2022.09.16

車いすバスケ男子U23世界選手権…スペインに雪辱を果たし、史上初の金メダルに王手!

U23では2005年以来となる決勝進出を果たした車いすバスケ男子日本代表 [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 9月15日、タイ・プーケットで開催されている男子U23世界選手権は準決勝が行われ、日本は予選リーグで唯一黒星を喫し、19点という大差で敗れた強豪スペインと堂々と互角に渡り合った。最後は約2分間、相手に得点を与えずにリードを死守した日本。53-51で競り勝ち、U23では2005年以来となる決勝進出を決めた。

エースにファウルトラブルを起こした日本の守備力

 劇的勝利を呼び込んだのは、スペインの高さを上回った日本の粘り強いディフェンス、そしてメンタルの強さだった。

 2日前の予選リーグ最終戦、日本は52-71と完敗に近い結果で、スペインに敗れた。エースのイグナシオ・オルテガに36点を奪われ、最後まで彼を止めることができなかったことが最大の敗因だった。

 再戦となったこの日も、第1クォーターでオルテガにフィールドゴール成功率70パーセント、14得点を挙げられたが、実はオルテガ以外の選手には1点も与えていなかった。この時点で、スペインはエース頼りという手数の無さが露呈し、苦しい状況に追い込まれていく。逆に、日本はオルテガのペイントアタックを止めることにフォーカスできたと言えるだろう。

粘り強いディフェンスが日本に流れをもたらした [写真]=斎藤寿子

 すると第2クォーターでは、エースのオルテガの得点がピタリと止まった。予選リーグや第1クォーターで許していたベースラインからのペイントエリアへの侵入を、しっかりとブロックできたからだ。この日本のディフェンスに苦戦を強いられたオルテガは、思うようにプレーできないことにいら立ちを募らせたのだろう。第2クォーターだけで3つのファウルを重ね、自らの首を絞めてしまう。結局、オルテガのフィールドゴール成功率は43パーセントにまで落ち込んだ。

 オルテガ以外の選手も、ミスが相次いだ。立て続けにオフェンスファウルをしたかと思えば、パスミスやトラベリングなどで自らチャンスを潰した。いかに日本のディフェンスが効いていたかがわかる。

 一方、出だしからしっかりとディフェンスが機能していた日本は、オフェンスにもいい流れが生まれた。特にスタートから気を吐いたのが、クラス4.0のハイポインター髙柗義伸だ。インサイドからアウトサイドから、次々とシュートを決め、前半20分でチーム最多の14得点を挙げて勢いをもたらした。日本は29-24でリードして試合を折り返した。

クラス4.0のハイポインター髙柗義伸がオフェンスをけん引[写真]=斎藤寿子

苛立つスペインに対し集中力を切らさなかった日本

 第3クォーターの序盤、ついにオルテガが4つ目のファウルを取られ、ベンチに下がった。そこで日本は伊藤明伸を投入し、ハーフコートからオールコートのプレスディフェンスに切り換えた。「オルテガがいない間に、一気に攻勢をかけよう」というのが京谷和幸ヘッドコーチの狙いだった。

 ところが、オルテガが不在となったとたんに、そのほかの選手たちが奮起し始めたため、プラン通りに日本は突き放すことはできなかった。それでもなんとか凌ぎ、42-41で最終クォーターを迎えた。

 スターティング5のメンバーに戻した第4クォーターの序盤、スペインに連続得点を奪われ、日本はついに逆転を許した。しかし、選手たちが慌てることは決してなかった。なぜなら試合前、京谷HCからこう伝えられていたからだ。

「スペインは強い。だからリードを奪われる時間帯もあると思う。それでも自分たちのやるべきことを淡々とやり続けよう」

対戦相手ではなく、自分たちのプレーにフォーカスすることを説いた指揮官 [写真]=斎藤寿子

 指揮官の指示通り、選手たちはその後も「ディフェンスで世界に勝つ」そして「速いトランジションで走り勝つ」という日本のバスケットを貫き通した。すると、この日好調だった髙柗がこのタイミングで再び存在感を示して、ゴール下のシュートを決めて47-47と同点とする。すると、今度は味方のスティールからのチャンスに速攻で逆転のレイアップシュートを決めてみせた。

 しかし、スペインも粘りを見せ、その後すぐに同点に追いつき、一進一退の攻防が続いた。残り2分となって、髙柗のミドルシュートが決まり、53-51。すると、最後の最後にスペインが痛恨のミスを犯した。お互いに追加点を奪えないまま時間が過ぎていき、残り10秒で日本がファウルし、スペインボールとなった。スローインからのボールを受けた選手が誤ってラインクロスをしてしまったのだ。プレッシャーをかけてライン際に追い込んだ古崎倫太朗の守備力が生み出したものだった。

 残り時間は8秒。スペインはファウルゲームをしかけ、残り6秒でチームファウルが5つに。宮本涼平がフリースローを2本ともに外したものの、リバウンドから速攻へとつなげようとしたスペインのボールを鳥海連志がカット。これで勝敗が決した。日本は2点差を死守し、スペインに競り勝った。

最後は鳥海のスティールで日本が接戦を制した[写真]=斎藤寿子

「本当によくやってくれました。おそらく今大会一番オフェンス力があるスペインに対して、50点台のロースコアに抑えたというのは素晴らしかったと思います。でも、それは試合に出ている選手だけではなく、大きな声を出し続けてくれたベンチの選手たちやスタッフも含めてのもの。全員で勝ち取った勝利だと思います」(京谷HC)

 日本の車いすバスケットボール界で、過去に決勝に進んだ“世界一決定戦”は2005年のU23世界選手権、そして昨年の東京2020パラリンピックの2回。いずれも銀メダルで、それが日本の最高成績として輝きを放ってきた。その歴史を塗り替え、史上初の快挙を達成できるか。トルコとの決勝は、16日17時半(日本時間)ティップオフだ。

ベンチメンバーやスタッフは、コート上の選手たちを鼓舞し続けた[写真]=斎藤寿子

 取材・文・写真=斎藤寿子

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