtube.com/user/iwbforg/featured

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