2022.09.17

車いすバスケ男子U23世界選手権…「ディフェンスで世界に勝つ」を体現し史上初の金メダル獲得!

日本の車いすバスケ界に初の世界大会金メダルをもたらしたU23男子日本代表 [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 9月7日にタイ・プーケットで開幕した男子U23車いすバスケットボール世界選手権は16日に最終日を迎え、日本はトルコとの決勝に臨んだ。第4クォーターの終盤まで一進一退の攻防が続く死闘が繰り広げられた中、日本は粘り強いディフェンスで凌ぎ切り、わずかなリードを死守。トルコの猛追をかわして52-47で勝利を挙げ、初優勝を達成した。世界一決定戦での金メダルは、日本車いすバスケットボール界史上初の快挙で、若き精鋭たちが新たな歴史を刻んだ。個人では、全8試合中2試合でトリプルダブル、そのほかの6試合もダブルダブルを達成し、チームをけん引した鳥海連志がオールスター5に輝いた。

ビッグマンに仕事をさせなかった日本の守備力

日本は試合開始からディフェンスでペースをつかんだ [写真]=斎藤寿子


「高さだけがバスケットじゃない。小さくてもやれるんだということを世界に示したいと思っています」

 決勝の前日、京谷和幸ヘッドコーチがそう宣言した通り、日本は第1クォーターから高さのある相手に対してディフェンスで試合をリードした。今大会、試合を重ねながら磨き上げてきたのが、チームが“フラットディフェンス”と呼ぶスタイル。相手のオフェンスの時間を削ることを目的にフロントコートで横一列にフラットの状態に並びながらバックコートへと下がり、スリーポイントラインからボールマンにジャンプアップしていくというディフェンスだ。オールコートのプレスディフェンス一辺倒から打破し、ハーフコートのフラットディフェンスが機能するかが、優勝へのカギを握っていた。

 このディフェンス、後に決勝で相まみえることとなる予選リーグでのトルコとの対戦では、日本の武器というには時期尚早の状態で、第1クォーターの前半で11点と大きなビハインドを背負い、すぐにプレスディフェンスへの切り替えを余儀なくされた。しかし、徐々に修正を加え、今大会唯一の黒星となった予選リーグ最終戦のスペイン戦で手応えを掴むと、決勝トーナメントに入ってからはしっかりと機能し、結果にもつながることで大きな自信をつけていた。

 トルコとの再戦となった決勝では、そのフラットディフェンスがしっかりと機能し、第1クォーターの10分間、2人のビッグマンから一度もペイントエリアでの得点を与えなかった。トルコにしてみれば、初戦との違いに驚いたに違いない。それほど日本の成長ぶりはすさまじかった。

 オフェンスではフィールドゴール成功率27パーセントと、日本の得点も伸び悩み、10-8とロースコアでの接戦となった。しかしオフェンスが持ち味のトルコに対し、日本はディフェンスがカギを握っていたことを考えれば、この展開はむしろ日本が主導権を握っていたと言っても良かった。実際、鳥海も「第1クォーターから日本がディフェンスでリードし、相手がいら立っていることを感じていた」と語っている。

 続く第2クォーターでは中盤に古崎倫太朗と伊藤明伸を投入し、日本は一転、世界トップにあるスピードとクイックネスを生かしたプレスディフェンスに切り換えた。中盤には約2分間相手の得点をゼロに抑え、その間に古崎が2本のミドルシュート、さらにはフリースローも2本とも確実に決め、日本に流れを引き寄せた。一気に引き離したいところだったが、トルコも終盤に3ポイントシュートを決めてくるなどして追い上げ見せ、26-22と日本がわずかにリードして試合を折り返した。

激闘に終止符を打った赤石のフリースロー

チームをけん引した赤石が勝利を導くシュートを決めた [写真]=斎藤寿子


 第3クォーターに入ると、今度はトルコが新たなカードを切った。クラス4.0、4.0、4.0、1.0、1.0というハイポインターのビッグマン3人を擁する布陣で臨んできたのだ。得点源が増え、日本にとっては難しいディフェンスとなった。しかし、ハーフコートのフラットに戻した日本のディフェンスはビッグマンのペイントエリアへの侵入をブロック。トルコが狙っていたゴール下でのシュートシーンの芽を摘んだ。

 逆に日本は、鳥海、赤石竜我、髙柗義伸の東京2020パラリンピックメンバーに加えて、スターティング5の一員である塩田理史にも得点が生まれ、引き出しの多さを見せつけた。とはいえ、第3クォーターを終えた時点で39-35と日本のリードはわずかで、勝敗の行方はまったくわからなかったと言える。

 迎えた第4クォーターも両者ともに一歩も譲らない接戦となった。中盤、日本は10点差をつけて引き離しかけたものの、終盤、日本の得点が伸び悩む中、トルコの猛追にあった。ディフェンスリバウンドから、さらには日本のターンオーバーからの速攻を決められるなど嫌な形で得点を奪われ、残り30秒で49-45に。

 そんな嫌な流れを断ち切り、勝利を引き寄せたのは赤石だった。ファウルゲームを仕掛けてきたトルコに対し、赤石はフリースローをまずは1本決めて50-45に。すぐにトルコにゴール下でのシュートを決められ、3点差に迫られたものの、残り15秒で今度はフリースローを2本ともに決めてみせた。

 これで3ポイントシュートでも届かない5点差とし、勝敗が決した。結局、日本はリードして第1クォーターを終えた以降、一度も逆転を許すことなくリードを守り切っでの勝利。このトルコとの激闘を制した勝因について、京谷HCはこう語った。

「得点が思うように伸びなかったので苦しい展開になりましたが、それでも要所でとりこぼしがなかったことが大きかったと思います。そして何と言ってもディフェンス。試合を重ねるごとに良くなっていたフラットディフェンスは、今日も出だしから非常に良かった。相手のハイポインターがアタックをかけたくてもかけられず、思うように攻められなかったことが勝因だったと思います」

京谷HCは選手を称えるとともに「何と言ってもディフェンス」と勝因を語った [写真]=斎藤寿子

 2005年のU23世界選手権、そして昨年の東京2020パラリンピックでの銀メダルが最高成績だった日本の車いすバスケットボール界の歴史を塗りかえ、史上初の金メダル獲得という快挙を成し遂げたU23日本代表。主力に限らず、ベンチメンバーにとっても、今大会の経験が競技人生のターニングポイントとなることだろう。

 東京2020パラリンピックに出場したメンバーでは、赤石や髙柗のほか、現男子日本代表キャプテンの川原凜、古澤拓也、岩井孝義と、前回のU23世界選手権での活躍を機に飛躍したメンバーも少なくない。果たして、今大会からは誰が2024年パリパラリンピックを目指すA代表へと台頭するのか、注目に値する。

 さらに、こうした若手の活躍は、ベテラン勢にとっても大きな刺激を与えたに違いない。国内での競争が激しさを増すことは間違いなく、日本代表の強化につながるはずだ。今大会の快挙が、日本車いすバスケットボール界への追い風となることを期待したい。

取材・文・写真=斎藤寿子

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