2025.07.23

馬場雄大「すべてが楽しかった」…最後かもしれないNBAサマーリーグに笑顔

最後かもしれないサマーリーグを楽しんだ馬場雄大 [写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住ライター

渾身のプレーで魅せた、ラスベガスの5試合

馬場は無私の姿勢でサマーリーグに参加 [写真]=山脇明子

「失うものは何もなかったので本当に思いっきり、最後の気持ちで取り組もうということと、楽しむことが一番。悔いを残すことなく思い切りってやろうというところはありました」

 NBAサマーリーグでニューヨーク・ニックスの一員として参加した馬場雄大は、3年ぶり自己3度目のサマーリーグを迎えるにあたって、そんな気持ちで毎年7月にラスベガスで行われるNBAの登竜門に挑んだ。

 初戦のデトロイト・ピストンズ戦で最後の1分31秒の出場ながらオフェンスリバウンドを2本奪い、2戦目のボストン・セルティックス戦では最後の2分50秒の間に速攻からのレイアップ2本とフリースロー1本の5得点、さらに体を張った好守からオフェンスファウルを奪って味方の攻撃につなげた。試合自体は、第2クォーター終盤から常に2ケタ差をつけられており、第4クォーター序盤にはこの試合最大の20点差とされるなど、馬場が出番を得た時点で71−90と19点差だった。

 しかし、サマーリーグといえども“ニックス対セルティックス”という伝統の対決に足を運んだファンは多く、そんなファンにとって早くから一方的な展開となっていた試合の最後の数分で、1秒も無駄にすることなく全力でプレーした馬場の姿は刺激的だった。馬場への歓声は次第に大きくなり、オフェンスファウルを引き出したときには、会場が「馬場!馬場!」と馬場コールに包まれた。

 3戦目の対ブルックリン・ネッツは出場機会がなかったが、4戦目のインディアナ・ペイサーズ戦ではスターターとして出場、フル出場した第2クォーターにプルアップジャンパーを決めると第3クォーター序盤には3ポイントとリバースレイアップを連続で成功。第4クォーター中盤にはスティールを奪ってそのままレイアップに持ち込み、27分36秒の出場で9得点、1リバウンド1アシスト1スティール。チームは3点差で敗れたが、途中で一度ベンチに下がった第4クォーター、接戦の最後約3分で再びコートに呼ばれ、勝ちを争った。最終戦の対ワシントン・ウィザーズでは、第2クォーター途中から15分44秒の出場。すべて3ポイントで、4本のフィールドゴールを外してしまったが、1リバウンド3アシスト。今サマーリーグで出場した4試合の1試合平均は、11.9分のプレーで3.5得点1リバウンド1アシストだった。

 2022年以来のサマーリーグを終えた馬場は、「楽しかったですね。それが一番だったかなと思って。久々にアメリカに来て、NBAの登竜門と言われるサマーリーグでプレーできて、一日一日、本当に充実した時間を過ごしました。うまくいったことだったり、いかなかったことことだったり、というのもありましたけど、すごくいい経験だったと思います」と充実感を滲ませた。

 そして、どの部分が一番楽しかったのかを問うと、こんな答えが返ってきた。

「もう、すべてです。サマーリーグは正直、もうラストだと思っているので、サマーリーグ独特の、このラスベガスで行われる雰囲気で、本当にベンチに座った瞬間とか、コートに出た瞬間、全瞬間をすごく楽しみながらやってました」

 実は、29歳の馬場は、今サマーリーグ開幕時点で登録されている選手の中で、最年長だった。サクラメント・キングスのジョン・エルモアが唯一馬場と同じ1995年生まれで、馬場より1カ月あまり誕生日が遅い。

 最年長であることに関しては、「何であっても一番ってうれしいじゃないですか(笑)。だから一番年上ってことで、正直、逆に嬉しかったですね。アジア人で、アメリカのサマーリーグで一番年齢が上でも、こうやってチームに入れてもらってやらせてもらっているというところは、正直うれしかったです」と笑顔を見せた。

馬場が見せたベテランの風格

笑顔でメディア対応を行った馬場 [写真]=山脇明子

 オーストラリアNBLのメルボルン・ユナイテッドでプレーした2020−21シーズンと2021−22シーズンの一部を挟んで、2019−20シーズンと2021-23年をダラス・マーベリックス傘下のテキサス・レジェンズに所属(2021−22シーズンは新型コロナウイルス感染後の検査結果により、12月に「シーズンエンディング負傷者リスト」入り。その後メルボルンに復帰)、2023−24シーズンからBリーグの長崎ヴェルカでプレーしている馬場は、23年のワールドカップと昨年のパリ・オリンピックがあったため過去2年は出場できなかったが、「サマーリーグに出たいという話を昨シーズンからしていて、エージェントとコミュニケーションを取っていた」と言う。そして、選択肢があった中、「ドラフトが終わったぐらい」にニックスに決まったという連絡を受け、今回の出場に至った。

 最年長らしき面もコートで見せた。ニックスを指揮したジョーダン・ブリンクヘッドコーチは、「雄大はとても素晴らしく、堅実だ。このチームには17人のロスターがいるので一部の選手にとっては出場機会を得るのが難しいが、彼はずっと良かったし、彼自身もそれをわかっている。雄大は一生懸命プレーし、頼りになる堅実な選手。正しいプレーをする」と話した。  

 アピールの場であるサマーリーグでは自我が出てしまう選手も多く、スターターで出場したペイサーズ戦では第1クォーター、ほとんどボールを触らなかったほどパスが来なかった。その中で馬場は、「数字に残るところというのは考えていましたが、結局コーチが安心して見ていられる選手になりたいと思い、自分の中で、“正しいプレー”というところに導き出しました。NBAはスター選手がいて、周りはロールプレーヤーで固めるというところです。(たとえサマーリーグで多く得点しても)NBAでサマーリーグでやっているようなプレーができるわけではないので。そういうところでは、常に視野を広げてやってました」とベテランの風格を漂わせた。

 アメリカを離れ、長崎でプレーした過去2シーズンも「いかに自分の限界に常に挑戦できるかというところで日々過ごしていました。自分の限界値を上げていくというところの戦いだったので、NBAどうこうって考えるよりは、本当に自分との戦いで過ごしていました」と言う。

「BリーグはBリーグならではの難しさというか、やりづらさもあったので、そこのアジャストは正直大変でした。その中で、本当に100パーセント自分の納得できたプレーがBリーグでできているかと言われると、そうでもないので。そういった意味では本当に毎日自分への挑戦で、昨日よりも今日、今日よりも明日という思いで、自分と戦っていました」と常にチャレンジしてきた日本での過去2年を振り返った。

 それだけに3年ぶりのサマーリーグは、「感覚的には、選手としても(過去2回のサマーリーグと比べて)今が一番いい状況だと思っていて、キャンプ初日、練習に入ったときから自分の思ったことをコートで表現できていましたし、自分の感覚とパフォーマンスというのが、すごくつながっていたと感じました。NBAまでの距離感というところで、もちろんまだまだ伸ばしていかなければいけませんが、通用した部分もあったと思っています」と手応えも掴んだ。

 サマーリーグも最後だと決めたわけではなく、「最後というふうに思っていますが、流れでまた出るかもしれない」と言う。そして、サマーリーグに出ようが出まいが、その間どこでプレーしようが、決して変わらないことがある。

 それはNBA。バスケットボールの「てっぺん」でプレーしたいという思いだ。

「そこはブレてないです」

 29歳のベテランは、はっきりと言った。

文=山脇明子

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