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『B MY HERO!』
11月7日から15日にかけて、タイ・バンコクでは車いすバスケットボールの『2025 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)』が開催された。『パリ2024パラリンピック』後、添田智恵ヘッドコーチと元安陽一アソシエイトヘッドコーチの下、新体制で強化を図ってきた女子日本代表は準優勝し、上位2チームに与えられた世界選手権への出場権を獲得。『ロサンゼルス2028パラリンピック』に向けて順調な滑り出しとしたなか、チームには大きな収穫があった。
今大会、女子は9カ国が出場し、まずは2つのディビジョンに分かれて予選リーグが行われた。日本が入ったディビジョンAでは、中国、オーストラリアの3カ国で2試合ずつを行い、その順位に従ってディビジョンBの1位チームを加えて行われた決勝トーナメントの組み合わせが決定。日本は3勝1敗で中国と並んだが、得失点差で2位となり、世界選手権への切符がかかった大一番の準決勝ではオーストラリアと対戦した。
予選リーグでは、オーストラリアに連勝してはいたものの、1試合目は51-50、2試合目も44-40といずれも僅差での勝利だった。準決勝もやはり最後までどちらに軍配が上がるかわからない手に汗握る激闘が繰り広げられた。
両チームの戦い方は真逆と言ってよかった。固定したメンバーを起用し続けるオーストラリアに対し、日本は第1クォーターからめまぐるしく選手を交代させた。実は日本には絶対に勝たなければならないこの試合に向けて、予選リーグから投じていた布石があった。試合後、添田HCはこう明かした。
「オーストラリアとはこれで3試合目でしたが、うちは1試合目から若手も使ってメンバーチェンジをしながら40分間、しっかりと強度の高いディフェンスをやり続けてきました。だから3試合目になったらオーストラリアは疲れてくるだろうと考えていました」

高さで勝るオーストラリアを封じた日本のディフェンス[写真]=斎藤寿子
その狙いは的中した。第4クォーターの後半、オーストラリアの得点がピタリと止んだのだ。一方、第3クォーターまでプレイタイムをシェアした日本は、最も大事な最終クォーターでフレッシュな状態で主力を投入することができていた。37-42と5点ビハインドの状況から試合時間残り3分、柳本あまね(2.5)、財満いずみ(1.0)、北田千尋(4.5)と3連続得点で逆転。さらにオーストラリアから8秒バイオレーションを奪うなどして最後までディフェンスの手を緩めなかった日本は、網本麻里(4.5)のフリースローでの1点を加えて44-42と競り勝った。
オーストラリアとは接戦になることを予想し、準決勝の最後の第4クォーター後半が勝負どころとなることを見越していた日本の戦略勝ちと言える一戦だった。そして指揮官の思惑通りとなった背景には、日本には誰が出ても40分間やり続けることのできるディフェンスの強さがあったからにほかならない。

選手としてパラリンピック銅メダルの経験を持つ添田HC[写真]=斎藤寿子
「これまでオフェンスがうまくいかなくてもディフェンスの手を抜かなければ必ず流れはくるという試合を経験してきました。だからディフェンスに対して高い意識をみんなが持ってやり続けてくれました。それが最後の最後、勝利につながったのだと思います」と添田HC。それは、スタッツにも表れている。
この試合、日本のフィールドゴール成功率は25.9%と低空飛行の状態が続き、決してオフェンスがうまくいっていたわけではなかった。一方のオーストラリアのFG成功率は40.8%。シュート力は相手の方が優れていたと言ってよかった。しかし、アテンプトは日本が58に対して、オーストラリアは49と、日本は相手にチャンスを与えなかった。高さで上回るオーストラリアをゴールから遠ざけるディフェンスが勝利をもたらした一戦だった。
翻って、オフェンスの成果を発揮したのは、中国との予選リーグ初戦だった。ハーフコートでは両サイドのアウトサイドでシュートチャンスをつくるセットオフェンスを軸としてきたこれまでとは違い、5人全員が1対1からペイントアタックをすることをベースにした新しいスタイルのオフェンスで、日本は中国を翻弄した。

27得点でチームをけん引した北田[写真]=斎藤寿子
さらに日本がシュートチャンスを作るだけで終わらず、しっかりとタフなショットも決め切ったことも大きかった。特に最もアテンプトが多かった北田がフィールドゴール成功率45.8%、27得点と高確率で決めたことがチームを勢いづけたことは間違いない。網本、柳本もそろって10得点と、”決めるべき人が決めた”一戦となり、日本は51-44で勝利。中国戦での白星は、2013年AOCの予選リーグ以来、実に12年ぶりのことだった。
しかし、10年間アジアオセアニアの王座に君臨してきた中国が、このまま黙っているわけはなかった。聞けば、予選リーグ2試合目の日にはお昼からの試合を前に朝6時から練習をするほどの気合いの入れようだったという。そして日本のお株を奪うようなラインディフェンスで日本の攻撃を封じた。1試合目には57だった日本のアテンプトは、この日は42にまで激減。フィールドゴール成功率も26.2%と低迷した。
逆に中国は日本のラインディフェンスを攻略してきた。オフェンスに転じるとハイポインターが真っ先に走ってラインを突破することで日本のディフェンスを下げさせ、自分たちが得意とするハーフコートオフェンスの形にもっていくことで得点を伸ばしていったのだ。この試合、25-56と完敗した日本は、決勝でも中国の攻撃を止めることができず、34-58で敗れた。
結局、中国には力負けした感は否めないものの、それでも日本にとっては大きな収穫が得られた大会となった。世界トップレベルの中国と3試合したことで、今後世界と戦ううえで進む方向が明確となったからだ。中国のように高いシュート力を持つ相手に対しては、3ポイントラインより中で勝負する形にした時点で失点は免れない。勝機を見出すためにはいかに相手をゴールから遠ざけ、攻撃の時間を削るディフェンスが必須で、それは日本がこれまでやってきたことでもある。つまり、日本の狙いや進んできた道は間違っていない。そのことが証明された大会でもあった。

新体制で挑んだ国際大会で手ごたえを得た日本代表[写真]=斎藤寿子
「(ゴールに近い)あそこを取られた時点で負け。だから取られないディフェンスを強化したいと思ってやってきましたが、今はまだまだのレベルだったということ」と添田HC。そして、こう続けた。
「ただ、これまで積み上げてきたディフェンスは、どの試合でもしっかりとやり続けてくれましたし、最後までやり切ってくれました。何より世界選手権の出場権を獲得したということが、このチームにとって一つ、大きな収穫でした。しっかりと挑戦できたからこそ課題も再確認することができました。選手も自信になった部分もあったと思いますので、また来年の世界選手権に向けて、全員で強化していきたいと思います」
来年9月、カナダ・オタワで開催される”世界一決定戦”の舞台で、さらに成長した女子日本代表の姿が見られることを期待したい。
取材・文=斎藤寿子